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美少女ヒーロー☆めもり


「それにしたって、めもりちゃんはアレだね。律儀というか、用意周到というか」

「……何が言いたいのよ」

「自分が再び、その姿に戻るために、『ウール三兄弟』との戦闘を見据えた上で、彼に全てを任せる、いや、やらせると言った方がいいかな?すごい執念だと思うよ」

「……」

「でもね、めもりちゃん、君が再びその姿で僕の前に現れることはあの時からわかってたことだし、やっぱり君が僕の仲間だってこともあの時から変わってないんだよ」

「……何を……!」

「いくらメンオを利用して、君のトラウマーを引っ張りだして、彼に倒してもらったって、君は相変わらずその姿でいるじゃないか」

「……ッ!それは!」

「君の『トラウマ』は確かに形となって、君となっている、それは決して変わらない、否定しようもない、どうしようもない事実なんだよ?」

「……黙れ」

「君の『トラウマ』を彼に肩代わりしてもらったつもりでも、それはいつだって君の中にいるんだ」

「黙れ!黙れ!黙れ!」

「その証拠に君はいつだって『トラウマーを感知する能力』があっただろう?君の身体は、心は、いつだって仲間を捜していたのさ」

「違う!私は、私は……」

「君自身が、『君の中のトラウマは消えてなんかいない』という事実を、どうしようもなく体現してるんだよ」

「違う!私は!今の私は、絶望を身に纏ってなんかいない!」

「彼を散々利用しようと思ったのも、彼を常に側において、彼と自分は違うってことを自分が常に納得し続けたいがためのものだったんだろ?」

「…………!!それ、は……」

「でも残念。君も彼も、そして僕も、皆同じ。皆等しく、皆僕と仲間ってだけだよ」

「…………ち、違う!」

「頑固だな、めもりちゃんは。君からも何か言ってやってくれない?」


「…………え?」





「そうだな」


わざとらしく俺に気付いた素振りを見せた少女、ダークケイトはようやくそこで俺を招き入れる。


「めもり。いくら否定したって、いくら遠ざけようとしたって、そいつはいつだって俺達の側に居続けるんだよ」


「……せん、ぱい……?」

俺の存在と俺の言葉に、信じられないという表情の森めもり。

「ただな、ダークケイト。それでも俺には1つ、どうしても受け入れられないことがあるんだよ」

「……へえ。一応、聞いておこうか」






「俺とめもりは仲間だけど、お前はやっぱり敵だ」


玉座の間に踏み込み、ケイトを指差す。


「お前は俺達にとっての倒すべき敵なんだよ」














         美少女ヒーロー☆めもり final episode


          「美少女ヒーロー☆めもり」










「うっす、遅くなって悪かったな」


めもりの元へ向かう。

「なに……やってるんです……先輩」

いまだ信じられないという表情のめもり。

「何って決まってるだろ」

目の前に座るダークケイトを一瞥し、


「こいつを倒しに来たんだよ!」


ヒーローお決まりの台詞を言い放つ。

どうだ、決まっただろう。

渾身のドヤ顔でめもりを見るも、表情はいまだ固く、

「……こいつは私が、倒します」

そう言ってケイトに突進しようとする。

「っと!待て待て!」

「離してください!私が倒します!倒さないと駄目なんです!」

「……だから……待てってば!」

めもりを羽交い締めにする。

しかしその力に勝てるはずもなく、めもりは俺を引きずったまま進もうとする。

くそ!これ以上押さえ切れん!

「ぐぬぬぬ……」

けどこいつをここで離しちゃ駄目なんだ。

「……誰が!俺一人でケイトを倒すっつったよ!」

「……え……」

めもりの力が緩んだ。

チャンス!

