01.社会の屑とは私の事だ。
【深紅の薔薇】
草鞋を穿いて世間を渡るのなら
私は裸足で茨の道を歩もう
生を痛みで掴み
血色の赤でその生を彩る
裸足に飾り付けは要らない
その足跡が全てを語っているからだ
不安な時、
自信のある時、
足跡は浅くまた深く残る
障壁の棘が突き刺さっても
その歩みを止めてはいけない
痛みは生への実感
その痛みこそが生きている証
歩を進めも休めも
足の裏から走る激痛に身悶えする
そんな時だからこそ
辺りに目を向けてみる
美しく気高い華が咲いている
これまで流して来た
痛みの赤を糧に咲いた
深紅の薔薇
無駄な事は無いのだと
面前の事実に報われ
涙が落ちる
流れた涙を受け止め
深紅の薔薇は私を支える
実る努力に未来を見よ
栄える未来に前を見よ
裸足では
覚悟が無ければ歩めない
流れる血を代償に
深紅の薔薇が生を彩る
私は世間を渡るのなら
裸足で茨の道を歩もう
嗚呼、深紅の薔薇よ!
私の痛みと呼応して咲く罪深き華よ
その色の由来を知っているのか
嗚呼、私が前を向いて確りと歩を進める様に
強く強く咲き誇ってくれ
嗚呼、深紅の薔薇よ!
嗚呼、深紅の薔薇よ!
【お前の手で】
お前にこの痛みを取って欲しい
私を殺す痛みを
だから、今楽になりたい
お前が握るそのナイフで――
お前は私を支えてくれた
受け入れてくれた
励ましてくれた
そしてどんな時でも
愛してくれた
淋しくなる日は無かった
お前を見ると
いつでも微笑んでくれた
太陽の様な満面の笑み
だけど お前は脆い
気付いていないだけで
お前を殴れば
すぐに泣き崩れてしまう
そんなお前の儚さが好きだった
すっきりした唇も
きれいな細い髪も、目も
お前の全てが好きだった
お前は困っていたのに情けない
お前の為に何も出来ないと
思い知らされた
そんな思いが積み重なり
痛みとなった
痛くて触れなかった
それは次第に膨れ上がった
飲み込まれ
絶えられなかった
痛みは核を壊し
私を手玉に取った
光を纏って天使が現れた
しかし 私はその天使を知っていた
だって いつも寄り添ってくれたのは
お前だったから
お前には勇気があった
いつもの儚いお前はどこに行った?
1つ分かった事がある
ただ弱いだけじゃないんだな
私の痛みを取ろうとしてくれた
だけど出来なかった
お前がその痛みを生んだから
既に私の体は毒されている
痛みに殺されたくない
もう長くは持たないだろう
望む事は1つだけ
お前が出来るたった1つの事
お前にこの痛みを取って欲しい
私を殺すこの痛みを――
心からお前を愛している
だから、少なくとも楽になりたい
お前が握っているそのナイフで
お前のその手で
【こんな朝はきっと良い筈】
納豆は大きい粒が良い
醤油がちゃんと一粒一粒と
息を合わせるからだ
小粒だとペンキで壁を塗っている気分だ
小粒は溺れている
小粒は弱い
大粒は強い
歯応えがあって良い
大粒は溺れない
混ぜた後でも分かる
小粒と違って泡に喰われないから
ゴツゴツと箸に巻かれないからだ
最近は大粒納豆を殆ど見な
何故だろうか
小さい方が萌えるからか
蓋を取ったら何も付けずに
先ず100回程掻き混ぜる
醤油の前にからしを投入
30回程混ぜる
そして醤油を掛ける
また100回程掻き混ぜる
醤油は余り掛け過ぎるな
食すのはタレではなく
納豆自体だと云う事をお忘れなく
からしは粋だ
縁の下の力持ちだ
醤油が持ち得ない
本来の味を底上げ
ガッチリと固めてくれる
啜るとからしが醤油の香りに
ほんわか勝りホロい甘味が
鼻孔と舌を通じて私に流れ込んで来る
私が溺れているのだ――
噛むごとに味わいがブワッと溢れ
醤油の香りを抱き締める
喉を通る瞬間には
自ずと目が閉じてしまう――
至福とは噛み締めるものだ
そんな朝から始まる1日が
悪い様に為るはずがない
そう信じたい
そう信じよう
【i doN’t kNow!】
影が追って来る……追われて居る
私は必死に走り振り返った
影は闇と交わる
全ては闇の下に力を備え
闇に飲み込まれる
私は月を見上げる
月は月だ
だが何時もの其れでは無い
顔を赤く染め奇妙に笑う
私の上には月が
闇の下に私が居る
耳元で囁く
底知れないモノに
膝が笑う
私が居た処は此処では無い
突如径を失い、躯を震わせ彷徨い歩く
世界の裏側がどの様なモノか
知りもしないで
月と闇以外何も無い
人と呼ぶモノも疎か――
亦聞こえた
私は呆れる程に後込む
然し今回は違う
だから耳を傾けてみる
思い出せない
只抜け出したいだけなのに
思い出せれば戻れると思う
然しそうじゃなかった
出口は無い
何処にも始めから無いのかも知れない
何をしても無いモノは無い
元々此処に居る
そう……私は元々此処に居たのだ!
