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こんなつもりじゃなかった



目の前で起きている状況にさっぱり付いていけない。

何が起きているのか理解できない。

何故、森が、あの森が、倒れているんだ!?


「三姉妹最強は倒したはずでしょ!?」

なのに何故、森が倒れているんだ!?


「そうよー♪三姉妹最強は確かに、次女のキヌコ♪」

色っぽく唇に指を這わせるメンコ。

「ウチはトラウマー生産能力が三姉妹の中でトップなの♪」

「トラウマーの生産……!?」

「そ♪人の心の奥底に眠る、深くて、ドス黒いトラウマを感知して、それをつよーいトラウマーとして生み出すことができる三姉妹の中で唯一の存在。それがウチ♪」

「……森にトラウマーを生み出させたってのか……?」

「そういうこと♪」

俺に、森に、『美少女ヒーロー☆めもり』にそっくりな女の子がゆらりと動き始める。


「さあ、“初代”めもりちゃんVS“二代目”めもりちゃん♪勝つのはどっちかなー?」


「!?」

“初代”めもり?“二代目”めもり!?

わけがわからない。何が起きているのかさっぱり理解できない。

『美少女ヒーロー☆めもり』にそっくりな女の子がこちらに向かってくる。

「もう、何がなんだか……」


何故この女の子は、森の中から出てきたんだ?

女の子が走りながら拳を構える。

物凄い速さだ。気が付けば俺の目の前で拳を繰り出そうとしている。

しかしこの時の俺に、ガードするか、避けるかの二択を選ぶ余裕などなかった。

目の前の状況を理解しようとすることで精一杯だったのだ。

そうだ、これじゃあまるで森が――


「なに……やってるんです、先輩……」

「……森……」

いつの間にか立ち上がり、俺の前に入り込んでいた森が女の子の拳を受け止める。

「言ったでしょう……?こいつは私の、私から生まれたトラウマーです……」

肩で息をしながら、俺を睨みつける森。

「先輩では……勝てません……」

「……こいつは、このトラウマーの姿は一体……」

「……これは」

俺がもっとも理解できない問いに、苦し気に答える森。

「これは……私のトラウマの姿……」

苦し気に、しかし懐かしむように、目の前にいる女の子を見る。









「私が……『美少女ヒーロー☆めもり』だった頃の姿です……」










「は……!?」

あまりの衝撃的な一言に、俺はあまりに当たり前の――いや、当たり前と呼ぶには、あまりに単純で短い返答しかできなかった。

「何……言ってるんだよ……」

森が、『美少女ヒーロー☆めもり』だった?

そんな馬鹿な。

森が、めもり?

そんなわけないだろ。

「うふふ♪よく言えました♪偉いですね、“初代の抜け殻”ちゃんは♪」

心底嬉しそうなメンコ。

こいつは知ってたってのか……?

こいつが知ってて、何で俺は知らないんだ……?

「……そうだ、あの時に聞いたじゃないか」

「……」

「あの時、俺が聞いて、違うって。そう言ってたじゃないか」

「……」



“めもり”が森の名前であったことに当初疑問を抱いた俺は冗談半分で聞いたことがある。実はお前がめもりなのではないか、と。

しかし森は、いつものように馬鹿なことを言わないでください、と俺の腕をねじって、それで、

「私が考えて、作り出したヒーローなんですから、自分の名前くらい使ったっていいでしょう」

いつも通り冷静に、そう答えていたじゃないか。



なのに何で。

嘘だったのか?なら何で嘘をつく必要があったんだ?

トラウマ……と何か関係があるから?

めもりになって、ヒーローになって、トラウマになるようなことが起きて……?

「……ッ!?」

頭に鈍痛が走る。

ヒーローになって、トラウマに……?

