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プロローグ

「……というわけで、君をパーティーから追放する」


 行きつけの寂れた酒場にて、俺はパーティーのリーダー、ソードにそう告げられた。


 木造の酒場には、俺のパーティーメンバーしかいなくて、その声は異様に大きく響いて聞こえた。


「は、はぁ⁉ なんでだよ! 今更なんでそんなこと言うんだよ!」


 おかしいのはソードだけなのか、と他のパーティーメンバーも見るが、席についたままの他二人からも、冷たい目で俺を見ている。


 まるで、敵でも見るみたいに。


「俺たち、長いこと苦楽を共にしてきた仲だろ⁉ なんで急にそんなこと言うんだよ」


「いやだって君……」


 何言ってんだお前、というような調子でソードは口を開く。


「魔王のスパイだよね?」


「………………………………」


 い、いやいやいやいやいや。


「いやいやいやいや。そんなわけないじゃん。魔王様……じゃなくて、魔王のスパイ? 魔王討伐最有力パーティーの中に? いやいやいやいや。そんなわけないじゃん」


 そう言う俺に、つばの広いとんがり帽子を被った女性、ワンドが呆れた声を上げる。


「別にスパイがいる可能性があること自体は不自然じゃないと思うけどぉ?」


「え? 何? もしかして、アレ? 俺の見た目のせいでそう思ってる? 俺が角が生えてて、悪魔みたいな翼が生えてて、牙があるからですか? 見た目差別ですか? 見た目が怪しいからって偏見で疑ってますよね? 言ったじゃないですか、これは、魔物による魔法で姿を変えられたんですって」


「いや、だが今日賢者様に聞いたら、そんな魔法存在しないって」


「いやいやいやいや。そんな今日会ったばっかりの人の言葉信じちゃうんですか? 言っちゃ悪いですけど、賢者様って、ただ賢い者ってだけの人でしょ? この世の全ての魔法知ってるわけじゃないでしょ?」


「でも、魔法学の構造上、人間の体を魔族の魔法で変えることはできないって言ってたよ」


「いやいやいやいや。でもね、ほら、こうして俺自身が、そうだって言ってるんだから、そこは信じてよ。長年の仲間の言葉じゃん」


「あなたとの付き合い、まだ二か月くらいよぉ」


「だ、だとしてもだよ? 見た目が怪しいからって疑って追放までするって、そんなのいいわけ? 不当じゃないの?」


「いや、だってあなた、昨日夜中に通信魔法で魔王に近況報告してたわよね? アタシ、探知魔法でそれ見てたの」


「…………」


 いや、負けるもんか!


「いやいやいやいや。ちょっと待ってよ。100歩譲ってよ? 100歩譲って、魔王様……じゃなくて、魔王に報告してたとするじゃん?」


「魔王様ってもう言ってるじゃん」


 言い間違いなんて誰にでもあるだろ! そんな揚げ足を取るなんて、なんて悪い勇者だ!


「大体、昨日のは、故郷の親に連絡してただけだし」


「いや、『必ずや、勇者パーティーを中から壊してみせます』って言ってたわよ」


「お、俺の故郷では、魔物の本拠地のことを『勇者パーティー』って言うんだよ。魔物の本拠地を、内部から破壊してやる、って意気込みを故郷のかーちゃんに言ってたんだよ。あー、昨日の『勇者パーティー』での戦い苦戦したなー」


「そんなわけないだろ」


「しかも、あなた、アタシたちに会ったときに、天涯孤独って言ってたわよぉ」


「き、記憶が戻って! それで、故郷に連絡したくなったんだよ! ほら、なにも不自然じゃない」


 必死にそう言うも、みんなは白けた目を向けてくるだけだ。


 そんな! 正常なのは俺だけか⁉


 かくなるうえは……。


「そもそもね? なんで、探知魔法で俺を監視したのかって話ですよ。やっぱり、見た目ですよね? 見た目が魔族っぽいから、裏切者だろうという偏見で俺を疑い始めましたよね?」


「いや、君をパーティーに入れてから、やたら、魔族がこっちの戦術知ってることが増えたし、魔族に襲撃される回数も倍増したし」


「いやいやいやいや。それを俺のせいとするのは、ちょっと根拠に乏しいでしょ? たまたまかもしれないじゃないですか?」


「まあ、僕らも経験を積めて強くなれたからいいんだけど」


「…………」


「ていうか、君、しょっちゅう僕らの食事に毒入れたよね? 僕らの毒耐性高かったから効いてなかったけど」


「待ってくださいよ。それは違うじゃないですか。だってほら、現に効いてなかったわけで、そこに関しては無罪じゃないですか。あ、別にわざとやったとかじゃなくてですね。たまたま、手違いで毒が入っちゃっただけですけどね」