【嗚呼!】
一度踏み入れると
容易に決して抜け出せない
嗚呼! 踏み入れてしまった
もう苦しみからは逃れられない
苦難は燃盛る炎の様だ
されど人生は満ちたモノで在れ
生の意味を求め自身と繋ぐ
そして歳を取れば
理解するだろう
其処から抜け出したのなら
無に帰るだけ
【あなたへ】
あなたへ
幸せであれ
この至高の日に
また新しい岐路に立つ
あなたへ
笑顔であれ
前を見て胸を張り
笑顔を絶やさないで欲しい
そんなあなたであれ
今日この日に
感謝の意を込めて――
【一時の至福】
さあ この出会いと
瞬間に感謝しよう
笑い合い 抱き合い
この幸せに酔い痴れよう
どんな苦労も
今だけは肩から下ろし
寄った眉間を伸ばし
体にもう1度
息吹を吹き込もう
さあ 堪能しよう
豪華な食事が煌びやかに盛られ
まるで宝石の展示会の様に
この幸せに満ちた思いと共に
一刻一刻を噛締めよう
仲間と背中を叩き合い
肩を組んで
賛歌と一緒に盛り上がろう
溢れんばかりの笑顔と
極上の歓喜で夜を燈し
朝まで騒ぎ続けよう
朝を迎えればまた旅立つ
皆が其々の道を再び歩み出す
清々しい朝日が 私達を称えるのだ
【虚像への歩み】
1滴の雫 落ちて滴り1本の柱
波長と振動 拡がり瞬く年輪の痕跡
広大な大地
長い長い平坦な道程
一瞬で変わる景色
目まぐるしい世
巻き込み抗う渦の矛先
懸命に探す1線の光
犇ひしめく影の虚ろ
遠ざかる光の距離と足元への視線
無 光からの煌めき
孤独の有意
屈折する嗜好
角を曲って落とし穴
出た入ったの繰返し
曲り足に軽い口付け
落ちた赤と交わる指先
目覚めと錯覚
汗ばむ肌に水への安堵
白い天井 漏れる吐息
驚愕の枷
棘髪に沿う手の麗麗れいれい
瞳に映る快楽 潤う唇
寄り添う肌から伝わる硬直
一方的な愛の歪み
事実の否定
決定の真実
虚像の灰から並ぶ首
暗雲に隠れる太陽
顔を出さない月
池に飛び込む猫
潰れ悶える蜘蛛
景色霞み 朦朧もうろうの恍惚こうこつ
とろとろとろとろ~歩調
手を振る君 笑った笑った
印象の赤
【乙女の園】
私は見付けた 乙女の園を
そこは神聖で
どの紳士も入る事を許されない
花屋敷であった
乙女達は戯れていた
くすくすと笑いながら
全てが華やかで艶やかだった
そこでは時が進まない
私は外から彼女達を見ていた
囲んでいる長い塀によって
中は隔絶されている
私は入ろうと試みた
門があり 化身が守っていた
乙女かどうか尋ねられ
私は否定した
入りたいのかと訊かれ
そうだと答えた
そうしたいならそうしろと
私は歩を進めた
乙女達は私を歓迎し
大いに褒めた
私の衣装、髪
そして儚げな指先を――
魅了された私がそこに居た
私は尋ねた
ここで何をしているのかと
彼女達は言った
ここでしか出来ない事を
只しているだけだと
私も便乗した
おしゃべり 戯れ
そして含み笑い
煌びやかな時を分かち合い
満足したら 外の事が気になってきた
私は訊いた
そろそろお暇して良いかと
全ての首が横に振れた
何故だと言った
一斉にして答える
私が既に転成していると
彼女達がそうであった様に
私は戯れた 彼女達と永遠に
歳は取らない
だから私もそうだった
外から隔絶された世界
ここがそこだった
私は見付けた 乙女の園を
そこは神聖で
乙女だけ入る事が出来る
閉ざされた花屋敷であった
乙女達は戯れていた
くすくすと笑いながら
全てが華やかで艶やかだった
そこに時は存在しないのだ
【血鎖からの開放】
血の鎖に締付けられ
心の臓が鼓動する
……ドクン…ドクン…ドクン……
休む事を許されず苦しくても
どうか その動きを止めないで
縋り付き 生の継続を懇願する
その願いがある限り
鎖はより強固に躯を繋ぎ止める
躯が生の奴隷の様に寄添い離れられない
恋人よりもクスリとの関係に近い
生があるから躯があるのか
心があるから生があるのか
生が創り出すのは躯ではない
躯は憑代に過ぎない
憑代は先天的に
その存在性は本体の本質によって輝く
本質は不変だ
憑代には限界が付き纏う
その限界を迎えれば本体は開放され
生の歯車に再び組み込まれる
来るべき時期を待ち続ける為に
【希望の蝶】
少女は太陽の光が 日の光が
眼に映える朝が大好きだった
少女は眼が見えない
もう光が映る事も無い
現れるのは太陽の蝶
暗闇の中で少女は戸惑う
誘うかの様に蝶が舞う
少女の手を掻い潜って
蝶は光る 眩し過ぎる程に
それでも少女は光を捉える
蝶自体では無く
光が少女を包み込む
蝶は希望
暗闇を照らし
少女の心を暖める
少女は抱かれながら
安心の湯に浸かる
赤子の様に
希望は寄り添う 信じる心に
形がある訳じゃない
それでも 生まれるんだ
少女が感じ取って大切に出来るから
少女は理解する
その蝶は希望だと
大事に内に秘め
心の距離が縮まっていく
希望とは自然であり
木に芽が出る様に
時と共に拓きゆくものだ
沢山の明るい可能性を持つ
純粋な子供だ
蝶は歪んで広がりを見せる
少女は驚く しかし感じる
何かが変わる――
蝶は無くなり
少女の眼の前には青い空が――
少女は太陽の光が 日の光が
眼に映える朝が大好きだ
蝶の髪飾りを付けている
活発で愛嬌がある女の子だ
希望は形を変えて少女と共にある
【季節の移ろい】
あの春
お互いを知らなかった
桜は満ちて
心地良い風に花弁は舞った
赤い糸が絡み始めた
あの夏
お前と出会った
太陽は眩しく
木漏れ日は宝石だった
只の知り合いに過ぎなかった
あの秋
初めて真面に喋った
木々の葉は北風に散り
物悲しく地面に落ちた
気付くと友達になっていた
あの冬
お互いを解り合った
雪が降り町を染め
静寂で世界を包んだ
暖め合う様に寄添い合った
あの春
彼女は私と出逢った
新たな命が芽吹き
又季節が移ろう
彼女は私の何でもなかった
あの夏
彼女は私に近付いて来た
向日葵は伸び伸びし
海は輝いていた
お前との関係に割り込んだ
あの秋
彼女は直向きだった
季候は平穏だが苦々しかった
其れはジレンマだった
あの冬
彼女は私と一緒だった
季候は寒さが極まり
静寂が世界を覆った
罪は雪の白さを濁らせた
泣かないで 私の愛しい人
私が泣かせた
十分承知の事だった
何とかしなければ――
彼女は涙を流した
もう会わないと打ち明けると
それでも未だ愛しさを示した
私が彼女の運命の人だと言って
何かが間違っていた
糸が解れたのは
私がフラフラしていたからだ
私の運命に懸けた
その夜
私はお前と会った
抱き締めたら また泣かせてしまった
繰り返し御免としか言えなかった
私は誓った
死んでも愛し続けると
お前は泣き止み頷いた
永遠の愛を確かめ合い
赤い糸を結び直した
何が起きても解れない様にと
【黒の歯車】
ぎしぎしぎしぎし~不良~
1つ狂いて また1つ
止まらぬ時間に落ちた1つの歯車
此処に黒
確固とした外観 精密な内部
繊細な仕掛け
ちょいと突くと がたがたがた
連動性の結 全への起
全が個で個が全と
個から成る全に繋ぐ
廻り回って尊重の個
だが 共存の矛盾
1つ欠けると駄目として
されど重要の全
1つ1つ飲み込む
全を取り入れ満たす
ぎぎぎぎ 周回遅れ
回らない歯車
生じた軋轢
流す液と滲みる黒
病んだ液に染まる
共に繋ぐ伝と
浸透の即効に見る
感染の黒
外観の異容 粗野な内部
脆い仕掛け
さらり風が奪い去る
残骸の歯車
使い道が無いね
