世界を助ける英雄
GAku RAnです。
最初思いついた時に、これ面白そうだな。と思ったのですが、上手く文字に表せませんでした。いや、小説は難しいですね……
どうぞ私には気を留めず、最後まで読んでくれると幸いです。
「んー…」
彼の名はキシル・ライト。歳は十八、性別は男。
彼は今、自分の家…いや自分の飛空艇で、のんびりとしている。
「と言うわけですね……ってキシルさん? 聞いてます?」
そう文句を告げるのは、ユナ・キシリフル。自称可愛さ溢れる十六歳らしい。
「いや、聞いてねえわ。もう一回頼む」
いやいやながらにキシルは言った。
「全く…キシルさんが聞き出したことでしょう? ちゃんと聞いておいてくださいよ!」
「はいはい。分かりましたよ」
「いいですか? 私はキシルさんを助けたいんです。キシルさんの助けになりたいんです」
「それが目的? そんな事のために俺のところまで来たの?」
その目的で何人の人が俺に言い寄って来たか…
その目的が果たせないために何人の人が俺の元を去ったか…
答えは簡単、零だ。一人も来てないのだから一人も去って行った事などありえもしないのだから。
そんな事を考えた。
「いけませんかね?」
いけないことはない。むしろ助けてくれるのなら大いに助かることだ。
キシルはそう思う。
「しかし、お前何ができる?」
「私は……かっ、家事全般ならできますよ!」
「そうか……なら、助けてくれよ」
「それで、私は何を?」
「ん? 家事以外の何か」
「………キシルさんって案外、鬼畜さんですよね」
「そうか? 家事以外をすることによってその他のスキル等を習得できる最高のシチュエーションだろ?」
「まあ、そうなんですけどね」
「そうだろう? そうだろう?」
ドヤ顔をユナに見せつけた。
「そういうの気持ち悪いです。やめてください」
「お前、それ言うか!? それ言っちゃうのか!?」
「私、人によって態度変えるような人間じゃ無いですので」
「嘘つけ」
「本当ですって!」
「信じてやろうか?」
「ええ! ぜひ!」
「しょうがねえ」
「やったー!」
素直にユナは喜んだ。まるで初めて走れるようになった子鹿のように。
ん? 小鹿=ユナ。おー! 良い感じに等式が出来た。
「あ、今、なんか失礼な事考えてませんでした?」
「い、いや! べっ、別にそんな事ねえよ」
「本当ですかー?」
「嘘じゃあ無い」
まあ、それも嘘だが。
「キシルさんは、なんであの時私を助けたんですか?」
「……なんとなくだ」
適当にはぐらかそうとした。
「キシルさんはなんとなくで人を助けられるのですか。凄いですね尊敬します」
「いや、そこまでのものじゃないだろ」
キシルにとって、あの事件は早く忘れたいものだった。
「そうは思いませんけど…あ、そう言えばキシルさんって普段はどんな仕事を?」
「俺は、人じゃないもっと大きいものを助けたいんだ」
「大きいもの?」
「ああ、人なんてついでだ」
「ついでって…ちなみに何を助けるんですか?」
「この世界さ」
「世界を…助ける…?」
「言っても、村を一つ助けるのが精一杯だけどな」
「かっこよかったですよ。あの時のキシルさん」
「ユナ、お世辞はやめろ。照れるだろうが…」
「キシルさん、顔真っ赤ですよ?」
「も、元々だ! 生まれつき真っ赤だよ!」
「いや、キシルさんの肌は綺麗な白色ですよ?」
ついでに髪も白いですよね。でも目は紅いですよね。
そう付け足した。
「おい、それだと俺が白髪みたいだろうが。白髪じゃない銀髪だ」
自分でも白髪だと分かっている。だがそれでも、白髪と呼ばれるのには抵抗があった。
「そうは言っても…銀っていうよりは白じゃないですか」
「うっ! そう言われると何とも言えんな」
「でもキシルさんって、なんだか雪みたいですよね」
「雪、か…」
気が付けば、キシルは涙を流していた。
「キシルさん!? 私、変な事言いました?」
アルビノ。白濁した因子。白の悪魔。不完全。白製の人形。
今まで彼はそう呼ばれ続けた。しかし、雪みたい。なんて事は一度も呼ばれた事は無かったのだ。
「お前は優しい奴だな」
「…? どうしたんですか? いきなり」
「まあいい。さて、世界を助ける旅に出かけよう」
「どこ行くんですか?」
「それはだな…」
今までノータッチだった手元の機械をキシルは器用に両手で扱った。
「ん? あの街、このまま行けば崩壊するな」
機械に表示された地図を指さしながらキシルは言った。
「え? 何でそんな事分かるんですか?」
「あいつが泣いているからだ」
「あいつ…?」
当然の事ながらユナには何事だか分からなかった。
「ああ、悪い。失言だったな。忘れてくれ」
「はあ…」
そんな事言われても気になるものは知りたいと思う。それがユナの性格だった。がしかし
「俺の大事な記憶なんだ。あんまり人に話したくない」
ユナが考えている事などお見通しなのかと思うくらいのドンピシャな拒み方だった。
「わかりました。話したくなったら、話してください」
「しょうがねえな」
「あれ? なんの話でしたっけ?」
「あの街がぶっ壊れるって話だ」
「それはヤバいじゃないですか!」
「そうだな」
ひどく落ち着いた様子でキシルは返した。
「なんでそんなに落ち着いているんですか?」
「落ち着かないと、あの街を助ける方法が分からない」
つまりは作戦を考えているのだった。
「よし決まった。ユナの村の時と一緒の作戦で行こう」
「私の村の時…ってああ、あのリターン作戦ですか?」
陽動に陽動をかけてそれすらも囮と言う何とも紛らわしい作戦だ。
「ああ。と言うか、いつもあの作戦しかやってない」
「そうなんですか」
「さて、飛空艇は、ここで浮かばせておくとして…」
「浮かばせておくんですか?」
「ああ。それともなんだ? お前一人で残って飛ばしてるか?」
「嫌です。私はキシルさんと一緒に行きます」
「そうかい。邪魔になるようなことだけはやめてくれよ?」
「これでも器用な方なんで」
「そりゃそうだろうな」
キシルの飛空艇に挑戦した幾千もの盗人や冒険家の中で、看破したのはユナ一人だけである。これはイコールでユナの器用さを示していた。
「さて、始めるか。世界のついでにあの街に住むおよそ六万人を助けに」
キシルは意気揚々とその言葉を言い放った。
ユナはそれを聞きなれた風な顔で聞き流した。
しかし彼らはまだ知らなかった。彼らの言う『あの街』がキシルの力では助けられるようなレベルじゃ無いことを。