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雨が止んだら



雨が傘に落ちる音が水玉模様の空から聞こえる。



「この傘、リバーシブルなんですよ」

裏面にも水玉模様が描かれてるんです、可愛いでしょ?

森が、少し誇らしげに言う。

森でも可愛いとか言うんだ。

「……つーかそれ、リバーシブルって言うのか……?」

「子供の頃、よく遊びませんでしたか?傘を裏返してアンテナーって」

「やらねえよ」

どっちにしろそれがリバーシブルと言う理由には繋がらんだろ。

「私、よくやるよー!」

いつの間にか女の子も森と色違いの水玉模様の傘を差している。

森は赤色と黄色の、女の子は青色と緑色の配色だ。

「……予備でもう1本持ち合わせていたので」

恥ずかし気に目線を逸らす森。

何のための予備だよ。そして何故恥ずかしそうにする。

「……それはそうとして」

キヌコの方を見やる森。

「どうするんです、先輩」

「……そう、だな」

なんとか上半身を起こし、俺もキヌコを見る。

「キヌコはウール三姉妹の中で一番強いでしょう」

「……そうなのか」

「……先輩が闘いたくない、というのならば、私は止めません」

森の声のトーンが落ちる。

「いつもみたく、腕をねじるなりなんなりして脅さないのか」

「ねじってそのまま取れたら困ります」

ああ、そういえば左肩がパックリやられてたんだっけ。

「それに、こればかりは先輩に決めていただかなければ」

「そうか」

相変わらず“真面目”な奴だ。

ちらりと女の子を見る。

俺と森の間に流れる張りつめた空気を子供ながらに読み取ったのだろう。話の内容はさっぱりなはずなのに、緊張した面持ちで俺達を見ている。


「あのさ」

「はい」

「勝てるのかな。……あいつにも……ケイトにも」

「大丈夫です、私がいますから」

俺の問いに森は迷うことなく答えた。

「そうか」


その言葉を聞いて、俺はとても、身体が軽くなった気がした。


「俺さ、『めもり』になる意味っての?実はまだよくわかってないんだわ」

「……先輩はあまり頭も良くないですからね」

「けど、その重みってのはここ最近で痛いくらいにわかった」

アサオとの闘い、ケイト、そして黒焦げになったトラウマーを思い出す。

「その重みを一人で背負うことがしんどくて、それで、色々と酷いことをやっちまった」

「はい」

「トラウマーを引くくらいにボコボコにして、それを女の子に泣きながら止められて。あと、そのなんだ。……とある女も殴っちまって、喧嘩別れ、みたいなことして。……一方的にだけど」