投げた先に屑籠
詰まれて重なり
ぽろりと落ちた
要らないから、ぽいって――
黒い塊に1つ1つの歯車
【再開発】
変わり行く町並み
以前は田んぼが
広々と拡がっていたのに
辺りはもう住宅しかない
こうして地元を歩いてみると
川が無くなった
いや、道の下に通っているが
コンクリートで土の息を止め
せせらぎが絶えた
辺りには騒がしい店が乱立し
その光は夜が来ると
空を突き抜けた
星までもが消えた
子供の頃に賑わいをみせた広場は
あの頃とは違い静まりかえっていた
私が大人に成ったからだろうか
そうではない
私が幼馴染みと一緒じゃないから
私達は既に別々の道を歩んでいる
企業に入り懸命に働く者
大学で勉学に励む者
家庭を持ち、子育てをする者
皆が違う様に生きている
皆も頑張っていると思う
私もこうして机に向かい
詩と云う気持ちに精を出している
いつか私の作品が彼らに届くと良い
過去を懐かしみ 今に無いものが
確かにあったと淋しく思う
新しいものには刺激が
古いものには想い入れがある
移ろい行く時と共に
感傷を覚える
【拓いた存在は夜明けに吼えた】
ガルルル、ヴァーシャ
野獣は唸り吼えた
反抗心と苛立たしさを抱いて
近付くものに鋭い閃光を当てた
いつも考えを廻らせ
行動が伴わず自己完結した
彼は1人では居ないが
いつも孤独だった
外面は凛々しく気高い
周りの期待を裏切らぬ様に
自己を律した
夜に為ると散歩に出掛けた
夜は彼の精神を落ち着かせる
夜と散歩は相性が良い
月が風情に夜道を照らす
蟲むしの戯れ、風の笑い
草木の寝言、夜の白
落ち着こうとするが
彼の憤りは常に燻くすぶっていた
何に対してかは分からない
唯、沸々と煮えていた
彼は吼えた
心の底から、彼の全霊で
行先を知らない感情は
そこからの抜け方も知らない
ウォーン
ウォーン
ググッググッググッ
ヴァーシャ!!!!
勢い良く駆け出した
何もかも投げ捨てて
目の前に広がる
地平線を目指して
疲労は体を重く
精神を研いだ
閃光は突き刺さり
抜取る事を許さなかった
やがて視界は狭まり
力尽きてその場に蹲うずくまった
目覚めたのは夜
辺りは異様に静かだ
大地の会話は聞えない
…………
音が無い
光が無い
痛みが無い
鼓動が無い
彼は状況に困惑した
何をしていたのか
何処にいたのか
どう生きたのか
自分は何者なのか
分からなかった
或る事ははっきりしていた
この沸々と憤る激情は
彼を放さなかった
彼は吼えた
精神に、天に、そして大地に
口は無くとも
存在自体が拓き吼えた
マギステハウキリウリツグ
ユシロギアクバチエボイテゾン
メギオーシン
ヨッテトノジュタニ
三位は目覚め肯定した
彼を 真に迫るその抗う様を
彼は存在を掴んだ
悟りによって
意識が形と為る
目覚めは朝に来る
存在と共に朝が来る
【責任への委ね】
逃げる事
それは解決ではない
況してや代案でもない
逃げてはいけない
覚悟が要る
どうやって覚悟を決めるのか
問題は其れだ
考えるだけではいけない
行動が要る
廻るめく思考は時として
行動を殺す
固執してはいけない
助言が要る
可能性と広い視野を持って
次の一手を差す
気にしてはいけない
他者の目を
行く行くは
自分で決めるのだから
責任を負い覚悟と共に
自覚しなければいけない
人の所為には出来ない
運命があるのなら
選んだ行動の先に
命が運ばれる
運ぶものが命なら
守るのは行動の選択にある
覚悟に属するのではないか
信じるものに自身を委ね
揺ぎ無い信念を築く
弱さは常に退路から漏れる
運命論を携えず
一蓮托生であれ
【心と小話】
至福は何処にも無い
苦難の間にある
束の間の休息を
至福と呼んでいるだけ――
合点の行かない事を
人は拒み排除しようとする
それが苦難となり
目の前に立ち塞がる
主観が違えば
その苦難は苦難に非ず
そう、心だ
人の心が苦難そのもの
感情は厄介で
本人さえ呑み込んでしまう
それがある為に
振り回され
疲れボロボロになる
心は主観的に映し出す
他人が羨んでも
当事者の価値観で黒ずむ
逆に他人が見落としても
些細な事に光を見出せば
それは一気に輝きを帯びる
小話をしよう
男はある優美な女性に憑かれた
彼は対人不信に陥り
ちょっとした会話も困難となった
そんな最中ガラス越しに並べられた
美しい女性を目にした
彼女に心が無いのは分かっていた
けれど、彼の心には
彼女の声がはっきりと聞こえた
何も言わなかったのに
彼女から話し掛けてきた
淋しい――
彼は彼女を自分の部屋に招き入れた
気兼ねなく話せた
彼女だったから仮面を付けなくても
有りの儘ままの自分を曝け出せた
彼は彼女だけを愛した
彼女以外の女性を
愛する事が出来なかった
無垢な微笑みをくれるのは
彼女だけだった
それだけで良かった――
それだけで彼は至福を見出せたのだ
心に仮面は要らない
必要なのは理解との繋がり
上辺だけの付き合いは
他人との関係に他ならない
心と確しっかり向き合えば分かる
好きな事と嫌いな事
好きな人と嫌いな人
自分の好きな所と嫌いな所
考える事と考えない事
解決する事としない事
トラウマ、偏見……
それらが混ざり合ったものが心
されど、それらを生むのも心だ
心に呑み込まれてはいけない
自ら向かい合い
理解する事が重要だ
これからどうすれば良いのか
分かるはずだ
それに従えば
自ずと道は照らされる
心と云う輝きが器から溢れ出す
そんな時 溢れた輝きに
気付かない人が居るだろうか
貴方は只々前を向いて
歩んで行けばいい
心は勝れて主観的なのだからね
【発端の直後】
生まれない
無からは何も
無は発端であり
終局との裏返し
無は全の原形である
全の生まれは唐突であり
自然の如く存在する
全は在る
発端の直後に――
創造主は無から作り出す
想像の産物として
全を具現化する
創る
主は全てを望む
しかし理想だけは叶わない
全に構わず
理想だけに没頭する
1つ1つ
主の前から
全が消えて行く
主は気付かない
理想しか見ていない
主の理想は
意思を持っている
理想は主を唆し
未知へと誘う
優しく手招きをして
主は身を委ねる
理想を現実にしようと
長い月日が過ぎる
主はもう若くはなく
全の過去を懐かしむ
周囲は無に等しい
理想は虚ろ
しかしそれは主の支え
支えが無くては
全は生まれない
全の生まれは唐突であり
自然の如く存在する
全は在る
発端の直後に――
生まれない
無からは何も
無は発端であり
終局との裏返し
1枚の金貨であり
無は全の原形である
【the LovE of MadnEss】
Killing killing……
僕は息を白くする
眠れない子供達が寄り添う
この広場に佇んで
街灯が無いから
お互いの顔も確かめ合えない
でも感じるこの温かさで
何もないぽっかり空いた穴を
塞ぐように覆う手と手の繋がり
Killing killing……
冷え切った手を拒みもせず
優しく握り締めてくれた
笑顔が輝いている
どこからか漏れた光に照らし出され
どんなモノにも劣らない
かけがえのない宝物がそこにあった
夜に響く歌声
どうしてこんなにも綺麗なの
過酷に立ち向かう強さで
都会の穢れに染まらない
無垢なラブが心臓を掴む
呼吸を忘れた瞬間の衝撃で
焼きつけた映像が
僕の脳を溶かしていく
I'm an innocence.