「どぉうりゃあ!」

「え!?きゃっ!」

めもりを無理矢理押し倒し、その上に馬乗りになる。

「せ、せんぱい!?」

「いいか、よく聞け!俺とお前、二人で協力してあいつを倒すんだよ!」

「え……」

「それしかあいつを倒す方法はない!そうしないと倒せないんだよあいつは!」

俺の必死さに一瞬きょとんとするもすぐに固い表情に戻るめもり。

「変身もしていない先輩に何ができるって言うんです?私を押さえ切れないってことは……その、『トラウマー化』だって解除されてないってことですよね?」

「ああ、そうだ」


そうさ、過去に二度、自分の力を呪った俺は、自らを弱体化させる『トラウマー化』をした。

その『トラウマ』は、今もまだ俺の心の中にある。


「だったら私一人で十分です。……いえ、私にやらせてください。私がやらないと、いけないんです」

めもりの頑な態度に、俺も流石にイラつき始める。

「お前!まだわかんねえのか!?」

「わかってないのは先輩の方です!私が……!どれだけ先輩に酷いことをしたか……!」

こいつ……やっぱりわかってねえ。

「いいかめもり!俺は――」


「わかってないのは君達二人だよ」


ダークケイトがそこへ割り込んでくる。

「……あ?」

「まったく……君達はいつまでたっても成長しない。馬鹿じゃないの?」

玉座から立ち上がり、こちらへ歩み寄ってくるケイト。

「全てを知った赤井君なら少しはわかってくれたのかなって思っていたけどとんだ見当違い。君もめもりちゃんも未だに僕のことを敵だと言う」

「そうよあんたは私の敵!だから私が倒すの!」

「……おい、めもり……!」

馬乗りにされた状態で暴れようとするめもり。

「あんたは私が倒す!倒さなきゃいけないの!」

「めもり!」

「……そうしないと、私は――」


「今まで散々利用してきた赤井君に申し訳が立たない、かい?」


「……ッ!」

めもりの動きが途端に止まる。

「そりゃそうだよねえ。君は、『トラウマ』が弱まるほどに自分と仲良くしてくれた大好きな先輩がトラウマー化しちゃったのに、その記憶を消して、なかったことにして、自分が立ち直るために、自分の心を保つために、側に置いて、自分の『トラウマ』を押し付けて闘わせてたんだもん」

「……」

めもりの顔がみるみる青くなっていく。

「その挙げ句、全てが終わってからの予定が、自分の計算ミスでよりにもよって、僕と闘う直前にその記憶を返しちゃったんだよね」

間抜けな話だ、と笑うケイト。

「そんなことがあって、その上僕を倒すのに協力してもらった、なんてことになったら、それこそ申し訳が立たないどころの話じゃなくなっちゃう」

「……そうよ!」

森は目に涙を溜めながら叫ぶ。

「私は今まで、散々自分のために先輩を利用して!それでここまできたのに!先輩を犠牲にしてやっとここまでこれたのに!これ以上、先輩に迷惑なんてかけられない!かけたくないのよ!」

