117.巨岩将ハルコン
動揺の走った反乱分子を抑えるべく、魔王軍達は中庭で奮闘を繰り広げる。
更にはその魔王軍に加勢するべく、破壊された扉の奥、その城内から100を優に超えるであろう甲冑達が現れる。
甲冑はどうやらハルコンと呼ばれている四天王の指示に従っているようで、
その巨腕を振り上げ、反乱分子達を指差し指示を飛ばす。
それに呼応するように、生命の息吹を感じぬ無機質な不死の兵達が反乱分子目掛け一斉に詰め寄る。
殺すな。の命はしっかり伝わっているようで、甲冑達は一体一体が剣や斧、斧槍といった多用な近接武器を持ってはいるが、
刃先ではなく峰で反乱分子を打ち倒して行く。
ハルコン自身はと言うと、魔王から手加減の命令を受けている以上、
その持ち前の体躯と重量に任せて拳を振り下ろす訳にも行かず。
仕方が無いので足を振り上げ、中庭の土を反乱分子目掛けて蹴り掛ける。
その巨体からは想像出来ない程に早い蹴りは、最早蹴りというより砲弾とでも言った方が正しいかもしれない。
ハルコンの蹴りで中庭の土が大きく削れ、その勢いが乗った土砂が反乱軍目掛け襲い来る。
土とはいえその一蹴りで数百キロもの質量が飛んでくればたかが一般人風情に耐えられる訳が無い。
その一撃で反乱分子が固まっている一角が纏めて吹き飛ばされる。
あんな巨大な動く要塞相手に迫られたらたまったものではない!
そんな表情が窺い知れる反乱分子は、次々に四天王ハルコン目掛け矢継ぎ早に魔法攻撃を撃ち込み続ける。
巨躯故に的はデカい。多少狙いが甘くても当てるのは容易である。
――だが、当たれば倒せるかは別問題である。
次々と魔法攻撃を被弾していくハルコンだが、身動ぎ一つしない。
さながら暖簾に腕押し、まるで効いていないように見える。
いや、それ所かその全身を覆う鎧が敵の放つ魔法攻撃を少しずつ吸っているようにすら見える。
魔法攻撃を受ける都度、その全身に魔力が伝い、光を帯びていく。
しかし、陽光の煌めきで紛れてしまう程の微弱な光故に、反乱分子には気付けない。
巨岩将ハルコン。
四天王の一人であり、魔王や四天王が時と共に幾度も代替わりしていく中、
その姿形を一切変える事無く、四天王として不動の地位を保ち続けている存在でもある。
しかしながら、彼は城内に居を構え、城から出る事が有事以外に一切無い。
歴代の四天王達がレオパルドの領を犯した人間相手に獅子奮迅の働きを見せたり、
人間達の名立たる将を討ち取ったりと華々しい活躍をしている中、ハルコンは常に城内で不動の構えで立ち続けた。
それ故に城に仕える者以外はその存在感が随分と曖昧であり、人によってはその名前すら知らない程である。
有事にしか動かず、魔力によって動くゴーレムであり自我が存在しない事。
そんな存在であれば影が薄くなるのも仕方ない事であろうが、存在感の無さは彼の強さとは全く関係ない。
寧ろ、常に魔王城の守護者であり続けた四天王としての実力は、その経歴が一目瞭然とばかりに証明している。
無数の魔法攻撃に晒され、ハルコンの体躯の輝きが一定量に達した途端、まるで太陽かと思わせんばかりの強烈な輝きを周囲に振り撒く。
その後一瞬遅れて反乱分子に向け衝撃波が襲い掛かり、数百もの数の魔族達が木の葉の如く巻き上げられ宙を舞う。
ハルコンは別に、特別な事をした訳では無い。
その全身がオリハルコンで出来ているという規格外な身体を持つ彼は、当然その身体全てがオリハルコンの性質を有している。
故に、魔法効果を吸収し、解き放つというオリハルコンの持つ基礎的な性質をただ普通に使っただけである。
先程から散々魔法攻撃を受け続けた為、放出した魔法もそれ相応の破壊力になっている。
しかしながら魔王からの命で、殺さず戦闘不能程度に留めろとの命令を受けている為、
こうしてわざと威力を拡散させて相手を吹き飛ばす程度にしているのだ。
魔法を吸収し放出する彼を魔法で倒すというのは、至難の業である。
だからといって、全身がオリハルコンという金属の塊であるハルコンに、
そこいらの弓や剣や槍如きで太刀打ち出来る訳も無い。
文字通りの意味で刃が立たないのだ。
流石にハルコンに魔法攻撃は無意味と悟ったか。
反乱軍は身の丈3メートルは優に超えるであろう、亜人族の魔族をハルコンにぶつける。
身体は正に筋骨隆々と言うべき筋肉の鎧で覆われており、その手には攻城武器と思われる大槌が握られている。
恐らく先程、バリケードでガチガチに固めた門を破ったのもこの大槌であろう。
彼でなければまともに振れないであろうその大質量の大槌で、ハルコンの脚部を渾身の力で叩き付けた。
鼓膜に響く鈍い金属音が周囲を走り抜ける。
その一撃は門を破壊出来るというのも納得な破壊力を有していたが、
ハルコンは全くその場から動く気配を見せなかった。
再び足を振り上げ、加減しながら亜人族の魔族を蹴り飛ばすハルコン。
避ける暇も無く直撃したその一蹴りで、大槌は砕け、内壁に当たるまで猛スピードで蹴り飛ばされる。
壁に叩き付けられ、そのまま身動き出来ず地に伏す。
「どうだ! これが我等が魔王様に仕える四天王の実力だ! ハルコン様には剣も魔法も通用せんのだ!」
「威張ってる暇があったらお前も行け! ハルコン様ばかりにお手を煩わせるな!」
ハルコンの圧倒的戦力を見せ付けられ、戦意の低下が見て取れる反乱分子。
四天王、ハルコンの加勢により劣勢から一挙に盛り返したが、やはり相手を殺さず止めろというのは中々難しい。
城内への侵入こそ防いではいるが、徐々に兵達にも疲弊が見て取れる。
ハルコンの率いる甲冑兵はハルコン同様ゴーレムであり、疲れを知らぬ身体故に常に最高の活躍を見せるが、
数自体は魔王軍には到底及ばない、これ以上長引けば城内に侵入する者も現れるかもしれない。
太陽が山間に隠れ、僅かな残光のみが大地を照らす頃。
反乱分子一同がまるで操り人形の糸が切れたかのように、一斉に力無く地に伏す。
「これは……!」
「魔王様だ! 魔王様が主を仕留めたに違いない!」
戦闘不能になった反乱分子一同を見て、一瞬動揺し言葉を失うも、
元凶である洗脳魔法の使い手を魔王が討ち取ったのだと気付き、一気に沸き立つ魔王軍一同。
事実、このタイミングで魔王一行は罪無き魔族達を操っていた術者を討ち取っていた。
歓声に沸く魔王軍を一瞥し、踵を返し大地を揺らしつつ魔王城へと戻っていくハルコン。
主に続くように無言で金属音を響かせながら数百もの甲冑が後に続く。
こうして、レオパルドの地に起きた魔族同士の争いは幕が下りた。
この乱はレオパルドの歴史にも残る一大事ではあったが、
魔王と四天王による電撃戦故に、この騒乱に乗じて人間達の侵攻を許すような致命的な隙を見せる事は無かった。
しかし、ここにいる者達は知る事は無いだろう。
これから先、魔王達にその存亡を賭した、死闘と呼ぶのも生温い戦いが待ち受けている事を。
後書きとか書くネタ思い付かないお