Madness is the love-perfection,
Killing killing the heroine.
月光のスポットライト
照らし出すアリアの壇上
輝きを増すその存在感に
スライドする視界の先
崩れ落ちたヒロインに
Killing killing……
ナイフが狂乱する
防いだ掌の痛みから
命の原液が流れ落ちる
生温かく歪むインパルス
末魔をなぶり聴かせてもらおう
賛美に値する死の歌唱を
皮膚を剥いで愛を詰め込む
それがイノセントラブ
信じ切った行動の果てに
確かに理想を形にした
そんな月が美しい夜空の世界で
Killing killing……
【脆い程触れられない】
触れれば壊れてしまう
そんな脆い存在を
私は守れるだろうか
どんなに想っても
どんなに愛しても
触れ合う事が出来ない
何と悲しい事か
触れないのなら
避けているのと
同じではないか
いっそ触れてしまいたい
其の後どうなるかは
また考えれば良い
いざ向き合うと其の脆さが判る
恰も砂の城が乾いて
風でサラサラ
其の形を失くしていく様だ
だから触れない
水で整え様にも
掛ければ崩れる
そうなのだから
只見ているしかない
失くした物は戻らない
形が有れば尚更
其の形を壊してはいけない
其の為だけに生きている
触れれば壊れてしまう
そんな脆い存在を
私は守れるだろうか
【筆と当時者】
人生が1つの本なら
頁ページを開くと
文字の蟻がぞろぞろ
振り返ると何が思い出されるのだろう
綺麗な記憶だけでは無いはずだ
凝った展開
巧妙な布石
改編出来る世界
創造の産物である物語
非現実的
悩み続ける脳裏
理想と現実の溝
見えない未来に向かう不安
残酷な事はない
現実を直視する程に――
筆者は神の如く筆を進め
感情を支配する
独裁主義を掲げ
出る杭は根絶やし
恰も暴君が間違って
祀り立てられている様だ
世の中上手く行かない
当たり前だ
これは作り話ではないのだ
傍観者で無く
当事者であり主人公
社会と云う名の偽の舞台で
打ちのめされ弄ばれ――
それでも前を向かねば
明日はやって来ない
本気で生きるって?
そんな疑問が浮かぶ最中
答えは何処に
どうやって見付けるのか
足掻いている
足は着かない
大海原で1人きり
どうすれば良い
辺りには島すら見えない
目的地が無い
死ぬのか?
溺れ死ぬのか?
こんな所で――
足掻けというのか
絶望的過ぎる
そもそも これは現なのか
夢なら溺れる苦しみで
眼が覚めるはずだ
大丈夫
私は良くやった
もう体力は無い
救いも無い
1人で逝くのだ――
足掻く事が生きる事なら
否応無く誰もが課せられる
生きるとは生きる事と
向き合う事かもしれない
答えが解せぬならそれでも良い
思考で見える物ではない
経験を重ねた先に見える物だから
【夜に眠る~拷問の刻~】
同じ夢を見る
何回も何回も
夢の中だから
何も感じない
そんなはずだった
とても恐ろしくて
それは容易に突き刺さる
脳の神経を伝って
私は友人と愉快に喋る
彼らとは古い付き合いだ
それ故 懐かしい
彼らは突如雰囲気が変わり
私に襲い掛かる
何処からかナイフを持ち出して
私は床に押し倒され
全く動けない
私の手を掴み
彼らは指の間を
小刻みに切り出す
止めろ!
必死に懇願するが
彼らは叫び声を挙げ
私を全く聴こうとしない
ナイフは段々切り込んで来る
動く度に私の血が顔面に飛び散る
嫌悪し叫び
血の雨が目に映る
理解してほしいとは思わない
この悪夢に起こされ また眠り
そしてまた同じ悪夢を見る
この苦しみを――
夜が来て
拷問の刻がまた始まる
私は眠りに落ちる
あの悪夢に魘うなされる夜に
【愛玩の餌】
愛おしく見詰める瞳
溢れ出す高揚感
そっと差し伸べる手に
身を委ねたくなる衝動
何て事無い切掛きっかけ
逃れられない目先には純白
嗚呼、何なのだ
弄られ掻き雑ぜられ
1つに溶ける精神
うぇっ、苦い苦い
それでも欲しい
気付かない毒に染まり
無我と盲目に入り乱れ
ここは何処――牢獄の中
さぁ、いらっしゃい
甘えと優越
虚栄で包む指先
なぞる跡に残る快楽
つーんて流し目
押引の抑揚
耐えかねる餌
襲い掛かる激動
千切られた肉片
喉元から折れた頭部
吹き飛ぶ赤をドッと浴びて
揺れる眼に映るは艶美
形の見えないモノに苦しみ耐える
それでも理解出来ず
歯を擦り合わせ 欠ける
全ては策略
愛玩と云う名の意図
1匹2匹の餌達
もっともっと――踊りなさいよ
潔白真っ白
見当たらない黒1点
誘惑の乱用
ちょこんと付ければ
あっ――と言う間
只々そこから染まるだけ
【痛みは寒さと共に】
ずっと忘れていたかった
この降り落ちる雪が吹雪く頃に
呼び覚ますあの記憶
街灯の吹き曝し 刹那の邂逅で
物悲しく噛み合った運命の歯車
この季節にそぐわない招かれざる者
足音が耳に響く
笑顔が映えるキミだけどそれは仮面
いつしか同化して剥れなくなったから
意思に反して心だけ泣いている
ボロボロになっていく姿が痛い
これ以上傷付かないよう
心の整形が出来れば良いけど
無理だよね 治療してもらおう
きっと良くなる
新しい表情 継ぎはぎの心から
まるで何も知らない子供のよう
思い出したよ これが本当のキミだね
今だけは泣けることがこんなにも嬉しい
止め処なく溢れるこの涙が
優しく頬を伝うから
忘却の彼方 どれ程綺麗な記憶でも
重荷にしかならないのなら
一切思い出さないように
この寒さはいつしか心地良くなる
通りすがる見覚えのある少女
この痛みさえもいつしか移りゆく
懐かしさへと変わっていく
【消費】
逃げてばかりだと壁は高くなるばかり
形を変えていつだって立ち塞がる
その度に越えて行けば良いのに
どうすれば正面から向き合える
その日をただ過ごすだけの無意味な日々
呆れても怠惰な性格が脳から削除していく
何もかも忘れれば楽になる
何もしなくても苦しいから
息をするだけでも辛いから
生まれてきた意味なんてどうでも良いのに
生きる意味を見付けるのに人生を費やす
【狂おしい程の末路】
ねえ? 世界が今日無くなるって言ったら
信じられる? 私は構わないわ
だってこんな世界じゃあ
アナタと永久に寄り添っていられない
1つになるって云うけどそれって何?
