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青藍執事の秘密  作者: 灯都和
ChapterⅠ◆青藍色の瞳
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第六話

 ――午前七時半。

 エティシラはいつもラオヴァルトに起こされている時刻より、三十分早く目を覚ました。

 まっすぐに差し込んでくる、朝の日差しが眩しい。

 眠い目を開いて窓の外を伺うと、昨夜の大嵐が嘘のように静かな風景がそこにはあった。

 淡水色の空はどこまでも澄んでおり、昨日は身を潜めていたのであろう小鳥たちも元気にさえずっている。

「……?」

 と、ここでエティシラは、いつものように純白のベッドで寝ていたことに気づく。

 毛布までちゃんとかけられていた。

 ――昨日は、ラオヴァルトにしがみついてそのまま床で眠ってしまったはずだ。

 恐らくラオヴァルトが、眠ってしまった自分をベッドまで運んでくれたのだろうけれど。

「ラオヴァルト……?」

 部屋の中を見渡して執事の姿を探すと、カーペットの上に横たわり眠るラオヴァルトの姿があった。

 エティシラは思わず彼の元へ寄り、息を潜めてその寝顔を見入ってしまう。

 必ず自分より遅く就寝し、まだ自分より早く起床する執事の寝顔はかなり貴重なのだから。


 だんだんと眠気が離れ、エティシラは昨日のことを鮮明に思い出す。

 半径五メートル以内に近づくな――と言っておきながら、嵐に怯えて、泣きながらラオヴァルトにしがみついたこと。 

 ラオヴァルトはそんな自分に怒ったりせずに、優しく抱きしめてくれたこと。

 それから、

『……あなたが落ち着くまで、ずっとこうしています。俺が付いています。だから、どうか安心してお眠りください』

 ラオヴァルトのあの言葉――。 

 様々なことを思い出してゆくうちに、エティシラの頬は赤く染まる。

 

 青藍色の瞳をめた、整った顔がまっすぐに自分に向けられていた。

 そばにいて、と一言命令すれば、眠るまでずっとそばにいてくれた。


「……ラオヴァルト」

 エティシラは小さく呟いた。

 ラオヴァルトはまだ目を覚まさなかったが、彼女はそのまま続ける。

「ありがとう」

 消え入ってしまいそうなほど、小さな小さな声で。


 しかし、それは眠っているはずのラオヴァルトの耳に届いていたのか――。

「……ん……」

 ラオヴァルトは小さく唸り、ゆっくりと目を開いた。

「っ!」

 突然現れた青藍色の瞳に、エティシラはびくっと肩を上げ、露骨にうろたえる。

「お、お、お、起きたのね」

「姫様……。結局、俺もこの部屋で眠ってしまいました。すみません、すぐに執事部屋へ戻ります」

 ラオヴァルトにしては珍しく焦った様子で、すぐに立ち上がって身を正した。

 エティシラの父と母は、もうすぐ帰ってくるはずだ。

 姫の部屋で眠ってしまったところを見られては、彼にとっても示しがつかないのだろう。

「……今日はなるべく暖かい格好をしてなさいよ。一晩中毛布もかけずに寝てたんだから、身体冷やしてる……でしょ」

 まるで母のような言葉で、エティシラは部屋を出ようとしたラオヴァルトを引き止める。

「ありがとうございます、姫様」

 ラオヴァルトは一度振り返って微笑むと、「失礼します」と頭を下げて部屋を出ていった。

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