……めもり。

「……先輩だって見たでしょ?自分の記憶を、私の記憶を。私がどれだけ先輩に酷いことをして、迷惑をかけたのか」

めもりの目から涙が溢れている。

これまで言いたくても、言えなかった、自分を呪う言葉がやっと言えた。

やっと吐き出せた。

そのことに安堵して、そして絶望しているのだろう。

「だから私は……!」

「!?……おい!」

急に起き上がられ、思わずバランスを崩す。

その隙に自由になっためもりはケイトに向かっていく。

「集まれ星の力!メモラアルタクト!」

光と共にめもりの手には剣が現れる。

「……お前を倒す!」

ケイトに斬り掛かるめもり。

「めもり!やめろ!」

駄目だ!今のお前じゃ――

「うわあああああああ!」

勢い良く剣が振り下ろされ、静寂が流れる。



少しの間が空いて、


「本当に、馬鹿だね。めもりちゃん」


余裕の表情でめもりを見るケイトはいつの間にか人差し指を立てている。

その身体に傷はなく、

「君が僕に、攻撃を当てることができるわけないだろ」

めもりの振り下ろした剣の刃は真っ二つに折れていた。

「……そんな……人差し指1本で防いだって言うの……?」

「せっかく考えることができる頭があるのにそれをしようとしない。馬鹿は獣と同じ。『トラウマー』と同じだよ」

ケイトの人差し指がそのまま振り下ろされ、めもりを“斬る”。

「めもり!!」

「……――――ッ!!」

声にならない叫びを上げ、倒れるめもり。

「めもり!」

駆け寄り、めもりを抱き寄せると、

「……!……これは……」

ケイトに“斬られた”、肩から腰にかけての箇所が、真っ黒な傷のようになっている。まるで、黒い刀に斬られたように。

「……うう……」

そしてその傷口は真っ黒な血が溢れ出ていくように、徐々に周りへと広がり始めている。


「おい、めもり!」

「……すみ、ません……避けきれ、ませんでした……」

「……馬鹿野郎……!」

「その傷口から広がる真っ黒な血はね、めもりちゃんの心の中にある『トラウマ』だよ」

「……これが、私の……」

「君がいつまでたっても自分の中にある『トラウマ』を認めようとしないからね、わかりやすいように見せてあげようと思って」

「……こいつが広がり切ったらどうなる?」

なんとなく想像はつくけどな。

「さっき言ったろ?馬鹿なら『トラウマー』と同じって。せっかくの可愛い姿がもったいないけど、めもりちゃんにはこのまま『トラウマー』になってもらうことにしたんだ」

「……お前……」

「ちなみに、僕を殺したところで何も変わりはしないよ、この前みたいにね」

俺を見て微笑むケイト。

「……チッ」

わかってるよ、お前を殺したところで今の状況が変わるわけじゃない。

また繰り返すだけだ、この前と同じに。

「……そんな……私、このまま……トラウマーになっちゃうの……?」

「……めもり」

「このままだとね。さあ、どうする?赤井君」

「うるせえ。お前は黙ってろ」

そうさ。俺がこいつを倒したって、そこには何の意味もないんだ。

「……せん、ぱい……たすけて」

苦痛に顔を歪めながら助けを求めるめもり。

並大抵の痛みじゃないだろう。心をこじ開けられて、その痛みを無理矢理垂れ流しにされてるんだ。

「……めもり」

待ってろ。今俺が助けてやる。

「いいか、めもり。俺とお前、二人で協力してあいつを倒すんだ」

「……無理……だよ……」

「そうしないとお前は永遠に助からない」

「無理だよ……もう私には無理だよ……」

めもりはしゃくり上げて泣いている。

辛いんだろう、痛いんだろう。

けど、ここで諦めるわけにはいかない。

「めもり!」

こいつのためにも俺は諦めることはできない。

「……もう私を置いて逃げて……」

「そんなことできるわけないだろ!」

「先輩だって、見たでしょ……?私は……最低で……心から最低で……」

「そんなことない!」

「先輩を……利用するだけ利用して……それでも私の『トラウマ』は消えなくて……それに縋るしかなくて……」

血の広がる速度が急激に上がっていく。

上半身は全て黒に染まっており、今や顔にまで広がりつつある。

くそ、めもりの野郎、何馬鹿なこと言ってやがる。

お前は、俺と同じ、どこにでもいる普通の人間だろうが。

「もう……これ以上、迷惑かけたくないよう……」






「馬ッッッッッッッッッッ鹿野郎!!」







思わず腹から、いや心から出た怒りが大きな叫び声となる。


「最低!?お前はどこにでもいる普通の人間だ!利用!?違う!お前は、俺に頼っただけじゃねえか!迷惑!?どこの世界に可愛い後輩に、大好きな奴に頼られて迷惑な人間がいるっつーんだよ!」


「……せん……ぱい……?」

めもりが言った一言一言を全て否定する。

思わず余計なことも口走った気もするが、とにかく俺の想いをぶちまけるしかもう方法が思い付かない。

俺の、めもりの記憶を見て、わかったこと、気付いたこと、俺の出した答えを、叩き付けてやるしかない。

それが正しいのかどうかなんてわからないけど、そうすることしか俺にはできない。


「いいかめもり、こいつは、ダークケイトは、お前の中の“闇”だ!“絶望”だ!“弱気”だ!“ネガティブ”な“後ろ向き”な、もう一人のお前だ!」


「……もう一人の……私……?」


「……そいつはいつだって急に現れて、自分の嫌なところを、嫌な思い出を、『トラウマ』を見抜いて、浮き彫りにさせて、いつだって側にいて、自分に語りかけてくる、もう一人のお前だ」