理解できないし たとえ間違っていようと
誰にも説いてほしくない この躯が邪魔で仕方がない
ああ 私の何がアナタと交わることができる
差し出せないのなら
せめて流すことを許して
魂を震わせて この命の入れものを捨て去る
覚悟がある
割れた鏡に映るヒドク醜い姿 顔も歪む
きっと汚れているから アナタには見せられない
この想いが伝わる頃にはもういないの
表現できうるカタチ
心を覆う狂気が犯していく
這いつくばってでも
この1滴だけは届けさせて
最果ての地へ堕ちた抜け殻
抉り取られた翼は動かない
流れた赤で記されたMessage
アナタだけに許されるこの朽ちた躯に
せめて半分だけでも満たしたかった
【さらば桃源郷】
さらば我が故郷
いいえ、違います
戻るべきは此処です
為らば桃源郷
はい、逝けるものなら
そんなものは在りません
それでは何処へ行けと?
ええ、何処へでも
気には留めませんから
何故に突き放すのか?
あら、癪ですか
構って欲しいものかと
まさに計算高い
はあ、アナタって人は
とんだ思い込みです
さて出掛けるか
そう、お茶にしましょう
未だ話は終わっていませんよ
はて今日の夕飯は?
ぜひ、お粥でも
流し込んであげますから
お粥とは実に噛み応えのない
ねえ、外は雨
傘もないのに遠出ですか
良い男の味方は雨だけ
んん、いつもの妄言
アナタは気楽で良いわね
向かうは壮言な夢
ああ、蝋燭の灯
ワタシは傍観者のマネごと
さらば桃源郷
いいえ、アナタの心
創り出すもの全てが現
出でよ我が故郷
はい、お帰りなさい
居場所は此処ですよ
【虫食い傘】
雫で肩を濡らす
傘を差しても虫食いの穴から
甘んじて垂れる雨が染み込んできた
水溜りに浸かった足元は冷えて寒い
重荷となる役に立たない物を背負い
重い肩が垂れぬよう
背筋だけでも伸ばしていこう
濡れて座れない公園のベンチ
風に揺れ軋むブランコ
あの頃の面影が目の前で浮かび
腰を下ろせる場所へ誘う 暖かな風が首筋を{擽}{くすぐ}る
外へ出かけては雨で紛らした
下を向いた気持ちが
滲み出してしまわぬように
心を荒らす
悲しみより穴が開いた感じ
何枚重ねても薄く
喪失感が覆う始末
砂利で滑る歩みは揺れ
軸が濡れる 空回り
【愛と絆】
誰かの為に死ぬなんてしない
例え身内にでも恋人にでさえも
偽善を振り撒くことは出来ない
これが価値観―正義だ
家族や人との間にある絆なんて
確かめようもない
離れてしまえば希薄になる
TELにメルの回数
絶対なんてない愛の形
歪めて恣意のままに押し付ける
自分の中に無いもの
魅力を感じても
満たしたいだけの欲望が暴れている
他人の目を気にする癖に
関わろうとしない赤の他人
優しくするなら誰にでも出来るけど
高望みの優しさだから
自分に陶酔している
自分を良く見せたいだけ
絆だの愛だのを言葉で括ってしまうから
感じるものを見ようとする
形など無いとさっきから言っているだろ
【ココロの心地】
存在価値と命の重さを比べてみた
どちらも形がない
両手の天秤は空なのに
確かに感じる重さがあった
両手で抱えきれないもの
守りきれないものがある
手先が悴んで動かせない時でさえ
雨が降るが如く容赦なく振り落ちる
ガラスの様に砕け散る
足元の破片を尻目に
足裏に食い込んだ加害者と
その痛みを感じている
跡を残す滲み拡がる赤
他人に認められ
生きる価値を実感することもある
命が絶対的なものとしたら
無意味な感情などに
価値はあるのだろうか
心臓が活動しているだけでは
ココロの心地は分からない
価値観だけの存在と
誰もが認める命の尊さ
比べるまでもないのだろう
独りで生きるのは淋しい
物に囲まれても満たされはしないから
人の輪に入りたがる
ココロがどうしても頑なに
抱いた欲望を認めない
何も考えないで
伏せ目がちに放心している
スピーカーから流れる音を拾い
只聞こえる理解しないココロ
時間を殺すだけの無意味な日々
捨てるように過ごした意味
本当の目的が埋もれている
何の為に生まれた――
誰も考えない
誰も気にしない
誰も真に受けない
他人に訊いた答えは他人のもの
自分で出した答えでなければ
自分の重さにならない
手を繋ぐと輪が出来る
所詮は烏合の衆
共有と共感は偽善の類
気持ちが悪いだけ――
見せかけに騙されるな
人の間で生きないといけないけど
他人と同化する必要はない
ココロに正直でいよう
他人さえ偽れないのに
どうやって自分を偽れば良いのだろう
共感しようものなら
自分のココロに訊いてみな
【影が落ちるその輝き】
影が覆う 私の頭上から
赤と黒が入り混じり 意識が歪む
黒がうねり、這う
ゆら~りゆらり
牙を研ぎ その輝きは隠したまま
木に登り枝を伝い端から落ちる
何も無かった様に其の儘這う
黒は痕 その痕は消えない
深く刻まれ
忘れるなと締め付ける
研ぎ澄んだ牙
衝動は突き刺さる
意識も鋭く
その鋭さに痛みすら感ける
{無辜}{むこ}の民よ
その穢れ無き赤を我に与えよ
これは忠誠の証である
流れる赤は滴り
黒い痕に赤は沿う 滲み込む
黒は赤を玩味する
夕方に私は恍惚と佇んでいた
いつも見る夕日
その夕日がそこには在った
只々美しく在った
【激動渦】
未来を考えるとある彫刻を必ず思い浮かべてしまう
その彫刻は気でも狂って私にしかめ面をする
記憶が薄れ そいつは邪魔をする
運命は不可視で未来は予言
望むものは拒絶される 私の決意は顕著だ
時間は過ぎ去る 私を置いて
隙間を求めて もう悲鳴を挙げそうだ
出口が無いのに如何して此処から出て行ける
【可能性】
可能性を掴むのは容易ではない
挑戦しないと潰してしまう
しかし一方で救われる
そこへ繋がる鍵は達成しようとする
お前の強い意志だ
もしも信じる道を歩めたら未来は問題無い
そこに落ち着くだろう
【復讐の丘】
手を取り合えば 助け合えると言っていた