何だ?この感覚。“思い出すべき”であることが思い出せない。

俺の中でとても大切な何かを忘れているような感覚に陥る。

何だ?森のことなのか?それとも――


「……すみません、先輩」


俺の思考を、森が遮断する。

「……すみません」

「……森」

「ただ今は、この状況をなんとかする方が先決です」

「……けど」

「この闘いが終わったら、全て、話します」

「……本当だな?」

「約束します、今度は本当に。嘘はつきません」

森は拳を押さえながら、首だけを回し、無理矢理な体勢のまま俺の目をしっかりと見てそう告げた。

「……わかったよ」

その代わり、終わったら全部話せよ。そんで大人しく俺に説教させろ。

隠し事なんて、水臭すぎるだろうが。

「……ありがとうございます」

安心したように微笑み、再び前を見る森。

「で、どうする?」

「このトラウマーは私がやります」

「いや、それは……」

そいつはお前のトラウマーだろ?自分のトラウマと闘うなんて、酷すぎる。

「先輩では勝てません」

またそれかよ。

「それに……自分自身のトラウマーだからこそ、私の手で、倒したい」

森は力強く、そう呟く。

「……そうか」

どうやら、もう決めちまってるみたいだな。

「わかった。じゃあ俺の相手は、あの馬鹿デカいトラウマーだな」

ようやく冷静になってきたところで忘れかけていたあっちのトラウマーの存在を思い出した。

そもそもあいつだって十分手強い相手だ。

「ありがとうございます、先輩」

「よせやい。お前から感謝されるなんて気味が悪い」

素直に感謝の言葉を述べる森に俺は照れ隠しの嫌味しか言えなかった。

調子が狂っちまう。お前は毒舌吐いてる方が丁度いいんだよ。

「じゃあ、いくとしますか」

「あと先輩」

「ん?」

「口調、直してください。気持ち悪いです」

「……はいはい、これでいいかしら」

ほらな、それくらいがお前らしい。





「集まれ星々の光!メモラアルタクト!」


地面に落ちているSMAWロケットランチャー、メモレアルタクトが消え、代わりに約200もの剣、メモラアルタクトが現れ、地面に突き刺さる。

武器は重複して出現させることができないため、1種類に限られる。

森は最初、俺の闘いを考慮してメモレアルタクトのままでいいと言っていたが、何せ森の相手が森自身のトラウマーだ。

森と同程度の超人的な身体能力を持つであろう相手に遠距離型のメモレアルタクトは明らかに不利だ。


「めもり……」

「ん?」

少年が不安そうな目で俺を見ている。

「大丈夫、すぐに助けるから」

「勝てるの?」

「当たり前でしょ?」

地面に突き刺さっている剣を右手で1本、左手で1本、引き抜く。

「世界の平和は私が守るんだから」

俺はヒーローだからな。

「ぶおおおおおおお!」

「おっしゃあああ!」

巨大なトラウマーの身体を一気に駆け上る。

変身前ならいざ知らず、今俺は『美少女ヒーロー☆めもり』なのだ。

これくらい訳もない。

「ぶおおおおおおお!」

トラウマーが手で俺を払い落とそうとする。

「邪魔!すんなやー!」

手のひらを力の限り蹴り飛ばす。

轟音と共に手は弾かれ、トラウマーは予想外の力に身体のバランスを崩しかける。

「!?やった!できるじゃん!俺!」

不可能だと思っていたことが今ならなんでもできる気がする。

このまま一直線にダッシュだ。

「待ってろよデカ顔面!」


俺の作戦はこうだ。

(おそらく)トラウマーといえど急所はある。

だとするなら、(多分)眉間に刀を刺されればきっと死ぬとはいかないまでも大ダメージを与えることができる。

1本で足りないなら100本刺す。以上。


「大丈夫、きっとなんとかなるはず」

どこから湧いてくるのかわからないがとにかく今の俺には強大な自信がある。

なんとかなる。なんとかしてみせる。森だって、きっと……

「……森……」

走りながら、森の方を横目で見る。

ここからでは二つの影が物凄い速さでぶつかったり離れたりしている、程度にしかわからないが、どうやらあっちの戦闘は予想通りかなり激しいものらしい。

「大丈夫……」

森がやるって言ったんだ。だったら信じてやらねえとな。あいつは俺の後輩であり、マネージャーであり、そして一緒に世界を守るパートナーなんだから。

森によれば、『ウール三姉妹』もとい『ウール三兄弟』最後の一人メンコ、ではなくメンオはトラウマーを生み出すことに関してはかなりの脅威だが、奴自身の戦闘能力は俺の変身前とさほど変わらないらしい。

そしてメンオを倒したところでトラウマーが消えるわけではない。

つまり、俺は俺の、森は森の相手を倒せばどうにかなる。

後はメンコが妙な真似をしないか時折見張っていればなんとかなるはず。

「メンオは……いた」

森達から少し離れた場所で闘いを見ているらしい。のんきな野郎だ。



「んー、めもりちゃん同士の闘いを見たかったんだけどなあ……まさか抜け殻がめもりちゃんと闘うなんてねえ……」



「よし!あと少しで――」



「つまんないや♪あっちのガキの方は消えちゃえ♪」






その時突然、“足下”が消えた。

「……え……?」

いや、“巨大なトラウマー”自体が消えたのだ。

「う、うわあああああああああああ!?」

何だ!?何が起きた!?