『トラウマー』達を束ねる最強、最悪の王の正体は、なんてことない。誰にだってどこにだって、いつも側にいる、もう一人の自分。弱気な心だ。


「どんなに否定したって、そいつは他ならないお前自身なんだ」


「私、自身……?」


「いくら倒したってまたすぐに現れる。その度に誰だってそんな自分を倒さなきゃいけないんだ。そんな自分としっかり向き合って倒さないと、いつまでたっても前に進めねえ。何も始まらねえ、何も始められねえだろう」


ケイトがめもりを、俺達をいつだって仲間として引き入れようとしたのも、他ならないもう一人の自分だから。そしてそれは、“頑なもう一人の自分を受け入れなければならない”と誰もが心の奥底のどこかで思っている自分自身の気持ち。

けれど受け入れるだけじゃ駄目なんだ。

受け入れて、向き合って、それで――

「けど……私、どうしたらいいか……」


「だから、俺がいるんだろ!」


そう、一緒にぶん殴って倒すために、俺はここにいるんだ。


「確かに、世の中にはそいつを自分一人で何とかしちまう奴だっている。けど少なくともお前や俺ははそんなに強い人間じゃない、普通の人間だ。一人じゃ弱気な自分さえも追い払えない、弱い普通の人間なんだ。そしてそんな俺達にいつだって立ち向かえる力を、強さを与えてくれるのは、自分以外の人間さ」


誰かの言葉。誰かの手。誰かの顔。誰かの想い。誰かの作った物。

例えそれがどこの誰かも知らない奴であろうとも、いつだって俺達は助けられて、助け合って、支えられて、支え合って生きてるんだ。


「すぐに弱気になっちまう自分も誰かと一緒なら、きっといつだって乗り越えていける」


「一緒……なら……」

めもりの涙はいつの間にか止まっていた。


「無理に痛みを、嫌な思い出を消さなくたっていい。消すことなんてきっとできないんだ。それもお前の一部だ。世界を守りたいって想いも自分の物。ヒーローになりたいって想いも自分の物。誰かに認められたいって想いも自分の物。それを裏切られて、落ち込んでしまうのも自分の想いだ」


俺がそうであるように、お前だってそうなんだ。


「そうやっていくつもの弱気があったって、一人じゃない。お前には俺がいる。俺がいつだってお前の側にいて、一緒にぶん殴ってやる。何度でも何度でも一緒にぶん殴ってやる!」


「先輩……」

抱き寄せためもりを放し、俺は立ち上がる。

「だから今はひとまずさ、目の前にいる弱気なお前を、一緒にぶん殴って倒しちまおうぜ!」

一緒に立ち上がろうぜ。

めもりに手を差し伸べる。

「……!」

そんな俺の様子を見て、めもりは目を大きく開き、そして、

「……」

顔を伏せてしまった。

……あれ?もしかして失敗した?