お前からその手を離すなんて
裏切りの甘美な果実が程好く喉を潤す
乾いた欲望に豊富な栄養を与えて
起こして魅せよう
罪に酔い痴れる愚か者よ
汝の名は羞恥 目と目の狭間に止まる者よ
他人に縋る愚か者よ
汝の名は怠惰 両腕に抱えられる者よ
羞恥と怠惰の籠に揺れて眠る
吊るす紐が細いことを知らずに
安らかな眠りは長く続かない
突然の衝撃で引き戻される
恨みを持つ者は
その存在を知られてはいけない
懐に隠して暖めておく
厳しい冬を乗り越え
その芽を出して咲き誇れ
罪の華は綺麗で目を引く
誰でも釘づけになるから逃げられない
どこに咲いていようとも
見つけ出され刈り取られてしまう
今さら赦しを請うなんてもう遅い
罪の華を突き付け
その頭を踏み付けてやった
何故私の顔は苦痛に歪む
心が晴れない
赤の果実は再び実る
憎悪の念を養分にして
燃え盛るほどに露見する醜悪さ
こんなものを欲したと云うのか
まともに見られたものではない
美しさの欠片もない
復讐の丘を見上げる度に
あの切なさと無意味さを思い出す
埋まらない心の穴だけを残し
淋しさの肩で踵を返す
【死の姿】
陸橋を歩いている 寒空の下
街灯の灯り こんなにも滲んで
淡く儚く霞んで 溶けていく様に
呑み込まれない様に手を伸ばした
指先が痛い 裂けて固まり捲れたまま
時間が経てば治って行く 痛みも和らいで
消えゆく 忘れても覚えている
あの痛みをあの悲しみをあの苦しみを
その欠片に触ると不注意から血が流れて
その瞬間に気付く 生きていると
私は生きている 胸に手を当てて感じる命
何よりも大切なのに無くしたら駄目なのに
容易く切り捨てようとするなんて
知らないだけの死の居場所
近くに無いだけ
存在しないとは少し違う
自分では直接背中は見えないから
そこがどこだか分からない
見える物はいつも目の前にあって
触れたいならそこまで行ける
死だけは埋もれている
隠れて見えない
姿を垣間見ても寄せ付けず
それだけの力で奪ってゆく
この精神をこの体をこの世界を
私を取り巻く全てが
いつか消えて無くなる日が来る
その時死はどこに居る?
背中に張り付いている?
目の前にいる?それとも世界の裏側――
見えるものだけが全てじゃない
本当は今見えているものに紛れている
分からない死の姿
だから怯える 怖くなる
いつも頭の片隅に居るのは死だった
死だけに答えを出せなかった
【ザ・ダーク】
何もない掌を見下ろす
掴みかけた尻尾の端
見覚えのない映像が掠める
この胸を抉っていく
この細い糸で縫合する
止まぬ鼓動が生きたいと
叫び声張り上げる 枯れる声は
誰にも届かないんだ
密の味が恋しくて
彷徨う果てにマグマの雨
皮膚が{爛}{ただ}れ骨の髄まで
燃え散らす程の業火
逃げ場など在らず
消滅が対価となった
闇に堕ちたアナタを助けたかった
赤く染まった命の糸手繰り寄せて
ほどくためじゃない
そう切り刻んでこの心までも
跡形もなく血溜りだけ残して
消えた どこからか微かに
聞こえた悲鳴は気のせいにして
戻れないケモノ道を進む
足元だけ照らせるランプを片手に
行く先見えない不安拭えない
探し物を見付けるまで
この躯は休まらない
夜の静けさ 差し込まない月明かり
闇に踏み込もうとしている
例え帰れなくても構わない
躯は置いて魂を抜き取るように
闇へ堕ちてゆこう
【生きる意味】
意思を持って生まれてきた訳じゃない
だから自分らしさなんて無いんだよ
僕たちはいつも自分を探している
大人になるのを拒む様に唾を吐き
刃向かう様に社会への扉を足蹴りにする
誰かの所為にして自分を受け入れないまま
いつも彷徨っている 無くした物を探す様に
望まれて生まれてきたのは確か
見ず知らずの女性がお腹を痛めて
母親になった 囁く愛の歌に包まれ
愛が溢れたあの故郷で
芽吹く命の風に心地良さを感じていた
僕の代わりは幾らでも居る
自分がやらなくても誰かがやるだろう
ちっぽけな存在だと嘆いても
この意志だけは捨て去る事が出来ない
魂を燃やして灰になろうとも
此処から逃げ出す事なんて出来ない
何かを成し遂げる力は生きる力になる
力強く前だけを向かせてくれる
生きる意味なんて後付けでしかない
必死に生きていれば考える暇さえも
無いんだから もっと魂を燃やせ
恰好良くなくたって 我武者羅になるのも
悪くないよね
【誕生日】
Happy Birthday to Me
Happy Birthday to Me
Happy Birthday dear ……
命の灯 折角の誕生日なのに
どうして自ら吹き消すのだろう
祝うべき日の笑顔が暗闇に消えた――
手探りで照明を見付けて
今日の主役の確かな存在に安堵し
溜息を漏らす
自らその灯を吹き消すのは
その日に殺して新たな「自分」に
生まれ変わる為ではないだろうか
正しく“誕生日”なのだ――
Happy Birthday to a Newborn-me
Happy Birthday to a Newborn-me
Happy Birthday dear ……
【楽園】
区切られた彼方からの光
見上げるのも虚しく
暗闇には届かない
横たわる躯
硬く冷たい地面での
休息は叶わない
これは夢だ――
もしも次の朝を迎えたら
朝日を浴びよう
ベランダに出て肌寒い空気に
躯を晒そう
潰れた声で叫んだ
震える魂のざわめき
誰に届くのだろう
空虚に木霊する
例え何も無くても
鼓動だけは感じている
手足が腐っても
呼吸は出来る
夢を見ていた――
求めていた楽園が広がる
儚い刹那の残像となる
檻からは出られない
この躯と地球と云う枠を払い
昇って逝きたい
【枷の重み】
この歩調が遅いのは
―重い枷―枷が重いから
生を受けた瞬間から
頚と云う頚に嵌められた
或る種の呪いにも似た期待感
必死にその存在を証明しようと
鳴き叫ぶ命の讃美歌
年輪の如く歳を重ねる度に