今日は俺の理解を超えることばかり起きやがる。

今日という日に何か意味でもあるってのか?

「ああああああああああああああ!!」

今まで駆け上っていたもの自体が消えたので、当然足場を失った俺は落下し――

「先輩!」

地面に激突するすれすれで森に見事キャッチされた。

「も、森……」

大きな衝撃もなく、森の腕に支えられている俺の身体。

相変わらず凄い奴である。俺だったらこんなに格好いいことは絶対に真似できない。

つーかあんな激しい戦闘から抜け出してきたってのか。つくづくこいつは俺のヒーローだな。

「た、助かったよ……」

ゆっくりと地面に降ろされる。

「って、そうだ!何が起きたの!?」

「突然、男の子のトラウマーが消えました。おそらくは奴の仕業かと」

森はそう言ってメンコを睨みつける。

「うふふ♪」

妖艶な笑みを見せるメンコ。

「ウチはトラウマーを生み出すことができるのよ?その逆もまた然り♪」

「自在にトラウマーを消すこともできるっての……?」

トラウマーを消すこともできるなんて、そんなのまるでヒーローの力じゃねえか。

「けどぉ、あなた達みたいに“倒して消す”わけじゃないの♪」

俺達の後ろを指差すメンコ。

「何、を……」

振り返ると、そこにはあの少年、巨大なトラウマーの主である少年が、倒れていた。

「少年!?」

すぐに駆けつけ、呼び起こそうとするも少年の意識はなく。

「ウチの“消す”っていうのは、そのトラウマーの主のトラウマに関する記憶を全部すっぽりと消しちゃうってことなの♪」

……記憶を、消す?

「記憶を突然すっぽりと消されちゃったから、ショックで気絶しちゃったのね♪」

……この子の悪い思い出だけを消したってのか?

「もしかしたら、その反動で他の関係ない記憶も消えちゃってたりして♪」

「なんてことを……!」

森が悲痛な声を上げる。

「いいじゃない、悪い記憶なんて綺麗さっぱり忘れた方が幸せなのよ♪」

「それを決めるのはアンタなんかじゃ……!」

森が声を荒げる。しかしメンコは一層可笑しそうに笑う。

「あはははは♪あなたがそれを言えるのかしら?」

「……ッ!それは……ッ!」



森が何か言いかけた時、森のトラウマーが目の前に現れ、

「森!?」

「……しまっ……」


右肩から腰にかけて、森を斬りつけた。


「森!!」

「私が見たいのは、めもりちゃんとめもりちゃんの闘いなの♪」

俺の横で膝をつく森。

「おい森!!」

「大丈夫です、避けました……右肩を少し斬られましたが……」

「避け切れてないだろ、血、流れてるじゃねえか!」

手を貸そうするもすぐに手を払われ、

「……それより、早く逃げて……!」

俺をここから逃がそうとする森。


どうしてお前が俺の心配してるんだよ。

怪我してるのはお前じゃねえか。


「先輩!早く!」


そもそもどうして俺より強いはずの森が怪我なんかしてるんだよ。


「先輩!」


どうして俺が逃げるんだよ。

どうして男の子は倒れてるんだよ。

どうしてお前はそんなに苦しそうにしてるんだよ。


どうしてこんなことになったんだよ。


どうして。どうして。



どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして――











「全部、俺のせいだろ」
























次に気が付いた時、森のトラウマーとメンコは倒れていた。


「……全部、先輩が一人でやりました」





「たった一発、殴っただけで」






俺の変身は解け、代わりに――




「集まれ星の光、メモロアルタクト」








変身ベルトを付け、『美少女ヒーロー☆めもり』になった、



森めもりがそこにいた。











「……こんなつもりじゃなかった」


森は、目に涙を浮かべていた。


















「ごめんなさい、先輩」








           美少女ヒーロー☆めもり episode9

  

            「こんなつもりじゃなかった」


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