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これが私

作者: 久遠 ヒカリ

 学校に行けば、友達がいた。冗談を言って笑いあったり、時には些細な出来事で喧嘩したり……良くも悪くも気が許せる中の友人が。教室のドアを開けば、おはようと自然に声を掛けられてそのまま雑談に花を咲かせる。移り変わりのない日々。楽しくて笑いが絶えなくて、夢中になって私はそんな生活が永久的に続くものだと思っていた。


「進路はどうしますか……?」

 担任の先生の言葉で私は現実へと引き戻される。進路、進路、進路……最近聞くことが多い単語。大学とか進路とか、就職とか。高校三年生の私ももうすぐ学校を卒業する。進路を考えなくてはならなくなる。友達たちは大体きめてあるみたいだし、私もそろそろ決めないと! 気持ちは焦る一方だった。進路といわれてもピンとこなかったし、就職と言われても現実味がなかったし、大学生になるというのも想像ができなかった。両親は悩む私を優しく見守ってくれていた。けれど、私は現実と向き合うのを恐れてオンラインゲームに没頭し、ゲームの中では強くなっていく日々。正直、限界だなと思った。


「私、就職するよ」

 母親に向けて笑いながら言う。母は驚きつつも喜んでくれた。それからはあっという間に月日が流れた。車の免許を取るために自動車学校に見学へ行き、就職するために希望の店へ電話を掛ける。順調なのだと思っていた。なにもかも。


「君の運転じゃ、授業数を延長しないと取れないかもね」

 サラリと教官から告げられた言葉に、現実を突きつけられる。あぁ、やっぱり私じゃダメなのかな……自動車学校での初めての運転で、落ち込んで悲しくてその日は泣いた。それからしばらく休んだ。自動車学校に行きたくなかった。それから月日は流れた。男の教官から女の教官に変わった。緊張していて強張っていた表情が笑顔に変わって、リラックスして運転できるように進歩するほどに。


「……(またか)」

 心の中でそう呟かずにはいられなかった。仮免試験。受けられるなんて夢にも思わなかった。いつも教官に厳しく指導されるばかりで、自分一人じゃなにもできなくて……でも、ハンコをもらって受けられる段階まできた。それなのに……また、落ちたのか。悲しくて悔しくて、ロビーで大泣きした。ティッシュもハンカチもぐしょぐしょになるまで涙は止まらなかった。隣りに座っていたおばさんがそっと新品のティッシュを差し出してくれたのが、記憶に新しい。


「今回は脱輪しなかったね」

 三回目の仮免試験。試験官の男の人に言われた言葉に安堵する。続けて言われた言葉には、今度はここを気をつけるようにと念を押されてしまったけれど。緊張と不安と期待を抱えながら静かに発表の時を待つ。モニターに映し出される数字。合格者の数字。

「今から終了検定の合格者の数字を画面に映します」

 アナウンスが流れる。周囲の人たちの視線が画面に注がれる。そこに私の数字は……あった。確かにあった。

「どうだった?」

 担当の女の教官が、そっと近づいてきて聞いてくる。

「ありました! ほら、そこに!!」

 私は頷いて、画面の数字を指さす。うれしくて、満面の笑顔で答えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 合格おめでとうございます! 読んでいるこちらまで嬉しくなりました! 泣きながら頑張って頑張って、獲得した喜びは 格別だったことでしょう。 俯いていたお顔がゆっくり前を向いていく様子が 行間…
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