08
返事がない。ただの屍のようだ。
ポメは2日酔いだった。当たり前だよなあんなに飲めば、肉もかなりの量を食べている。良くそんな小さな体で入るものだよ。ポメの身体は異次元ポケットなのかも知れない。
屍がピクリと動く、フードに入れて欲しいのか?うん、そのようだ。フードの中で吐くなよ。
結局昨日出来なかった武器のメンテナンスをしに行く。
『アセンスティラ大使館』に着きメンテ部屋へと移動、ショートソードや、3連式ボウガンを取り出しメンテナンスを始める。
ボウガンの矢も取り出し分解して、細かく磨いていく、血の固まりも綺麗に取れた。
その間、ポメは僕の隣で屍のままだった。通り過ぎる人が心配そうな顔をするが、こればかりはどうしようもない。
2日酔い用の薬もあるが、これは人用でポメに使って良いものか分からないしな。そのうち戻るだろう。自業自得だしな。
メンテナンスを終わらせ、ラートランドに向かう。少しだけダンジョンに潜ろうと思ったからだ。
「ん?あれって」
数十人の集まりがあった、装備は全て真新しく緊張気味だ。
だいたい年に2度、冒険者登録が行われる。曖昧なのは、結構ランダムな部分があるからだ。募集がおこなわれ、ある一定数集まったら簡単な適正試験が行われる。
募集時期によっては人が多く集まり過ぎて抽選になったり、そのまた逆に人が居なく、なかなか通知が来ない場合もあるんだとか。
僕の時はすぐに通知が来たからそんなに待つ事は無かったな。
こっち側に来ていると言う事は登録は済ませてあるんだろう、ギルドカード、もしくは、通行許可証がなければ『アースゲート』は通れない。
見るからに新人だから、地球の『アセンスティラ大使館』である程度の説明を受け、登録後やって来たって感じだろうな。
アイテム袋が手に入るまでは、武器はラートランドにある『アース大使館』に預けるようになる。メンテも、その辺でするか、ダンジョン入り口でするしかない。
僕の場合、『収納』があったから最初からメンテ部屋に行けたけど、今思えば、皆んなと一緒のが良かったんじゃ無いかと思っている。
連帯感と言うか仲間意識が芽生えそうだからね。僕の同期は、誰だったかも覚えてないんだよな。
そんな事を考えながら、ダンジョンに向かった。
ラート第1ダンジョンの入り口から東に進むと森がある。その森の中は色々な薬草が生えているので良く利用する。
今日もその森に向かう事にした。ポメは相変わらず屍のままでフードの中で眠りについている。
薬草と言っても色々とある。止血する用のものや、活力剤の元となる物、増強剤の元になる物と、種類は豊富だ。
それぞれに名前も付いているが、正式名称何て分からない。形で覚えているだけで、採取したら違ってました。何て事もある。新人の頃はお約束みたいなものだ。
ギルドには専門の人が必ず居るので、買取の際とかに仕分けてくれる。
受付嬢の人も薬草とだけ説明する。
ただし、特殊なのは別だ、この森に生えてある麻痺草とかはそうだ。麻痺草も正式名称は違うのだが、知ってる人は専門員ぐらいだろう。
この麻痺草は、名前の通り身体を縛らせる効果がある。冒険者が使うとしたら戦闘か罠でになるだろう。別の用途なら、病院で使ったりする。
何故麻痺草が特殊なのか、取り扱いを気を付け無ければいけないからだ。
手袋は必須で、皮膚が出る服装は推奨されない、加工前なので、効果は薄いが徐々に効いてきて、気が付けばその場で麻痺してしまう最悪な場合だってある。そうなったら、魔物が来ない事を天に祈るしか無い。
麻痺草は薬草より高値で売れるから、見付けたら採取したいんだよね。
ぼちぼちのペースで薬草を採取していく。長く薬草を取り続けているから、こういう場所にありそう、とか分かるんだよね。採取も手慣れたものだ。
ふんふんふ〜んと鼻歌交じりで森の中を進み採取する。辺りが少し暗くなってきたので帰路につく。麻痺草は採取できなかったな。残念。
『アース大使館』に帰り着き、採取した薬草を買取査定にだす。ミュレイさんが休みで居ないので警備兵さんは元気が無かったな。
フードの中がモソっと動く、屍タイムが終わったかな?
「大丈夫か?」
と聞くと「わふぅ〜」と元気なさげで返事が返ってきた。屍が、ゾンビになったぐらいかもしれないな。
「ご飯食ってないだろ?いるか?」
またもや「わふぅ〜」と返事が返ってくる。どっちやねん。とりあえず、フードからポメを出す。ヨロ、ヨロヨロ………やっぱゾンビだな。もうこれに懲りて、お酒は飲むなよ。
ヨロヨロと隣を歩くポメを連れ買取カウンターに行く、査定が終わったからだ。心配そうに見る受付嬢に「お酒を飲んでしまって」と説明、「まあ!」と言いながら、「それなら今度、その子と一緒に飲みたいです」と返ってきた。思ってた返しと違ったな。
ポメさん、何故そこで反応するのかい?もう懲りただろ?
僕は『クールセンター』に向かった。中に入ると無駄に歯がキラリするマッチョさんが居た。キラリ!
「あのすみません、こいつ、お酒飲んじゃったんですが大丈夫ですか?」
クールセンターは怪我や治療なども行える場所で、獣医の人も居ると聞いたのでやって来たのだ。
「あらあらまあまあ」
顎に手を当て言葉にしたキラリマッチョさん。手に持ったポメが震え始める。そんなに怯え無くても。
「普通の犬なら絶対ダメな行為よ、命に関わるもの」
えっ!?ここに来て無知に後悔する。ポメは行動が犬っぽく無いけど見た目は犬だ。
「でも大丈夫だと思うわ、この子、犬じゃないもの、魔物でも無さそうだけどね」
ふふふ、と笑いながら説明してくれる。ポメは犬じゃなかったようだ。良かったと言うべきか、見た目はポメラニアンだけどな。
「いちを『キュア』を掛けておきましょうか〜?」
「宜しくお願いします」
ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる……
ポメの震えが手に伝わってくる。が、『行ってこい」と笑顔で見送った。
『キュア』とは状態異常を治す魔法の名称で、回復系の魔法のスキルを授かった者が唱えられる。
キュアにもランクはあるようだけど、一般的に、毒や麻痺の初期状態の回復、一般的な風邪、アルコールも飛ばす事が出来るようだ。
ポメが返って来た。見るからに顔色が良くなっているが、何故かゲンナリしてるように感じとれた。
「引き落としはギルドカードからお願いします」
キュアを掛けてもらうのも無料では無い、クールセンターは簡易的な病院みたいなものなのだ。
「お大事に〜」
キラリマッチョさんが手を振っている。僕は頭を下げた。
ゲシゲシゲシゲシ!高橋◯人も顔負けの連打で頭を叩くポメ。元気になったようで良かったよ。
家に帰り着くと肉を要求してくる。今日1日食べて無かったもんな、凄い食べっぷりだ。
体のサイズ以上に食ってるよな、何処に消えてんだ?異次元ポケットのポメさん、七不思議だな。
その後、風呂に入れる。今日は抵抗なくすんなり受け入れた、むしろ風呂で気持ち良さそうにしている。頭にタオルを置いていた。
風呂から上がり、ベッド争奪戦も無く、個々のベッドで眠りについた。そりゃ〜僕より良いベッドに寝てらっしゃるもんな。




