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104.継がれし思い

その眩き聖なる光で、愚かな虫けら共を跪かせよ!

 勇者に代々伝わる聖剣。

 勇者であるアレクサンドラの手を離れたその名剣は、魔王の執務室に置かれていた。

 積み上げられた本や地図と同じ様に乱雑に壁に立て掛けられており、扱いが雑にも見える。

 しかし宝物庫のようないかにも、な場所に置いておくより安全だろうという魔王の判断である。

 魔王城の上階に位置するこの魔王の執務室ならば、外からの侵入もまず無い。

 内部からも、この執務室を訪れるのはそもそもほんの一握りの者達だけであり、下手に現れる者がいれば直ぐに分かる。

 置いておく場所としては宝物庫と同等かそれ以上だろう。


 事実、この執務室には現在四天王の一人であるクレイスが業務に当たっていた。

 作業中とはいえ、彼の目を盗んで部外者が押し入るのは不可能である。

 執務室の扉が開け放たれ、見た目は幼女、中身は先代魔王。その名は、魔王リズレイスが入ってくる。

 クレイスには目もくれず、小さな歩幅で真っ直ぐに聖剣へと歩みだす。

 そして、アーニャはこの城内において部外者ではないのだ。


「んっ? 一体何用ですか? って……ちょっ、待!?」


 冷静な普段の振る舞いは何処へやら。

 クレイスもカーミラ同様に不味いと感じたのか、短く切れた悲鳴にも似た言葉が口を突く。

 リズレイスを宿したアーニャの手がその聖剣に触れた途端、その小さな身体を大きく震わせる。

 目の色は淀み、混濁からやがて虚ろになり、収まる。


「ストーップ!!」


 遅れてカーミラが髪やマントを振り乱しながら執務室に雪崩れ込み静止を掛けるが、時既に遅し。

 少女の瞳が虚ろなのは、一瞬であった。

 その目にカーミラの姿を捉えた途端、その目に殺気が宿る。


「――聖天斬(せいてんざん)!」


 アーニャが手にした聖剣から、目を覆わんばかりの閃光が迸る。

 眩い光は線となり、カーミラの身体を通過する。

 光が止んだ時、右脇から腰にかけてを両断されたカーミラの姿があった。


「やっぱりこうなるか……!」


 真っ二つにされた身体は黒い霧と化し、さも当然であるかのように再び集い人の形を成し、再生する。

 舌打ちしながら吐き捨てるカーミラ。

 傷跡一つ残す事無く、再び四肢健在でアーニャの前に立つ。

 その姿を確認し、再び聖剣を構えて弾丸のように飛び掛かるアーニャ。


「とりあえず、狭い所で暴れないで貰える?」


 アーニャの服を腕で掴み、後方へと倒れるカーミラ。

 相手の勢いをあえて殺さず、巴投げの要領で後ろへと指向性を与える。

 勢い良く飛び込んだのが空振りに終わり、窓枠を粉砕しながらアーニャは城外へと投げ出される。

 即座に体制を建て直し、窓から城外へと飛び出すカーミラ。

 投げ飛ばしたアーニャの姿を捉えるべく四方を見渡すが、そこにアーニャの姿は見当たらない。

 僅かに漂った殺気を目敏く感知し、眼下に目を向ける。

 足元から飛び込んでくる小さな殺意の塊。

 瞬時に足元に風の魔法を無詠唱で発動し、飛び出した軌道を逸らす。

 カーミラの鼻先を聖剣の白い閃きが掠める。

 カーミラが魔法を用いて咄嗟に軌道を変えていなければ、首と頭がオサラバしていただろう。

 舌打ちするカーミラ。

 返す刃で突進しながら、突き刺すように剣を振り下ろすアーニャ。

 鋭い眼光で聖剣を捉えるカーミラ。

 充分に引き寄せ、振り下ろされた剣の峰を手で弾き、再び攻撃を逸らす。

 勢い余って地上目掛けて落下するアーニャ。


「そんな単調な攻撃が当たると――」


 アーニャの口元が不敵な笑みを浮かべる。

 アーニャの落下に追従するかのようにカーミラの身体が地面へと引き寄せられる。

 カーミラの足首に絡み付く、陽光を浴びて僅かにきらめく糸状の物質。


「これって――くっ!」


 断ち切る間も無くアーニャによって引き寄せられ、土を巻き上げながら地面に叩き付けられるカーミラ。

 追撃とばかりに剣を振りかぶるアーニャ。

 しかし横から飛び込んできた氷槍がその攻撃を阻む。

 的確に攻撃を切り落とすアーニャ。


「虚を突いたと思ったのですが、やはりそう簡単には行きませんか。そんな程度で死んでませんよね?」

「当たり前でしょ。こと不死に関しちゃ不本意ながらも自信満々よ」


 クレイスの問いに土煙の中から悠然と歩みつつ、軽口混じりで答えるカーミラ。


「アーニャの中身、今は勇者になっていますね?」

「そうでしょうね」


 薙ぐ動作で起きた一陣の風が土煙を切り払う。

 クレイスとカーミラの両者を視界に捕らえ、振り抜いた聖剣を再び構え。

 小さな足で大きく大地を踏み締め迫るアーニャ。

 その目は決意に満ちた殺意を帯び、並大抵の者であらば睨まれただけで萎縮して動けなくなる程である。


「――今のアーニャ、多分私知ってるわ」

「本当ですか?」

「さっき見た戦い方、以前見た事あるもの。そうでしょう?」


 カーミラを射殺さんばかりに視線を飛ばし。

 口を開き、怒声を上げるアーニャ。


「カーミラアアアァァァァ!!」

「――リズレイスを殺してくれた、先代勇者さん!」

混沌より生まれしバリアンの力が光を覆う時、大いなる闇が舞い踊る!

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