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110.一騎打ち

      _,,,

     _/::o・ァ

   ∈ミ;;;ノ,ノ

     ヽヽ

 明朝、魔王サミュエルとその配下である四天王、クレイス、ドラグノフ、カーミラ。

 そしてそのそうそうたる面々と比べ明らかに浮いた少女、アーニャを含めた計5名はクロノキア東部の銀嶺残る山岳部に移動。

 敵に少しでも捕捉され辛いように闇に乗じて接近し、報告にあった反抗勢力の根城と思わしき遺跡に足を踏み入れようとしていた。

 正にその遺跡内部に進入しようとしていた最中、魔術道具によってクレイスの元に第一報が飛び込む。

 クレイスはその報を受け、事前に伝え置いた内容の再確認を行い、それを徹底させる事。

 それから戦闘に入る可能性があるのでこれ以降通信が途絶える可能性を告げた上で、通信を切る。


「どうやら予想通りだな」

「今、レオパルドには魔王様を始めとした主要な戦力がこっちに赴いてますからね。がら空きの首都に反抗勢力が攻め込まない理由が有りませんからね」

「住民の避難は終わったのか?」

「残念ながらまだのようです。ですが既に6割から7割程度は既に入城済みです」


 魔王の断言に同意するクレイス。

 魔王直々の勅命の効果は想像以上に強力であり、既に過半数のレオパルド住民は魔王城内に収容完了との事。

 

「にしても何であたい達だけでなんだ? もっと城の兵士とか連れてくりゃ楽で良いのに」


 ドラグノフの問いに、やれやれといった様子で目頭を押さえながら魔王は説明する。


「……洗脳魔法の使い手相手に、半端な兵力は意味を成さない。拿捕され、敵の手駒が増えるだけだからな」

「ありゃ。連れて来ただけで操られちまうのか?」

「いや、流石にそこまで極端じゃないと思うけど。相手が何を引き金にして洗脳魔法を行使してるのか分からないから極論そういう考えで行動した方が良いって事よ」


 ふーん、そんなもんか。とドラグノフは納得する。

 カーミラの言う通り、近くにいる生物を無条件で無差別に洗脳する魔法など、この世界には存在しない。

 洗脳魔法は必ず、相手を洗脳する為に何かしらのワンアクションを要求する。

 しかしながらそのワンアクションには種類がある為、一体相手が何をしたなら洗脳魔法の効力を発揮するかは分からない。

 手をかざしたらなのか、目を見たらなのか、はたまた声を聞いたらなのか。

 どういう条件で洗脳魔法が発動するのかが分からない以上、カーミラの極論で行動するのはこと対洗脳魔法という点では間違いではないのだ。


「洗脳した兵を使ってレオパルドを強襲する、全く厄介な事をしてくれた物だ。この戦いで傷付くのは無辜の民しかいないではないか。杞憂に終わればと淡い考えを抱いてはいたが案の定だ。例え敵対勢力を潰した所で、民が全滅すれば私の目指す『魔王』としての敗北だからな」

「一応敵も味方も被害を少なくなるように、と方針を出しましたが。敵が殺す気で来ている以上厳しい……というより土台無理な話ですね。被害を抑える為なら徐々に後退して城まで退くのも視野に入れてます」


 そんな会話をしながら、魔王一行は遺跡跡というより洞窟と言った方が正しいような入り口へと足を踏み入れる。

 しかし洞窟のように見えるのは入り口だけであり、少々進むと整備された石畳が魔王達を迎え入れる。

 遺跡内には光源が無く、入り口から差し込む一条の光のみが遺跡内を照らしてはいるが、その光が闇に掻き消されたその先は完全なる闇である。

 また遺跡内は埃臭く、閉塞しているらしく完全に無風の状態である。


「城まで退いたなら、まぁ最後には」

「あ゛ー、埃臭いわねぇ」


 クレイスの言葉を遮るように、うんざりしたように零すカーミラ。

 風が抜けないのならば埃臭いのは如何ともしがたい。


「貴女の根城も似たような物でしょうに」

「仕方ないでしょ、あんな広い場所一人で掃除するのも限度があるっての。多少の埃位大目に見なさいよ小姑じゃあるまいし」

「誰が小姑ですか誰が」


 カーミラの愚痴に即座にツッコミを入れるクレイス。

 そんな二人を他所にマイペースに周囲を観察するドラグノフ。


「くっれーなー。何だよ悪い奴って穴ぼこに引っ込む癖でもあるのか?」

「ただの偶然だと思いますが」


 ドラグノフの言っているのは、以前刃を交えたノワールの一件の事だろう。

 別に悪党は必ずしも暗闇の中に生息する訳では無い。

 高い場所を好む悪党もそれなりにいるだろう。

 