「まあ、確かに、僕らの毒耐性はさらに上がって、プラスになったといえばそうだけど。毒系の魔物に、一切対策が必要なくなるくらいに」


「ほ、ほらね。だから、その件に関してはノーカンでしょ? なのに、あなたたちは俺を疑った。そこに偏見はなかったのか、という話を俺はしたいわけですよ」


「いや、君がスパイだから追放したいという話を僕たちはしたい」


「それともアレですか? 俺のスキルが役に立たないから、スパイということにして追放しようとか、そういう話ですか?」


「話聞けよ」


「いやいや、待ってくださいよ。みなさん実感ないかもしれないですけど、俺の魔法で作った防具は、皆さんのことをめちゃくちゃ助けてるんですよ。みなさんが気づいてないだけで。俺を追放すると、後ですっごい困るよ?」


「でも、あなた、『この防具は、自己修復機能まであるから、俺が突然死んでも一生メンテナンスフリーで使えるぜ』って自慢してたじゃない」


「そ、そうなんだけど、アレだよ。その、ほら、みんなには説明してないデメリットが……」


「え? あるの? 最初に君の魔法とその性能を事細かに詳しくヒアリングしたのに? 意図的に隠してたってこと? じゃあ、追放は妥当――」


「いやいやいやいや! あるわけないじゃないですか! デメリットなんて! よしんば、俺がスパイだったとしてね? スパイじゃないけど。めちゃくちゃ高い鑑定魔法を持ってるワンドさんがいるのに、デメリット付きの防具渡せるわけないでしょ? それで信用を失ったら終わりなんだから」


「あ、そういうことは、考えてたんだ」


「いやいや、例え話ですけどね、今のは。とにかく、僕のスキルに不備はないわけで、追放は不当なわけですよ」


「いや、スパイだからって言ってるじゃん」


「いやいやいやいや。仮にスパイだったとしてよ? 有用な防具を作って、パーティーのレベルアップに貢献して、毒耐性も付けてよ? 俺をこのパーティに入れておくメリットのほうが大きくない? まだ利用価値あるって」


「その扱いでいいの君?」


「そもそも、あなた、私たちに貢献してちゃダメでしょ」


「ほら、この間も魔王軍、四天王の一人をみんなで倒したじゃん」


「あなた、攻撃してなかったけどね」


「なんなら、四天王の人に会釈してたし」


「いやいやいやいや。あれは、首の関節がちょっと外れたの戻しただけだから! この体、突然首の関節外れたりするから!」


「それはそれで問題だろ」


「ねぇ、この話まだ続けるの? 」


「あたりまえでしょ! 俺が納得してないから!」


「これだけの材料が揃ってて、納得しない人をどう説得しろと」


 メンバーからめちゃくちゃ疲れた空気を感じる。


 ふと、さっきからずっと黙っているパーティーメンバーの一人、筋骨隆々なドワーフのアックスさんを見ると……。


「ぐー……」


「寝てる⁉」


 仲間が不当に追放されそうなこんな時に⁉


 あの仲間思いで正義感に溢れまくってるアックスさんが⁉


「アックスさん! 起きてください! 大切な仲間が不当に追放されそうですよ!」


「なぜ、ここまで来て被害者面できるんだ……」


 俺が激しく揺り動かすと、アックスさんは、面倒そうに目を擦りながら起きた。


「ん……? なんだ……? もう追放し終わったか?」


「そんな追放は既定路線みたいに!」


「まだ、追放されてなかったのか……」


 武骨な顔に呆れの色がいっぱいに広がる。


「お前さんなぁ、追放という時点で、ありえないくらい温情な措置だと思えんのか? 俺たちは、寝ているお前の首を跳ねても別に良かったんだぞ?」


「怖っ」


「というより、ワシは、何度かやろうとした。毎回ソードに止められたが」


「ひえぇっ」


「というか、例えお前さんがスパイでなくとも、ここまで関係がこじれた状態で、このパーティーにい続けるのなんて無理だろう。どちらにせよ、大人しく出て行った方がいいのではないか?」


「いやでもっ……」


「ええい、もういい」


 アックスさんは、ぬらりと椅子から降りると、壁に立てかけてあった大斧を手に取った。


「これ以上、グダグダ言うなら、首を切り落とす」


 ここまで言われては、もう何も言えない。ていうか、なんて返事しても首を落とされそうな剣幕だったので、怖くて返事もできなかった。


 というわけで、俺は勇者パーティーから、『不当に』追放されたのだった。


 くっそー! あとで魔王様に言いつけてやるからなぁ!

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