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120.並び立つ勇姿

 背を任せるに足る、信頼を置いた者達に後を任せ、魔王と場違い娘は奥へと進む。

 長い長い回廊を抜け、階段を上り切った果てに魔王は遂に辿り付く。

 突き当たりであるこの広間にもまた、室内を照らす魔法の光で満たされており、その先に待ち構える影。


「――来たか……待っていたぞ魔王」


 豪華な装飾をあしらった、見る者全てに力強さを感じさせる鋼の鎧で全身を包んだサクリフ。

 魔王を視認し、待ちかねたとばかりに呟く。

 頭部には僅かに赤みを帯びてはいるが、黒色と言った方が正しい。

 そんな色合いの冠を頭上に被っている。


「……誰だその小娘は?」

「答える必要性を感じないな」


 この場に非常に似つかわしくない、小さな愛らしい姿のくせに妙に威圧感のある魔力を放つ存在に気付き、

 訝しげに少女を見やるサクリフ。

 サクリフの問いを真っ向から切り捨てるアーニャ、もといリズレイス。


「貴様が諸悪の根源のようだな。さて、何か弁明はあるか?」

「弁明? 何故この俺が弁明せねばならんのだ?」


 魔王がサクリフに対し、弁明の時間をくれてやるとばかりに問い掛けるが、サクリフはそれを鼻で笑い一蹴する。


「そうか。ああ気にするな、念の為聞いただけだ、こちらの身の振り方は変わらんからな」


 ティルフィングを鞘から引き抜き、右腕を真っ直ぐ伸ばし、サクリフ目掛け切っ先を向ける魔王。


「我が民を操り傀儡にし、この地を混乱させた償いはして貰うぞ」

「償い、か。調子に乗るなよ魔王! 武器の力に頼って玉座に至った腑抜けが威張るな! 最早貴様に武器というアドバンテージなど存在しない!」


 魔王の言葉に怯む事なく、一振りの剣を抜き放つ。

 柄には手を守るハンドガードが付いており、刃渡りは1メートルには及ばない程度か。

 刀身は白銀の光沢を放っており特に変わった見た目ではないのだが、

 剣から迸る黒い魔力の渦が、ただの剣ではない事を雄弁に物語っている。


「その名を持ちて王を屠れ! アロンダイト!」


 その剣の真名を口にした途端、サクリフの手にした剣が紫色の魔力を帯びる。

 反旗の剣の真の力が開放され、広間全域におびただしい程の魔力を振り撒く。

 アロンダイトを振りかぶり、一足跳びで一気に魔王との距離を詰めるサクリフ。

 抜き放たれた暴力の刃を、抜いていたティルフィングで咄嗟に受け止め、鍔迫り合う。


「良い玩具を手に入れてご機嫌なようじゃないか。こんな代物を何個も何個も、一体何処から引っ張り出した?」

「胡散臭い優男が勝手に献上してきただけだ。何を考えてるかは知らんが、使える物なら何でも使うさ!」


 切り結び、力と力のせめぎ合いに持ち込まれたが、直接的な力では魔王よりサクリフの方が僅かに上のようである。

 徐々に押し込まれる現状を、サクリフ目掛け放たれた氷の魔力が横槍を入れて打破する。


「ッ……! タダの小娘じゃないな! 何者だ!?」

「答える必要は無いな、この魔族の地を乱す輩は斬って捨てる!」

「同感だ!」


 魔王を援護するべく、リズレイスの放った氷の刃はサクリフを捉える事は無かった。

 咄嗟に後ろに飛び退き、直撃を避けたからである。

 リズレイスの啖呵に同調する魔王。


「サシで決着を付けたかったが、二人なら勝てると思うてか!」


 自らの目論見が外れたサクリフ。

 だがその表情には焦燥感は浮かんでおらず、余裕を残している。


業魔緋炎刃(ごうまひえんじん)!」

「射抜け氷槍! フリーズランサー!」


 直接切り結び、接近戦をするのは少々心許無いと断じた魔王は、

 即座に遠距離からの攻撃へと移行する。

 逆袈裟気味に振り抜いたティルフィングの一閃、そこから弧を描くように放たれた炎の魔力が刃と化し、サクリフ目掛け飛来する。

 リズレイスもまた、魔王に追従するよう遠距離から氷の魔法による援護射撃で追撃する。

 魔王と魔王であった者が放つ一撃、それは並みの戦士であらば一撃で灰燼と化し、防ぐ事叶わす刺し貫かれる強烈な一撃。

 しかしそんな攻撃を前にサクリフは動揺一つ見せず、自らの頭上までアロンダイトを振り上げ。


剛波一閃(ごうはいっせん)ッ!」


 覇気のこもった掛け声と共に、唐竹割りの如く振り抜いたアロンダイトの一閃。

 風圧は刃となり、剣の叩き付けられた地面は衝撃で隆起し、

 一直線に指向性を与えられ目の前の敵を喰らうべく襲い掛かる!