「……めもり……」

言いたいことは全部言った。

俺にできることはもう、めもりと一緒にぶん殴ることくらいしか残っていない。

これで駄目なら、どうすりゃいいってんだ。

「……先輩」

「!めもり……?」

少しの間を置いて、めもりが顔を上げる。

その顔から、身体からは真っ黒い血が消えており、代わりに――

「……あれ?」

今まで黒かったせいか?妙に顔が赤く見えるような……。

もしかしてどこか具合でも……



「台詞がクサい」



「……え?」

俺の心配をよそに、次にめもりの口から出たのは、久々の毒舌だった。

「……調子に乗り過ぎ」

そう言いつつも俺の手を取り立ち上がるめもり。

やれやれ。ようやく通常営業に戻りやがったか。

心配も吹き飛んじまうね。

「……さっさとこんな奴、ぶん殴って倒しちゃお」

しかしその顔は、以前の、いや以前よりもすっきりとした、晴れやかなものだった。

「おう!」

だな。ここからが本番なんだ。


「……話はまとまったみたいだね」

それまで俺達の会話にじっと耳を傾けていた、ダークケイトが静かにその口を開く。

「じゃあ、始めようか」

その表情は、初めて見る悪の親玉らしい、威厳のある、極めて真剣なものだった。

俺もぼやぼやしてられねえ。


「めもり」

「何、先輩」

「ベルト、貸してくれよ」

「…………やだ」

「何で!?お前それなくたって変身してられるだろ!」

「……これないと、『ヒーロー』っぽくないし」

恥ずかし気にそう言って、ベルトを守るように手で隠すめもり。

いや、とらねえから。

「いやしかしだな、俺はそれがないと……」

「……言われなくたってわかってるわよ、先輩が女装趣味に目覚めたってことくらい」

「そんな性的な成長したつもりもねえよ!」

せっかくのシリアスな雰囲気がぶち壊しじゃねえか!

するとめもりはベルトの星を掴み、右に90度回転させた。




「……ずっと決まらなかった、最後の必殺技がやっと今決まったの」

「最後の必殺技?」




「集まれ星の光、『メモルアルタクト』」






叫び終わると同時に変身ベルトの星が強い光を放ち、天を貫く。






そして――




「これって……」

「うん」



俺の右手には、今めもりが付けているベルトと同じ、変身ベルトが現れた。





「『美少女ヒーロー☆めもり』の最終必殺技、名付けて『ダブル☆めもり』!」








俺の隣の、青いめもりが若干ダサめのネーミングセンスを披露する。


「よっしゃあ!やったらあ!」


俺にはそれが堪らなく可笑しくて。

そして堪らなく、嬉しかった。





「変☆身!!」






ベルトから無数の星が散りばめられそれらは右手を被い、左手を被い、身体を、両足を被い、そして最後に頭を被う。







「煌めくは静寂の星、『美少女ヒーロー☆めもり』!」



「煌めくは情熱の星!『美少女ヒーロー☆めもり』!」









今ここに、青いポニーテールのめもりと赤いツインテールのめもり、





二人の『美少女ヒーロー☆めもり』が出揃った。







「一緒にぶん殴るって約束なんだから武器はなしよ、先輩」

「もちろん!ぶん殴りは、得意だから任せて!」




「……じゃあ、始めようか」

そう言うや否や、凄まじいスピードで突進し、俺とめもりに何発もの拳を炸裂するケイト。

「……ッ!」

「速い……!」

拳が当たる度に、その箇所が、直接心に響くほどの痛みを発する。

「避け……切れない!」

黒くて、重い。嫌な気持ち、嫌な思い出が走馬灯のように駆け巡る。

こいつに勝てないのではないか。そんな気持ちにさせられる。

「どうだい?止むことのない“弱気ラッシュ”は!」

まさにその名の通り、弱気に打ちのめされる。

喰らっても喰らっても、それは止むことなく心を打ちのめしていく。


けど……。


「……先輩……!」

「……わかってる!」

今のめもりと俺に、俺達に、“弱気”は通じない。


「避け切れないなら……受け止める!」


俺は腹にぶちこめられた拳を、めもりは頬にぶちこめられたもう一方の拳を、それぞれ片手で受け止める。

「……なっ」

両方の拳を受け止められ、動きが止まるケイト。


「私達は決めたの。もう二度と、逃げないで――避けないで、あんたと――もう一人の自分と、しっかり向き合って、しっかり受け止める!」

「そんで、ぶん殴って倒す!何度でもだ!」


空いているもう片方の手を握りしめる。


拳に、渾身の力をこめる。








「必殺、ダブル☆めもりある……」「必殺、ダブル☆めてお……」







「パンチ!!!!!」









統一されない必殺技の名前が叫び渡り、二人のめもりの拳がケイトの両頬を打ち抜く。














青いめもりと赤いめもりVS黒いめもりの闘いは、意外と言うべきか、当然と言うべきか、この一撃――いや二撃で、幕を閉じた。








何故かって?