太く重量を増して行く
悉く締め付けられた頚と云う頚は
細く弱く――息さえ短く浅く
余りにも脆弱
この躯で支えるには
耐え難く地へ垂れる
折れ曲がった背骨を見切り
漏れる嗚咽と慟哭のみ
期待や賛美など有りはしない
這い蹲り砂利の味を
噛み締めていた
【珈琲との付き合い模様】
薬缶にマグ一杯分の水を注ぎ
IHで沸騰させた
――のは何時からだったか
珈琲ドリップの封を切りマグに掛けた
――のは如何してだったか
開けた瞬間に香りを嗅ぐのは
癖になってしまっていた
いつからだっただろう――
気が付けばそうする様になっていた
偶には豆を挽く事もある
手間ではあるが、それはそれ
その分を美味しく感じられる
ドリップのパック式の方を良く飲む
矢張り開封の瞬間に香りを嗅ぐのが良かった
その刹那に味わえる香りを楽しむ――
そうして沸騰した湯をパックに流す
と云う一連の流れ
一回目の湯を注いだ分が流れ落ちると
三十秒待つ、らしい
裏面の説明書通りに――その通り
かと云って従う場合とわぬ場合での差異が
如何にも分からない
それを分かりかねている間は
通への道は閉ざされているのであろう
幸か不幸か――私にとっては別問題だった
悪く云えば――如何でも良かった
夜鍋するだけの眠気さえ抑えられていれば
珈琲でなくても何でも構わなかった
強いて挙げるとすれば
珈琲を飲んでいる所以は
矢張り開封時の香りなのだろう、と
悪戯に考えてみる
湯を注ぎ切った直後の珈琲は熱い
水面に息を吹き掛けながら
啜れる程度に冷まして行く
一口分を喉へ通し私は一息吐いたのだった
――うむ、吾輩は猫舌である
【水面オレンジ】
砂を攫って行く波が
私を御出で御出でと呼んでいる
潮風と砂利の音と
テトラポット越しの飛沫
幾度も浜辺に打ち寄せる
潔い身の引き際に
砂利を巻き込んで行った
波の跡が伸びているのに気が付くと
漸く時間が経っている事を悟った
日が昇り――
――日が落ちる
土手の歩道、階段、雑草、石ころ、
虫の塊、バイパス、川の鯉、中洲、
腕時計――
針は一秒一分一時間と刻み続ける
遠方で風車の羽が回転していた
空の穴から零れた光が
水平線の一部を橙色に染めた
雲の拡散で現れた太陽の下
揺らめく水面の道
波と共に私に御出で御出でと誘う様に
目の前の光景は私だけのものだった
【ガラクタ】
何が有るのか知りたいよ――
何が自分か分からなくて――
奥底を開いて私を覗き込んだ
この世界に繋ぎ止める
原色の赤が広がっていく
どれだけかき集めても
生温かい温度を感じるだけ
喉を通して躯に戻すことも叶わない
口にした分だけ漏れ出すから
雨のように浴びたいのに
顔に擦り付けた
水遊びの仕草が出来なくて
何も出来なかった
何を手にする事も無かった
生きていれば失う物ばかりで
摂取が苦になった
頭痛が友達なんて嫌だ
この躯も拒絶している
ただ空になりたいだけ
苦痛を味わう時間を変えたくて
私は抗って――でも何も知らない癖に
もがいて溺れていく
どれだけかき集めても
生温かい温度を感じるだけ
――私は消えたくない
【社会の屑】
日付が分からなくなる程の混濁から
零れた意識の波紋が拡がった
――抗う事は出来ない
弄ばれるが如く脳内はグチャグチャプリン
私はミンチスプラッターで逝った
そそり立つ波に襲われ
細い頚は幾度も絞られ続けた
喰い千切られる恐怖に駆られ
それでも進むべき道を進む
誰かの囁きは既に思い出せなくて
だから答えはこの先の絶望が知っている
これっぽっちじゃ変わらない
どんどん捨てていかないとゼロにしないと
私はこんな為に生まれて来たんじゃない
持っていた憧れも捨てた
何にもなれない現実に肩を落として
――期待さえもシュレッダーの紙屑
絶望する為に生きている人類は
希望と云う淡い夢を見続けている
目を開けていたら光で焼かれてしまうから
目を閉じて眠ってしまえば良い
意識さえも手放した
私は何にも為れなかった世捨て人
人の形をした社会の屑よ
命など軽い――重いのはこの躯なのだ
生きて――生きていて如何する
私が楽しくなる事を言ってみろ
生きるのに理由が要らぬなら
この世に居るのに意味が無い事と同義よ
【Out of Sight】
耳元で響く雑音は
車が風を切る音そのものである
空中を独占する我が物顔の爆走車
嫌味の篭ったその速度に私は付いて行けない
まるで追い付けない――
予想だに出来ないその行方を目で追うだけで
力尽きて仕舞う情けない体力が恨めしい
不意に音を潜めて身を隠すその仕草は
気の流れを読む達人の域まで達している
歩行も得意と来ればもうお手上げである
唯一の弱点は己の梶が取れなくて
部屋の四方に体当たりしては
こつっと音を立てる事だ
【木漏れ日と微風に思う】
風にさわさわと戦げば呼吸を感じ
陽射しが零れると命を感じる
葉っぱを震わせて枝の隙間を抜けて
私の頬を掠め行く――此処は風の通り道
寝転がりモザイクの天井を見上げる
頚を傾げるとか細い線は軈て
地に根を張り潜り込む極太の柱となる
何年経過しているのだろう
萌え出づり枯れ萌え出づりて枯れ
四方に枝を張り葉をびっしりと付けるまで
何年か前に成人したばかりの歳月では
到底及ばないのだろうね
その幹や枝の細部に時を感じる
只其処に在り四季と共に移ろい行く
計り知れない壮大さに圧倒されていた
此処を訪れる時には必ず雨が降り
その度に雨宿りのお世話になっている
私は何かしらの運を感じて止まない
【私がネクタイを締める所以。】
仕事に付随するのはスーツだが、
それは偏見の賜物だとしても、スーツは鎧である。
ネクタイを締めるが故に、必然的に頚は絞まる。
一定期間だけはネクタイを締めずに居られるのだが、それは例外だ。
息苦しい第一ボタンを外し頚元を緩め、気道を確保する。
其れだけで心地は軽く、息吹は甦る。声も出せる。
然し其処から溢れ出す物こそが穢れだ。