「……ヒーローとは思えない行動の数々ですね」

「……だな」

まったくその通りだ。返す言葉もない。


「――けど、その女がまた来てくれて、わかったんだ」

森の方を見る。

「そいつと一緒なら、そいつが一緒に重みを背負ってくれるなら、俺に協力してくれるなら、きっと大丈夫だって」

今度はしっかりと正面から森の目を見て、俺は言う。



「俺は『美少女ヒーロー☆めもり』として、この女の子を無事に帰すために、キヌコと闘う。そんでキヌコに勝つ。ケイトにも勝つ」



その言葉に、森は、少し驚いたように目を見張り、しかしすぐに落ち着きを取り戻したように俺を真っ直ぐ見つめ直した。

「協力、してくれるか」

「当然です」

森の目は、あの時のような悲し気なものではなく、温かな、希望に満ちたものだった。



「あれ?」

女の子が空を見上げる。


「今から私の言う台詞をしっかりと復唱してください」


傘を閉じる森。


「噛んだら、腕がねじ切れますよ?」







雨は止み、空から光が差し込んでいた。













          美少女ヒーロー☆めもり episode7


              「雨が止んだら」




左肩を押さえながら、キヌコの元へと歩く。

その足取りは軽い、と言いたい所だが、やはり体力がかなり消耗しているらしい。時折ふらつく。傷もいまだにズクズクと痛む。


「話は終わったか」

“巨大化”もといトラウマー化(さっき森に聞いた)キヌコが佇んでいる。

「お前達、トラウマー化して男になるんだってな」

「……そんなくだらない情報を得るための長話だったか」

「だからアサオのこと“アサコ”なんて呼んでたのか。『ウール三姉妹』じゃなくて『ウール三兄弟』って呼んでやろうか?」

「……貴様」

目に見えてキヌコは怒っているようだ。

ここで止めの一言。



「ほら、かかってこいよ。“キヌオ”」

「望み通り殺してやるッ!!」



切れたキヌコもといキヌオが突っ込んでくる。

“トラウマー化”して、筋肉がついた分、スピードは落ちている。

ウール三姉妹は肉体強化としてトラウマー化ができ、変化後は男になる。

それはつまり何らかの『男に関するトラウマ』を抱えているということ。

そしてその『男に関するトラウマ』の中で、もっとも三姉妹の逆鱗に触れるトラウマ。

それは自分達を男の名前で呼ばれること。

それを利用して相手を挑発させる。

全て森の作戦通り。


ここからが本番だ。



「集まれ星々の光!スターズメモラアルタクト!!」



怯むことなく力一杯叫ぶ。

左肩の傷にこれでもかというくらい響くが、そんなことは気にしていられない。


そこら中に落ちているメモレアルタクトは消え、強烈な光と共に約200もの剣が現れる。

「剣だと!?小癪なッ!」


そう、『スターズ』が適用可能なもう1つのタクト、『メモラアルタクト』は剣なのである。


地面に突き刺さった1本を右手で抜き取り、キヌオに切り掛かる。が――

「素人に私の刀が負けるか!」

「……ッぐぅ……」

剣は折れ、再び吹き飛ばされてしまう。

けれど、これで良いのだ。

すぐに立ち上がる。

「……まだまだいくわよ!!」

また1本を抜き取り切り掛かる。

左手が使えない分、力を上手くこめられない。

……いや、左手が使えたとしてもこの力には敵わないだろう。





1本、抜き取っては切り掛かり、折られ、また1本、また1本と折られていく。

その度に傷は増え、左肩は余計に痛む。

「まだまだ!!」

それでも攻撃の手を緩めるわけにはいかない。

「ふんッ!」

血が舞う。

「まだまだ!」

30本目を越えたあたりからどうにか吹き飛ばされなくなってきたものの、それでも剣は折れ、血は舞い、俺の体力はどんどん失われていく。

「この短時間で驚異的な成長だが!それでも私には勝てん!」

それでも、俺は動き続けなければならない。




「はあ……はあ……」

それにしてもきつい。

剣も50本目を越えたあたりだろう。

そろそろだな。

「ッ!キャッ!?」

雨でぬかるんだ地面に足をとられた“ふり”をする。

「終わりだ!!」



――そう、俺は動き続けなければならなかった。なぜなら――



「!?」

何かが風を切り、キヌオの頬をかすめ、切り傷が刻まれる。

正確な狙い。キヌオが避けていなければ眼球に一直線だったであろうその一撃は、紛れもない、森の一撃。

「あの女……!剣を投げて……!?」

全てはこの一瞬の隙を狙うため。

約200ものスターズメモレアルタクトを出現させ、がむしゃらに攻撃の手を緩めなかったのも、足をとられた“ふり”をしたのも、俺一人に意識を集中させるため。俺が勝負をかけていると思い込ませるため。

森に剣を渡し、不意打ちの一撃をぎりぎりまで気付かせないため。


全ては、この一瞬の隙を狙って最大の攻撃をぶちこむため。


「必殺――」

右手に4本、そして“左手”に3本、メモラアルタクトを無理矢理に持つ。

「!!」




「セブンスター☆乱れ突き!!」




計7本のメモラアルタクトを一斉にキヌオへ突き刺した。







7本のメモラアルタクトが突き刺さったキヌオはゆっくりと膝を付き、

「……左手といい……技名といい……本当に何から何まで、ヒーローとは思えない……な」

そう言い残して、倒れた。

「……技名は余計だ、くそったれ」

『ウール“三兄弟”』最強の剣士、キヌオはそのまま、跡形もなく消え去った。

アサオ戦以来の、いやそれ以上にギリギリだった今回の闘いにようやく、幕が降りた。












「めもりちゃーん!」

「おぶっ!」

女の子が突進と表現するのにふさわしい程の勢いで抱きついてくる。

これでも満身創痍なのだから少しは気を使って欲しいものだ。

苦笑いで女の子の頭を撫でる。


そうして、女の子は俺を見上げ、



「めもりちゃん!守ってくれてありがとう!」



日の光に照らされてより一層、きらきらと輝いた笑顔で精一杯のお礼の言葉をプレゼントしてくれた。


疲れも痛みも吹っ飛んじまうね。

こんな笑顔を見れるのなら、ギリギリの闘いってのも悪くないのかもしれん。いや良くはないけど。

「先輩、おつかれさまです」

森が歩いてくる。

きっと後でもう少し俺がキヌオを引きつけておけば致命傷を与えられたのに、だとか、技名がださい(俺はそう思わないが)だとか色々言われて、腕をねじられるのだろう。

けどさ、俺はヒーローなんだ。今くらい格好付けさせてくれたっていいだろ?


「当たり前よ!」

俺は左手を上げ、二人に向かって人差し指を差し、お決まりの台詞を言ってやった。




「世界の平和は私が守るんだから!」














余談だが、俺はこの後、左肩から盛大に出血し、泣きじゃくる女の子と至って冷静な森に見守られ、病院へと運ばれたのであった。


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