ダークケイトの帰還・後編
「……ッ」
直撃は、した、はず。
この距離で当たらないはずがない。
けど、
当たったのに……
当たったのに、倒れないはずがない……!
「直撃はしました」
「……けど!」
「服が傷付いています」
「……!」
けど!直撃したのに――
「何より、この距離では外しようがない。そうでしょう?」
「……!!」
必死に縋ろうとする俺に、森は残酷な言葉を投げかける。
この期に及んでまるで俺が敵であるかのような態度を取りやがって。
……けど!
「俺は!自分の目で確かめるまで信じねーよ!!」
俺は自分の不安を掻き消すように、打ち消すように、もう一度スターメモレアルタクトを撃ち放った。
そうさ、いつだって森は、俺に冷たい言葉を投げかけてきた。
今回だってそうなんだ。
効かないわけ、ないだろ?
「効かねえっつってんだろうがクソガキ!!」
そして俺は、念願叶って見てしまったのだ。
奴が、両手で弾頭を捕らえ、
そのままそれを上へと受け流す様を。
「……ったく、ほんっとに話を聞かねえクソガキだこと」
上空で、放った弾が爆発する。
俺の撃ち放った希望は、見事打ち砕かれ、爆発してしまった。
「……嘘、だろ……?」
ヒーローが絶望する様を、待ってくれる敵なんていない。
これは特撮でもばければ、アニメでもないんだ。
次の瞬間、俺はダークケイトにタコ殴りにされていた。
「オラオラオラオラオラオラ!どうしたクソガキ!」
スタンド使いでもないのにその掛け声はどうよ。
「人の話を聞かないクソガキにはおしおきだよ!」
一発一発が、重い。
やっぱり強いわ、ダークケイト。
レベル20の俺にどう魔王を倒せってんだ。
無理ゲーだろ。
「……ってん……か……」
まあ痛めつけ方がストレートな分、森よりはマシってもんか。
「……に……ってる……すか」
あれ?けど森ならこいつ倒せるんじゃ?
「……なに……ってるん……すか、……ぱい」
森、なら……
「なにやってるんですか、先輩」
「森!?」
「……!?」
背後から感じる、恐ろしく冷たい殺気によって沈みかけた意識が一気に覚醒した。
と同時にダークケイトも異変を感じたのだろう、攻撃を止めた。
「も、森……?」
恐る恐る振り向くと森が「こっちへ来い」と手招きしている。
「何だ……あいつは……」
警戒してかダークケイトもじりじりと距離を取っている。
今の内に。
「森……」
先ほど感じた殺気は感じられない。いつもの森だ。
ほっと安堵しつつ森にかけよると俺はいつものように右手を掴まれ、後ろにクイッと回され、親指と後頭部が密着――
「痛い痛い痛い!指!指が後頭部とキスしてる!!」
「なにやってるんですか先輩」
「だ、だって――」
「たかが一発の直撃で倒せなかったくらいで何をへこんでるんですか」
「痛い痛い痛い!だ、だって!スターメモレアルタクトが効かなかったんだぞ!」
「だから何ですか」
「いや、あの一撃で――」
ん?たかが“一発の直撃で倒せなかった”くらいで……?
「一発で倒せないのなら百発当てればいい」
「え……」
「傷付いているのは奴の服だけではありません。顔にも腕にも、身体にも傷は付いています」
そう、なのか?
「二発目の弾を受け流したのは余裕からじゃない。一発と言えど、当たればしっかり効くんです」
そうなのか……!
「スターメモレアルタクトは一発の威力が高い分、次の装填に時間がかかる、という欠点があります」
「た、確かに」
装填してる間にやられちまう可能性があるってことか。
「じゃあどうすれば」
「ならば装填しなければいい」
森は俺の右腕を解放し、
「今から私の言う台詞をしっかりと復唱してください」
滅多に見られない笑顔で俺を脅した。
「噛んだら、腕がねじ切れますよ?」
「くっ!何をやっているんだ私は!」
あんな付き添いの女にビビってる場合じゃない。
急いであのクソガキを始末しなければ、ケイト様が……!
