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青藍執事の秘密  作者: 灯都和
ChapterⅡ◆俺の姫
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第十一話

 扉の前に佇んでいる男性。

 あれは紛れも無いブルーノの姿だ。

 彼が姿を消してからそう長い時は経っていないはずなのに、何十年ぶりに会うかのように懐かしい気持ち。

 一体何から話そう。

 突然いなくなったことについて、思う存分文句を言ってやろうか――。

 彼のもとへ走ってゆきながら、エティシラの表情は自然と綻ぶ。


「――やあ、ラオヴァルト」

 しかし、ブルーノはエティシラの存在には気づかずに、女たちに囲まれているラオヴァルトへと真っ先に声をかけた。

「おじいさま……?」

 ブルーノの突然の表情に、ラオヴァルトは驚いた表情をする。

「暇が出来たので、宮廷へ足を運んだんだ。ちょうどお前さんに話もあったからな」

「話?」

「ああ。とても大事な話なのだよ、ちょっとここでは話しにくいのだが……」

「分かりました。それでは、ホールの外で……」

 ブルーノとラオヴァルトは小さく声を連ね、そのままあっさりとホールを出てしまった。

「やだぁ、行っちゃった」

 ラオヴァルトがいなくなり、女たちは一斉にがっくりと肩を落とす。

「……?」

 会話の内容は聞き取れなかったが、二人が肩を並べてホールを出たのは、エティシラのいる場所からしっかりと見えた。

 ――どうしたのだろう。

 疑問に思ったエティシラは、二人を追ってホールの外へ出ることにした。



「ブルーノ? ラオヴァルト……?」

 少し重い扉をこじ開けて、ホールの外へ出たエティシラ。

 しかし――そこには二人の姿はなかった。

 追ってきたのが遅すぎたのだろうか。

 けれど二人がどこに行ったのか、まったく予想のつかないエティシラは困り果てていた。

「……」

 暫しの間そこに立ち尽くした後、エティシラは仕方なくホールへ戻ることを決めたのだが――


「――おじいさま」

 ふと響いた聞きなれた声に、歩みだした足を止めた。

「!」

 独特の透明感のある声。

 それは確かに執事、ラオヴァルトのものだった。

 エティシラは足音を忍ばせて、その声の聞こえてくる方へと歩み寄った。

 そしてようやく廊下に二人の姿を見つけ、エティシラは壁にこっそりと隠れて二人の話に耳を傾ける。

「おじいさま、お話とは一体?」

「うむ……」

 ラオヴァルトの問いに、ブルーノは少しの間を置いてから返事をした。


「お前に、見合い話が来ている」


「――!」

 何の言葉も出ない代わりに、エティシラの心臓が一度大きく跳ね上がった。

「先方の家柄はそう悪くないぞ。私としても、お前にはそろそろ結婚をしてもらいたい」

「……」

「執事を辞めろとは言わない。お前にとっても悪い話ではないと思うのだが……」

 感情の読めないブルーノの声。

 ラオヴァルトは無言だった。


 ――ラオヴァルトが見合いをする。

 他の女と結婚をする。

 その微笑みを、その手を、他の女に――


 どくどくと胸が高鳴る。

 痛いほどに大きく、苦しく。

 どろどろとした感情が流れ込む。

 何かの振動のように全身が小刻みに震えてしまう。

「姫様!」

 そのとき、エティシラの存在に気づき――声を上げたのは、ラオヴァルトだった。

「……」

 彼と目を合わせることができず、エティシラは俯く。


 エティシラの嫌な鼓動だけが響く、沈黙が流れていた。


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