暑い暑い、汗を掻くだけの理由で頚元を緩めはしない。
夏の時季には矢鱈と五月蠅く鳴く者が多い。
その期間だけネクタイを締めないのは、ヒトも同じ理由である。
泣く無く哭く――――鳴く無く啼く。
暑い暑い、訳も無く虫けら同然に嘆くのを止めない。
その声は彼方へと消え行く。彼の国へと届く様に。
泣く事は何かを求めているからだ。
気付いて欲しい、認めて欲しい、愛して欲しい。
求めて已まない私は未来永劫泣き続ける須佐之男である。
母に逢いたい、母性が欲しいのだと喚いて居る。
その欲求が手掛かりであり、その鍵は泣き叫ぶ事。
穢れの国、黄泉の国へと導く。
慟哭は穢れであり、穢れた鍵は穢れた場所へと誘う。
――黄泉の国へと。
その国の住人である母は既に穢れている。
母性を欲するのならば、私は穢れを求めている。
穢れを求める私は既に穢れた存在なのだ。
其れ故ネクタイを締める所作は穢れを祓う儀式である。
褌であれコルセットであれ――泣く子でさえ、
それらを締める行為は穢れを遠ざけ染まらせない為だ。
頚を絞めれば声は出せない。声が出せぬのなら穢れはしない。
締める事で穢れを祓うのだ。
穢れて居ては仕事は務まらぬ。
故に今日もネクタイを固く締める。
緩まぬ様に、穢れない様に――、
私はスーツを纏うのだ。
【参考文献】
・波平恵美子著『ケガレ』(講談社)
【死にたい死にたい詐欺】
空気を吸い
水を飲んで
生きて行くと
思っていた
気が付けば
ガスを吸い
毒を呑んで
死の淵を
歩んでいたのは
予想外の
何物でもない
※※※
何にもなれない現実は
呼吸するだけで
辛いけれど
この際
これを綴ることは
捌け口であり
逃げ口であり
頼れる唯一の手段なのだ
そうだとしても
僕にだって
意地がある
あるのだ
どんなに
重荷を背負おうとも
担いで行かないと
この生からも
逃げることになる
逃げるものか
※※※
簡単に
死にたいと
思う
世の中
病気の時に
健康を意識するように
健康体であれば
何も感じない
だから
死にたいと
思う状態こそ
死が一番遠くにある
状態なのだ
健康体だ
幸せではないか
死ねば良いと
思っている内は
お分かりの通り
死ねないし
死なない
本当にヤバい状態なら
思うまでもなく
死んでいる
この世に
既に居ない
※※※
大学を
卒業すれば
就職が待っていると
いうのが
極普通の考えなだけに
働かないと
疎まれる
働いて
稼いで
独り立ち
漸く大人と
みなされる
逆に
大人だから
働いて
稼げというが
働けないこともある
働く意思はある
働かないとは違う
他人は
それを甘えという
そうだろうか
そうすると
労働か
死か
その二択しか
僕には
見付からない
会社勤めで
嫌なら
辞めれば良いと
いうけれど
そんなに簡単じゃない
止めてどうする
本当に
やりたいことが
あれば
別だが
それに
向かうために
やめれば良いと
思う
けれど
今の世の中
夢を持っている大人が
どれ程にいる
何がしたい
何のために生きる
どうだろう
僕はそれが知りたい
果たして
何もやり遂げない生に
生ける価値は
あるか
否だ
価値はない
では
意志のない生は
あるのか
否だ
極端か
だったら
意志はある
けれど
それを
全うできない状態に
価値はあるか
否だ
意志は見えない
意志は行動を伴う
行動を
伴わない意志は
意志じゃない
※※※
まとめよう
死にたいと
思うのは
健康の証明
働ける状態
意志があれば
行動できる
行動すれば
甘えじゃない
以上
※※※
【匣を潰せ!】
感情が私の邪魔をする
潔く断ち切るはずのこの世界から
いざいざ逝こうとする時に限り
二の足を踏ませ唇を噛ませる
私は揺れる
この先が見たいと願う
それは未来か過去か
私が今いる此処は何処なのか
祈りは届くのか届けるのか
願いは叶うのか叶えるのか
私は何をすべきなのか
義務や願望を脱ぎ捨てて
決断を強いられている
感情を殺そうとしても
体の奥から息吹の鼓動が叫ぶのを止めない
静まれ 何を訴える
命の尊さか残される人々の悲しみか
否、これは価値観だ
この世界に縛る為の虚言の類いだ
私は噤む 価値や意義で
この世界を生きる事が何となる
理解する必要が何処にある
言葉で表す事は形容に過ぎず
本物を伝えられないと云うのに
それは徒労だ
分かり合わなければいけないのなら
如何して私達は個体を持っている
如何して主張し合い対立する
個体であるが故に悲劇は起こっている
想い込みや誤解で成り立っているのも
個体と云う匣で区切られているから
和を求めるなら
その匣は潰さなくてはいけない
潰す事が出来れば仕切りは無くなり
私達は一つになれる
否、零でも良い 世界になれば良い
理解し合う段階を踏む必要も無くなる
言葉や感情、そして個体が無くなった
世界こそが平和であり
私達が本当に望む在り様なのだ
【神の階段(God's Stairs)】
天空を獣が駆ける
その出で立ちは嫋やかに神々しい
日の光を地に架ける
後を追わなければ――
駆り立てられる心が騒々しい
翼の無いヒトは飛び立てない
目を細めると見える物
固体化した空気は落下しない
それが階段(神の代物)
子供達だけに与えられた土地
隔絶された渓谷の隙間から見上げる
曇り硝子の瞳には黄昏の夕日
過酷な環境が生存率を下げる
人気の無い小高い丘に覚える
違和感に引かれ乍ら自転車で
立ち漕ぎ懸命に吐息が凍える
既視感を抱き乍ら腕時計の針
重なった儘で記憶重なる
消え行く背中が夕日に沈む
高所に震える脚は云う事を聞かない
子供達は口を開けて佇む
去り行く王は城を捨てた
儚い願いもまた泡沫人
踏み外せばその先には死しかない
神の階段は確かに在る
優しい未来を信じてる
生にしがみ付く子供達は無力
希望も祈りも霞んで見える
この階段を登った先の景色
きっと太陽が照らしてくれる