「トラウマー化……!」
体中の筋肉が活性化を始める。
豊満な胸は縮み、男らしい分厚い胸板となる。
「っはあ……」
口からは野太い声が発せられる。
「さあクソガキ!おしおきの再開――」
「集まれ星々の光!スターズメモレアルタクト!!」
野太い叫び声が強い光によって掻き消される。
「なんだ!?」
次々と何かが地面に突き刺さる音。
「一体何が起きている!?」
しばらくして光が消え――
「な……」
今、俺の周りの地面には約200基のスターメモレアルタクト、通称SMAWロケットランチャーが突き刺さっている。
「今からこれら全てをお前を狙って撃ち続ける」
1基を地面から抜き取り、ダークケイトに向かって構える。
「覚悟しなさい!」
一発撃っては投げ捨て、次のメモレアルタクトを地面から引き抜き、撃つ。
また一発、また一発と撃つ。
砂埃が舞う。
煙が舞う。
しかし奴を見失うことはない。
これも変身時の特殊能力なのだろうか。
俺の大きな瞳は、奴をしっかりと捕らえ続けている。
大きな爆撃音。火薬の臭い。砂の味。
重たく冷たいメモレアルタクトの肌触り。ダークケイトの姿。
五感の全てが、今この闘いを感じていた。
一発、また一発。
尽きることなく俺は撃ち続けた。
「『スターズメモレアルタクト』は『スターメモレアルタクト』を約200基出現させる掛け声です」
「200!?」
何ともえげつない。
「『スターズ』の力は『メモレアルタクト』と『メモラアルタクト』に限って適用可能です」
ん?待て待て。今聞いたことのない単語が出てきたぞ。
「つまりは、今回のような数で勝負をかける時には2種類の武器から選択できる、というわけです」
「ちょっと待て。ロケットランチャー以外にまだ何かあるの?」
「それはおいおい」
「引っ張るの!?」
「とにかく、早いとこやっちゃってください。あんな相手にいつまでも苦戦してるわけにはいきません」
「あんなって、あいつラスボスだろ?」
「……まあ、その話は終わってからにしましょう」
「……疲れたー……」
闘いを終え、俺は今、仰向けに寝転がっている。
さすがに約200基ものロケットランチャーを構え、撃つのは骨が折れる。
集中力をフルに使い切ってしまった。
できればこんなことは今回限りにしていただきたい。
「……というか、勝ったんだよな……ラスボスに」
目の前には黒焦げになったダークケイトが倒れている。
ちなみにダークケイトは100発目を越えたあたりから微動だにしなくなった。
だが念には念を。
全て直撃とまではいかなかったものの、約150発くらいは直撃させたと思う。
我ながら鬼畜な美少女ヒーローっぷりである。
「先輩、おつかれさまです」
森が歩いてくる。
せっかくラスボスを倒したってのに、労いの言葉が後輩マネージャーからだけとは何とも寂しいものだ。
子供達の声援と歓声くらい欲しかったものだが、そもそも今回は誰かが助けを求めていたわけじゃない。
ギャラリーもいないだだっ広い空き地での戦闘だったんだっけ。
「まあでも……」
毒舌が通常営業の森から労いの言葉をかけられるなんて、一級品のレアアイテムだ。ありがたく頂戴しておこう。
「とりあえず、これにて一件落着か」
ぱーっとお祝いでもしたいね。
今日は奮発して生ビールでも買っちまおうか。
「先輩、それについてですが――」
「んあ?」
そういえばさっき終わった後に話すことがあるって言ってたっけ。
森の方へ身体を起こそうとしたその時、
「これまた派手にやられたねえー」
「……あ?」
振り返れば、黒焦げになったダークケイトの側にはいつのまにか小柄な少女が立っていた。
「……け……さま……」
「ああ、いいよ、そのままそのまま」
「……も…しわけ……あり……」
「全然いいよー。僕、気にしてないから」
その少女はにっこりと微笑み、
「じゃあね、“アサオ”」
そして、ダークケイトを粉々に消し飛ばした。
「……」
「……先輩、今すぐに立ち上がらないと腕を“ねじ切られますよ”」
森が珍しく、本当に珍しく、緊張した声を俺にかける。
「君がめもりちゃん?」
少女はこちらに顔を向け、
「初めまして」
とびっきりの笑顔で恐ろしい言葉を紡ぐ。
「僕が、ダークケイトだよ」
――俺はこの時初めて、自分がどれだけ焦っていたのかを理解した。
――全てが早とちりだったのだ。
美少女ヒーロー☆めもりepisode3&4
「ダークケイトの帰還」
「ただいま、めもりちゃん」