 魔王は右へ、リズレイズは左へとその一撃を避けるが、

 二人がいた場所は見るも無残に砕かれ裂かれ、そのままこの場に立っていればタダでは済まなかったであろう事実を淡々と物語っている。

 厄介な。

 そう吐き捨てる魔王。


「真名開放か、こっちも出来ればあの程度の輩に遅れは取らぬのだが……」


 真名開放。

 それは、強大な魔力を秘めた武器の引き金を引く行為である。

 一部の名立たる武器は、普段はその溢れんばかりの魔力を温存するべくセーブしており、

 その武器の真名を開放する事で秘められた力を解放する事が出来る。

 封じられた状態と真名開放が行われた状態では比べるのもおこがましい雲泥の差程に差があり、

 名剣、魔剣、聖剣と呼ばれる類の代物はこの真名開放をせねば真の力を発揮する事は無い。


 それは魔王の持つ魔剣ティルフィングも同じであり、

 普段は黒い剣であるこの剣も、真名を解き放つ事で本来の黄金色の輝きと能力を取り戻す事が出来る。


「……使う訳には、行かん」

「無理強いなどせんよ、そのティルフィングの呪われし力は良く知っているからな」


 だが、ティルフィングは持ち主の願いを叶えるというその強大にして圧倒的な力と引き換えなのか、

 三度持ち主の願いを叶え、その命を奪うという呪われたような特徴を併せ持っている。

 魔王は既にティルフィングの真名開放を二度行っており、

 次にそれを行う時は自らが死ぬ時でもある。

 それ故に魔王はティルフィングの真名開放を躊躇っており、またそれも仕方ない次第であろう。


「これが俺の力だ! 軟弱者とは違う、真の魔王たる圧倒的な力! サミュエル、貴様を討ち滅ぼし、このレオパルドの地を新たなる魔王として治める! そしてゆくゆくは人間どもを皆殺しにし、ファーレンハイト、ロンバルディア、ラーディシオン、この世界全土を我が物とし! 絶対強者として我が名をこの世界に刻むのだ!」

「愚かな! そんな無計画な殺戮の果てに、未来など無い!」

「黙れ小娘ェ! 人間風情が魔王になるこの私に気安く話し掛けるな!」


 自らの野望を捲くし立てるサクリフ、そんな彼を糾弾するリズレイスだが、

 その言葉が届く訳も無く、一喝されてしまう。

 魔王になるというその言葉に、現魔王であるサミュエルが怒りを隠し切れぬ口調で続ける。


「旧時代の老害が、魔王の名を語るな……! 戦う力の無い者の剣となり、その身を粉にして戦い続けた! そんな先代魔王、リズレイスの在り方に私は真の王たる素質を見た! あれこそが私の目指す、真の魔王だと! 己が欲望に任せるがままに力を振るう者に、魔族の王を名乗る資格など無い!」

「貴様に資格を問われる筋合いは無いわ!」


 魔王とサクリフが問答を繰り広げている、その時であった。

 魔王達が来る際に通った回廊から飛び込む一人の少女の姿。

 前もって回廊から加速していた為、トップスピードのままこの広間に躍り出る!

 その勢いを保ったまま、少女はサクリフの懐目掛け飛び込んだ!

 完全に不意を突かれ、咄嗟に手にした剣を少女目掛け振り下ろすが、既に時遅し。


天舞聖連斬(てんぶせいれんざん)ッ!」


 光の魔力を乗せた、勇者の剣による怒涛の波状攻撃。

 まるで舞踊の如く舞う斬撃の閃きが、全てサクリフの胴体へとクリーンヒットする。

 サクリフの身体に付けていた鎧がその攻撃をある程度防いだが故に、

 この不意打ちは致命傷にこそなりはしなかったが、勢いを殺し切れずにサクリフはその巨躯を大きく吹き飛ばされ、壁へと叩き付けられた!


「覚えたばかりの魔法剣ではまだこの程度か……!」


 舌打ち一つ吐き捨て、澄み切った空色の瞳でサクリフを睨み付ける。


「魔王に同意する気など無いが――この世に混乱と災厄を振り撒こうとする貴様を見逃す訳には行かない!」


 幼さ、悪く言えば幼稚さが残っていた言動は今やなりを潜め、

 その目、佇まい。何が彼女を動かしたのか、今やその姿に昔の面影は無い。


 己が成すべき事、その根本を確信し、彼女は『勇者』である為に動き出した。


「罪無き者達を苦しめる、悪しき者を討つ! それこそが勇者の務め! 我が名、アレクサンドラの名に賭けて、貴様を倒す!」


口内炎が痛い

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