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水玉模様の傘


今、俺の目の前にはぴくりとも動かなくった黒焦げのトラウマーが横たわっている。



「……」

「……ぐすっ……」

俺の後ろには泣きじゃくる小さな女の子がいる。

「はあ……はあ……」

俺は息を荒げている。

「スターズメモレアルタクト」を使用したからだ。

SMAWロケットランチャーがそこら中に投げ出されている。

「はあ……はあ……」

使わざるを得なかったわけではない。

ただ一方的に、“ただのトラウマー”に、俺が約100発のメモレアルタクトを浴びせた。ただそれだけ。

100発目を越えたあたりで女の子が泣きながら俺を止めた。

ただそれだけのことだ。












「ヒーローのくせに、随分と惨いことをするのだな」









――雨が降っていた。








         美少女ヒーロー☆めもり episode6

               

             「水玉模様の傘」






腰に刀を差した、黒い着物の女性が立っている。


「……誰だ?あんた」

今は疲れているんだ。放っておいて欲しい。

「私は、ウール三姉妹が次女。キヌコ」

「ウール三姉妹?」

誰だそれ。聞いたこともない。

「悪いが俺はあんたに用事はないんだ」

さっさと帰って寝よう。今日はもう疲れた。

“ノルマ”だって終わっているんだ。

「お前にあらずともこちらにはある」

「……疲れてるって言ったろ?また明日にしてくれ」

いい加減女の子にも泣き止んで帰ってもらわないとな。

……正直面倒だ。

振り返り、一歩踏み出した瞬間――

「……え……?」

背中に鋭い痛みを感じた。

「……背を向けた相手を斬る、というのは気が進まないが」

血が滴り落ちる。

「きゃああああああああ!!」

女の子が悲鳴を上げる。

「なん……だってんだ」

俺はそこでようやくしっかりと女性を見た。

「先日、貴様が倒したアサコは私の姉だ」

「アサコ……?」

まさか、あのアサオのことか……?

横たわるアサオ、そして、その傍らにたたずむ“あの少女”を思い出す。

「姉に代わって貴様を殺す」

女性改め、キヌコの構えるその刀の刃は、俺の血に赤く染まっていた。















雨に打たれた身体が容赦なく冷えていく。

意識がはっきりしない。

雨音がやけに大きく聞こえる。

体中から水が滴り落ちる。

薄い赤色の水が滴り落ちる。


「はあ……はあ……」


大分斬られたな。

刀使いの敵なんて初めてなものだから、避け方がわからない。

これだけ斬られて、致命傷がないのが救いだろう。

いや、あえて致命傷を避けているのだろうか。

俺を嬲るために。


「……つまらんな」

再びキヌコに斬られる。

わかっていても避けられない。速すぎるのだ。

例え避け方がわかったとしても、きっと身体がついていかない。

「くそ……!」

咄嗟に近くに落ちているメモレアルタクトを手に取る。

「おおおおおおお!!」

「遅い」

またしても斬られる。今度は腕だ。

「――ッ!」

堪らずメモレアルタクトを落とす。


「そのような鈍重な武器で私の速さに敵うとでも思っているのか」

「けど、あんたの攻撃は速い分、軽いじゃないか」


そんな攻撃じゃ俺を倒すのに日が暮れちまうぜ。


何の意味もないただの負け惜しみの言葉を口にしてみる。

こんなこと言った所で何か変わるわけでもないのに。


そんな愚痴を零そうと思った次の瞬間、




「ではこれならどうだ?」

「!?」


キヌコが“男”になった。

その声は低く、首や腕の太さが倍に膨らんでいる。

背丈も伸び、全体的に巨大化したように感じる。

ヒーロー物では定番中の定番、敵の巨大化が始まるのかと思ったくらいだ。

だがそんな悠長にのんきなことを考えている場合でもなければ暇もない。

「やばい!!」

先ほど落としたメモレアルタクトを拾い、盾にしようと構え、

「吹き飛べ!!!!」

言われた通り俺はその盾ごと、吹き飛ばされた。

いや、斬り飛ばされた、叩き飛ばされた、と言った方がいいだろうか。

とにかく誇張ではない。

俺は刀によって吹き飛ばされたのだ。









「……いってえ……」

ガードしたはずなのに……。

左肩が深く斬られ、いや割られている。

盾にしたはずのメモレアルタクトは真っ二つに割れている。

「……はは、鉄製だよな……これ……」

冗談じゃねえ。どこの世界に鉄を真っ二つに割る剣士がいるってんだ。

「……俺、死ぬのかな」

空から絶え間なく雨が落ちてくる。

左肩がやけに熱い。心臓が動くたびに激痛が走る。

雨に血が混ざって流れていく。



「……めもりちゃん……」

「……君は……」

まだ逃げてなかったのか。早く逃げないと殺されちまうぞ。

「……めもりちゃん」

雨と涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっている。

「……」


……俺がこのまま死んだら、この子も死んでしまうのだろうか。

だったらせめて、この子だけでも逃がしてやった方がいいのだろうか。

俺があいつを食い止めている間に、逃がしてやった方がいいのだろうか。


それが、ヒーローのやることなのだろうか。



こんな時……



「こんな時……森がいたら……」


何て言うのだろうか。



























――その時突然、雨が止んだ。

「なにやってるんです、先輩」










――空が、水玉模様へと変わった。








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