第十一話
扉の前に佇んでいる男性。
あれは紛れも無いブルーノの姿だ。
彼が姿を消してからそう長い時は経っていないはずなのに、何十年ぶりに会うかのように懐かしい気持ち。
一体何から話そう。
突然いなくなったことについて、思う存分文句を言ってやろうか――。
彼のもとへ走ってゆきながら、エティシラの表情は自然と綻ぶ。
「――やあ、ラオヴァルト」
しかし、ブルーノはエティシラの存在には気づかずに、女たちに囲まれているラオヴァルトへと真っ先に声をかけた。
「おじいさま……?」
ブルーノの突然の表情に、ラオヴァルトは驚いた表情をする。
「暇が出来たので、宮廷へ足を運んだんだ。ちょうどお前さんに話もあったからな」
「話?」
「ああ。とても大事な話なのだよ、ちょっとここでは話しにくいのだが……」
「分かりました。それでは、ホールの外で……」
ブルーノとラオヴァルトは小さく声を連ね、そのままあっさりとホールを出てしまった。
「やだぁ、行っちゃった」
ラオヴァルトがいなくなり、女たちは一斉にがっくりと肩を落とす。
「……?」
会話の内容は聞き取れなかったが、二人が肩を並べてホールを出たのは、エティシラのいる場所からしっかりと見えた。
――どうしたのだろう。
疑問に思ったエティシラは、二人を追ってホールの外へ出ることにした。
「ブルーノ? ラオヴァルト……?」
少し重い扉をこじ開けて、ホールの外へ出たエティシラ。
しかし――そこには二人の姿はなかった。
追ってきたのが遅すぎたのだろうか。
けれど二人がどこに行ったのか、まったく予想のつかないエティシラは困り果てていた。
「……」
暫しの間そこに立ち尽くした後、エティシラは仕方なくホールへ戻ることを決めたのだが――
「――おじいさま」
ふと響いた聞きなれた声に、歩みだした足を止めた。
「!」
独特の透明感のある声。
それは確かに執事、ラオヴァルトのものだった。
エティシラは足音を忍ばせて、その声の聞こえてくる方へと歩み寄った。
そしてようやく廊下に二人の姿を見つけ、エティシラは壁にこっそりと隠れて二人の話に耳を傾ける。
「おじいさま、お話とは一体?」
「うむ……」
ラオヴァルトの問いに、ブルーノは少しの間を置いてから返事をした。
「お前に、見合い話が来ている」
「――!」
何の言葉も出ない代わりに、エティシラの心臓が一度大きく跳ね上がった。
「先方の家柄はそう悪くないぞ。私としても、お前にはそろそろ結婚をしてもらいたい」
「……」
「執事を辞めろとは言わない。お前にとっても悪い話ではないと思うのだが……」
感情の読めないブルーノの声。
ラオヴァルトは無言だった。
――ラオヴァルトが見合いをする。
他の女と結婚をする。
その微笑みを、その手を、他の女に――
どくどくと胸が高鳴る。
痛いほどに大きく、苦しく。
どろどろとした感情が流れ込む。
何かの振動のように全身が小刻みに震えてしまう。
「姫様!」
そのとき、エティシラの存在に気づき――声を上げたのは、ラオヴァルトだった。
「……」
彼と目を合わせることができず、エティシラは俯く。
エティシラの嫌な鼓動だけが響く、沈黙が流れていた。