「敵陣の中でそれだけ軽口吐けるなら上等だな。戯言はそれ位にしておけ、出迎えが来たようだぞ」


 魔王の言葉を受け、気を引き締める三人。

 暗闇の奥から重量感のある足音が近付き、その足音が止まると遺跡内の四方から魔法による光源が室内を照らし出す。


「我等が領土に良くぞ参られた!」

「誘いを掛けてきたのは貴方達でしょうに」


 目の前に現れたのは、身の丈だけであらば魔王すら上回るような巨漢の魔族であった。

 2メートルはゆうに超え、3メートルの大台に差し掛かるような長身である。

 また横幅も十分に兼ね備えており、分厚い肉の鎧をまとい、その上に打ち伸ばした鉄のプレートを着込んでいる。

 肌は深緑色であり、見た目からしてトロールやその近縁種に属する魔族なのだろう。


「――おい、クレイス」

「ええ、気付いています」


 そんな目の前の魔族と、その魔族が手にしている武器を冷静に観察し、断じる魔王とクレイス。

 言葉こそしっかりしているが、その目に光は無く虚ろである。

 それ以外に特に変わった様子は無いが、その結論は両者共に合致した。


「――重度の精神汚染状態、ですね。もう元々の人格は完全に焼け切ってるはずです」

「ん? 精神汚染って何だ?」

「精神汚染というのはですね……」


 精神汚染。

 魔法を使う者や、魔法を宿した武器等を使う者でもその存在を知らない者は多い。

 クレイスや魔王が知っていたのは、精神汚染を引き起こし得る武器が間近にあった事が原因であろう。

 魔王の持つ魔剣ティルフィングは、剣自身が膨大な魔力を有している。

 力量の伴わぬ輩が不用意にこの剣に触れれば、剣の持つ魔力が体内に逆流し、精神を削り取っていく。

 その先に待つのは精神崩壊、発狂、廃人化のどれかのみである。

 魔王サミュエルはティルフィングの魔力に負けぬレベルの力を有しており、それ故に精神を傷付けられる事無く剣を振るえているのだ。

 言うなれば、剣が人を選ぶといった具合か。

 また剣だけではなく、大規模な魔法を行使してもこの精神汚染は起こり得る。

 しかし精神汚染を引き起こす程の大規模な魔法を使用出来る者の存在自体が稀有な為、この現象は余り周知の事実になっていない。

 それこそ以前、サミュエルが用いた地獄の檻(インフェルノジェイル)や、

 クレイスが用いた大いなる冬(フィンブルヴェド)といった広範囲を無差別に、地形を変えるレベルで攻撃し続けるような魔法でなければ起こりようがないのだ。

 ……と、いうのが精神汚染に関する説明なのだが。


「簡単に言うともう彼は死んでいるという事ですよ」


 戦闘以外役に立たないドラグノフにわざわざ一から十まで説明する必要性が感じられなかったクレイスは、

 物凄く端折って極論で答えを提示する。

 あながち間違いではなく、あそこまで精神汚染が進行すると最早原因を取り除いても廃人は避けられない。


「あんな代物何処から引っ張り出したのか知らんが、命を軽々と使い潰しおって……!」

「……耳が痛いですね」

「いや、別段お前を攻めている訳では」


 以前多数の人間を捨て駒扱いに使った過去のあるクレイスが居心地の悪そうな表情を浮かべたのを見て、慌てて訂正する魔王。


「我がお相手願いたい相手はただ一人! 竜将ドラグノフだけである! 他の者は奥へと進むが良い!」


 名指しで指名され、えっ? あたいが? と呆けた表情を浮かべるドラグノフ。


「成る程、言い分は分かりました。ですがそれを私達が飲む理由がありませんね」

「どう考えても全員でフクロにした方が早いしね」


 クレイスの返答に素直に同意するカーミラ。

 当然の回答であり、烏合の衆ならいざ知らず、ここにいるのは指折りの強者だけである。

 ならば数に任せて寄ってたかって相手を叩いた方が良いに決まっている。

 何が悲しくて相手とわざわざサシでやらねばならないのか。


「要求を呑まないのであらば、我等が主は姿を眩ませる手筈になっている。言って置くが、我が主の持つ朱の冠の効力は主が存命な限り永久的に続くぞ」


 クレイスの返答をあっさり却下し、要求を呑まない場合の報復手段を提示するトロールの魔族。


「朱の冠、それがあの精神掌握の術の正体ですか」

「我が主は一対一の真剣勝負を所望しておられる。了承して貰おうか」


 クレイスは淡々と相手の言葉の節から重要な情報を拾い上げる。


「べっつに良いじゃねーか。あたいがコイツと戦って勝てば良いんだろ? なら、まおー達はさっさと奥に行けば良いじゃねーか」


 肩を慣らすように、大きな風切り音を立てながら自らの持つ槍を振るいながら。

 さっさと奥へ進むよう笑顔で魔王達に促すドラグノフ。


「……罠かもしれませんが、相手の土俵に立つしかありませんね。元々私達はあの精神操作を受けた魔族達を支配から開放する為にここに来たのですから、術者に逃げられればそれまでです。大人しく従うしかありませんね」

「ではお相手願おう。立会いは不要、他の者は奥へ進んで頂こうか」


 トロールの魔族の横を、魔王が、続けてアーニャとカーミラが素通りし、奥へと進む。

 最後にクレイスが奥へ進もうとしたが、一旦足を止めてドラグノフの方へ向き直す。


「ドラグノフさん」

「何だよ?」

「持ち主は大した事ありませんが、あの剣からは嫌な気配がします。十分に気を付けて下さい」

「言われなくても分かってるよ。良いからさっさといっちゃえよ」


 手をヒラヒラとさせながら、さっさと奥へ行けと促すドラグノフ。

 そんな彼女の様子を見て、これ以上は言うだけ無駄だと諦め大人しく魔王の後を追うクレイス。

 光の差さぬ遺跡内とは思えぬ程に煌々と照らされた一室の中、トロールの魔族とドラグノフの視線が交錯する。


「ではいざ尋常に……勝負!」

「さーて! そんじゃあケンカを楽しむとしようか!」


 互いに力任せに振り抜いた武器と武器が接触し、戟音を上げる。

 ドラグノフに先鋒を任せ、一行は先を急ぐ。

 目指すは洗脳魔法の出元、諸悪の根源である。

      _,,,

     _/::o・ァ<残像だ

   ∈ミ;;;ノ,ノ

     ヽヽ

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