第一話 猫と『差別の街』
第一話 猫と『差別の街』
私はノワ。猫です。
厳密に言えば獣人で、猫族です。
猫族は、普通の獣人と同じで、ヒトの体に耳としっぽをつけ、身体能力を上げた一族です。
今私が何をしているかと言うと、旅をしています。
私は少し魔法をかじっていまして、ほうきに乗って旅をしています。
「見えてきた」
私の前にはそこそこの大きさの街が見えてきました。その街はたいして他の街と変わらなそうですが、一つ明確に違うことがありました。街の中央にひときわ目立つ大きさの建物があったのです。
「でかいな~」
私は入る許可を取りに行きました。
「やぁ旅人さん!きみ、可愛いね!入ったら一日僕に付き合ってくれない!」
殴りました。
「あぁ!いいね!その冷たい目もいいよ!」
「とっとと入れてくれません?」
「いやぁ、獣人かぁ。いいねぇ」
もういっぱつ殴りました。
「というか、きみ、猫族かい?全滅したんじゃないのかい?」
私は口に指をあて、言いました。
「旅人の詮索は、ダメですよ」
彼は驚き、そのあとに笑って言いました。
「いやぁ、そうだったねぇ。まあ、いいや。入っていいよ。ただ、今中はお祭り状態だからね。そこは気を付けてね」
お祭り状態というのが気になりましたが、すぐにどういうことか分かりました。
街中の人が楽しげに紙を持って真ん中の塔に集まっているのです。
何をしているのか気になった私はほうきに乗って空を駆けました。
塔の辺りにつくと、人々が塔の中に何かを書いた紙を入れていました。
「すみません、これは何をしているのですか?」
気になった私はその辺の女性に聞きました。
「あら、旅人さん?珍しいわね。」
女性は楽しげに言いました。
「今私達は、投票をしているのよ!国民全員が1人一票名前を書いた紙をこの塔に入れるのよ!投票は3日間行われてね、今日は最終日なの!そろそろ投票が終わって結果が出るわ。旅人さんも是非見ていって!」
「投票とはなんの投票なのですか?」
女性は少しもったいぶり、自慢気に言いました。
「差別をする人を決めるためよ!」
「?」
「少し言葉が足りなかったわね。この街では年に1回投票があるの。いつから始まったのかはわからないのだけど、そんなの気にしても仕方ないから気にしてないわ。この投票で一番名前が書かれていた人は差別できるの!私達はみんなで傷つけ合うのをやめて、協力できるようになるのよ!」
「・・・」
「投票で書かれていた人を差別することで私達は犯罪も起きないし、喧嘩とかもおきないわ。素晴らしい制度よね!」
「差別された人はどうなるのですか?」
女性は笑って言った。
「差別されるということはそれだけ他の人が名前を書いたということよ。差別されるにふさわしいことをしたに違いないわ。」
その時、塔から人が出てきて言いました。
「皆さん!集計が終わりました!」
歓声が上がった。
「旅人さん!集計が終わったわ!差別できる人が決まったのよ!」
「今回一番名前が書かれていたのは――」
一斉に静まりました。
「×××さんです!」
静けさが姿を消し、一斉に歓声が上がりました。
「差別できる人が決まったぞ!」
「まさかあいつだったとわなぁ」
「みんな、行くぞ!」
「あいつを探せ!」
人々は何かにとり憑かれたのかのように騒ぎ、移動し始めました。
塔の近くからノワ以外誰もいなくなった頃、ノワに声をかける人がいました。
「こんにちは、旅人さん。少しお話をしないかい?」
その人はさっき集計が終わったと言っていた人でした。
私は塔に入りました。塔の中は思ったより小さく、普通の部屋という感じでした。
「旅人さん。君はこの街はどうだと思う?率直な意見を聞かせて欲しい。」
ノワは、言いました。
「ヤバい街ですね。久しぶりに変なところに来ました」
男は言った。
「そうだろう。この街はヤバい。だが、この街は喧嘩もなく、犯罪もなく、隣人どうしが協力しあう平和な街だ。少しヤバいかわりに平和を手に入れられるなら、安いものではないかい?」
「・・・」
ノワは、答えなかった。
「この街は、昔はすごく治安が悪かったらしい。それこそ、今の状況が夢のように。このままではいけないと思った昔の人が、考えたのが投票さ。投票で決まった人を差別していいと決めたことによってこの街はだんだんと平和になった。そして、時が過ぎて、10年ほど前、僕が集計役になった。集計役は投票期間中、塔にこもって集計をするんだ。それが仕事だから他の時は働かなくてもいい。」
「うらやましい...」
「そうだろうね。実際僕は近所の人たちに何度もかわってくれと頼まれたよ。まぁ、かわるわけがないけれど。ごめん、話が飛んだね。それで、僕は集計役になって気付いたことがあるんだ。」
「気付いたことと言うと?」
「1人では集計なんかできないんだ。そもそもこの街全ての住民が投票するのに1人で足りる訳がないんだ。なのに――」
「今までの集計役は1人でできていた、ということですか」
「そう、そうなんだ。そして僕はわかった。何故今までの集計役は1人でできていたのかということが」
「何故ですか?」
男はゆっくりと言った。
「自分で差別したい人を決めているからさ」
「そんなことをしていいのですか?」
「良くないよ。良いわけがない」
「なら何故?」
男は笑って言った。
「ばれないからさ」
「自分で勝手に決めたところで誰もそれに気づくことがないからさ」
ノワは静かに言った。
「“こいつはそんなやつじゃない!”、と言う人はいないのですか?」
「そんなやつがいても証拠はない。それに――」
ノワは黙って聞いていた。
「そんなことをしたら来年の差別される人が自分になるかもしれないからさ。この投票は不正かもしれない。けれど、もし本当だったら?そう考えたら言えないよね。誰だって自分の方が大切さ。それにそもそも、みんな差別できるなら誰でもいいのさ。できればこいつを差別したい。誰だってそんな人がいるだろう。けれどそれは『できれば』だ。できなくとも関係ないのさ。」
「・・・」
ノワはまだ、黙っていた。
「だから僕が勝手に決めているんだ。これはみんなのため、とも言えるだろうね」
「何故その話を私に?」
「納得してなさそうだったからね。それに旅人ならこの街から出るだろう。少し誰かに話したくてね」
「私が誰かに言うかもしれませんよ」
男が本当に不思議そうに言った。
「そんなことをしてきみになんの得があるんだい?信じてもらえず終わりだろう?」
「ええ、そうですね。言う気はありませんよ」
さてと、と男が言った
「じゃあ、僕の話は終わりだ。誰かに話せて嬉しいよ。機会があればまた会おう」
ノワが微笑み、言った。
「機会があっても会いません。では、さようなら」
ノワは塔から出た。そのままほうきに乗り、街から出ていった。冷たい風が吹いていた。少し、うるさかった。
面白かったら、感想などをお願いします。
短編連作なので、すぐ出ます(多分)。