お互いが一緒にいたいと願い、晴れてその願いが通じた直後の、初々しいほどに眩しい二発の拳に、弱気が吹っ飛ばないわけがないだろ?



「……クサすぎ」



……悪かったな。













「また、君の前に現れても、いい?」



二度目の最期にそう問うたケイトに、


「いつでも来なよ。その度にぶん殴ってやるから」


星のように眩しい笑顔でそう答えためもり。



「……ありがとう、二人のめもりちゃん」






消える直前に見たケイトの笑顔は、

弱々しく、だけどそれが本当の、心からのものだったように思えた。






























「……もしもし」

「めもりー!俺だー!」

「……何ですか先輩」

「何でせっかく携帯電話ってやつを買ったのに電話してくれねえんだ!」

「……ボリュームの下げ方わかります?声の」

「え!?それ操作できるの!?」

「はい、喉で」

「俺の問題かー!」




人はいつだって簡単に傷付いてしまう。

立ち上がって、歩き始めてもまたすぐに傷付き、その度に立ち上がり、その度に傷付いていく。

どんなにそれを否定したところで、それは当たり前にやってくることなのだ。

周りから傷付けられたり、時に弱気な自分が現れて自分で自分を傷付けてしまう。

どこにいたって、それはいつもやってくる。




「昨日も電話したじゃないですか、通話料が大変なことになりますよ」

「え!?1時間で30円じゃないの!?」

「そんなに美味しい話は決まって詐欺ですね。元気出してください、先輩」

「いや、俺が話聞いてなかっただけって可能性は!?」

「残念ながら……」

「えええええ!?」





けれど、いつだって人はそれに立ち向かい、倒して、乗り越えていける。

誰かが傷付いても、立ち上がった誰かが、助けて、支えてくれる。

立ち上がった誰かが再び傷付いても、他の立ち上がった誰かがまた助けて、支えてくれる。





「そもそも先輩が言い出したことじゃないですか。『世界中の人々に、一人なんかじゃないんだって、わかってもらおう』って」

「……う……」

「『一緒に弱気な自分をぶん殴って倒してやろう』って」

「……うう……」

「『そのためにも、俺達は別々に世界中を回ろう。その方が早いだろ?』って、格好付けて言ってましたよね?」

「……格好付けてたつもりはないんすけど……」





嫌な自分を否定しなくていい。

嫌な思い出を否定しなくていい。

それらを浮き彫りにする、弱気な自分を否定しなくていい。





「けどやっぱり寂しいもんは寂しいだろ?」

「……」

「え!?寂しくないの!?」

「……はあ……」





一緒に、立ち向かって、向き合って、ぶん殴って、倒してくれる人は、力を、強さを与えてくれる人は、いつだってどこかにきっといる。

自分にとっての『ヒーロー』は必ずどこかにいるんだ。




「なあ、めもりー」

「…………後ろ、見てください」

「後ろ……って!なんでここにいるんだよ!」

「……駄目ですか」

「いや駄目じゃないけど」

「…………寂しくて」

「え!?なんて!?」

「寂しくて!弱気になっちゃったの!だから一緒にいて!」

「……めもり」

「…………駄目、ですか?」

「……やれやれ。そんじゃ、また一緒にぶん殴って倒してやりますか!」




それが子供であろうと、大人であろうと。

女であろうと、男であろうと。




「とりあえず変身しとく?」

「……そういう意味で言ったんじゃないんですけど」

「……へ?」

「……もういいです、さっさと一人で変身してください」

「え!?ちょっと待て!どういうことだよ!?」

「うるさい!ねじ切りますよ!」

「どこを!?」









自分にとっての『ヒーロー』はどこかにきっといる。






『美少女ヒーロー☆めもり』はいつだってすぐ側にいて、助けて、支えてくれるはずだ。











そう。その正体が例え、俺みたいな24歳の男だったとしても、な。







(おわり)



これはあくまでヒーローの物語ですが、同時に、どこにでもありふれている物語でもあると思っています。

読んでくださった方々、ありがとうございました!

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