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07

 ポメと出会って3日しか経っていない。ケンカしたり、一緒に冒険したり、ケンカしたり、一緒に肉を食べたり、ケンカしたり、一緒に買い物に行ったりと、たった3日だけど楽しかった。と思える。

 1人の時はただただ毎日を同じような過ごし方だったからかな。  

 だからこそ、女性冒険者に言われた言葉で、楽しかったんだ、と思えたんだと思う。


「だからお兄さん、この子ちょうだい」

「えっ?」


 ポメを見る。胸元に顔を埋め、今もペロペロしている。女性冒険者も嫌そうにしていない、優しく背中を撫でている。

 僕以上に懐いてるようにしか見えない、撫でさせて貰ったのは、最初に肉をあげた時だけだった。だからかな。


「……………ポメが良ければ」


 ポメが良ければ仕方ないか、と思ってしまった。


「わぁ!ほんと!ねえねえ、ポメっち、あたしの子になるぅ〜?なるよねぇ?」


 ポメの懐きよう、女性冒険者の可愛がり方を見て、大切にされるだろうなと思える。


 僕はそのまま帰宅する選択を選んだ。


「うん、元に戻っただけ」


 これで良かった。無駄な出費も無くなるからね。


 武器のメンテして無かったな、明日でいっか。昼ご飯食べて無かったな、もう晩ご飯のが近いな。明日はダンジョンに潜って、いつものように薬草を取りに行こうかな。


 フードに重みを感じた。


「ん?」


 別の事に気が向いていたみたいで気が付かなかった。


「ポメっちは、お兄さんのが良いみたい」


 女性冒険者が、ポメをフードに入れたようだ。


「……で、でも」


 バシン!頭を叩かれる。ポメのいつもの頭叩きだ。


「ねっ」


 女性冒険者は、「またね〜」と去って行った。僕は「はぁ」と溜息を吐き言葉にする。


「しょうがないな、もう……」


 バシン!!!今のはちょっと痛いぞ。


 


 僕は『アセンスティラ大使館』に来ていた。目的は武器のメンテナンスと晩ご飯だ。

 メンテを先にしたかったが、昼も食べて無いせいか、匂いの誘惑に負け、先にご飯にする事に決めた。

 メンテ部屋の隣には飲食店が並んでいる。冒険者は酒飲みが多く、大喰らいも多い、体を使う職業だし、命の危険も常にあるからかも知れない。

 僕はそんな彼らより少食だしお酒も余り飲まない。でも、ここの雰囲気は好きだ。お店によって個性は出るし、何処のお店も冒険者しか居ないのは、アセンスティラ大使館の2階より上は、ギルドカード持ちしか入れないから。


「「「きゃーー!可愛い!!!!」」」


 そんな飲食店で、ポメは人気者、人じゃないから人気犬になっていた。獣肉を専門に扱うお店で、お肉好きなポメが選んだのがこの店、『獣獣店じゅうじゅうてん

 中に入ると女性冒険者で構成されたパーティーの打ち上げで、貸し切りだったらしく、気が付かずに入ってしまった。出ようとしたら、ポメは我勘せずと進んで行ったのだ。ポメの姿を見た女性が「可愛い」の声が広がり、ポメを連れて行かれ、僕も席に座らされた。

 もしかしてお店の中が、女性だらけと知って入ったんじゃないだろうな?と疑ってしまうが既に遅い。

 僕の周りは女性だらけになった。嬉しさより、場違い感で居たたまれない、席を立ちたいがポメはあっちに抱かれ、こっちに抱かれで、戻ってくる気配が無い。

 

「おまち〜!」


 肉がどっさりテーブルに運ばれてくる。お酒もピッチャーでドンドンドンと置かれる。ポメのテンションが更に上がった、胸に抱かれながらお肉を頬張る姿は何と言うか情けない。

 でも、その姿も女性には可愛いく見えるようで、黄色い声が飛ぶ。しまいにはお酒も舐め始めやがった。「いいぞー!いいぞー!」と周りの女性も煽り、一緒に飲み始める。その勢いは凄まじく、あっという間に酔っ払いがあちらこちらで生産されて行く。

 僕が居るのを忘れたかのように裸で踊る人まで現れた。ポメも隣で踊っている。もう収拾の付けようがない。

 途中から僕はお店のスタッフのようになっていた、料理を運び、空いた皿やジョッキを片付ける。眠った人を隅に寄せ上着をかけてあげる。


 しばらくどんちゃん騒ぎが続き、大半の者が酔い潰れた時、隣に誰かが座った。

 そちらを振り向くと思わず『ドキリ』としてしまう。

 シュっとした切長の眼、腰程あるもみあげを片方下ろし、残りは後ろで束ねた艶やかな黒い髪、凄く容姿が整っていて、目が合っただけで心臓を鷲掴みされたかのような錯覚がした。


「今日は来てくれてありがとう」


 礼を言われるが、礼をされる覚えは無かった。どちらかと言うと迷惑を掛けていそうなんだけどな。特にポメが。


「あ、いえ、ポメがヅカヅカと入って行っただけなので、寧ろ貸し切っていたのに、僕とポメが迷惑をおかけして申し訳ないです」


 謝る事にした。今日初めて会った赤の他人なのに、打ち上げに参加させてくれている。


 そんなポメはチヤホヤされ、騒ぎに騒ぎ、ガンガンお酒を飲んでいた。大丈夫か?と思ったが、止める隙何て無かった。今は酔い潰れ裸の女性に抱っこされて寝ている。


「謝る必要は無い、むしろ感謝をしているのだ」

「……………何かあったんですね」


 年末年始で無い今、打ち上げをする。と言う事は、強い魔物の討伐成功や、大きな依頼を達成した時に行うものだ。


 そして、冒険者は危険と隣合わせ。


「指名依頼を貰ったのは良かったが、危険な依頼だったんだ。私達の処に回ってくるまでも、色々な『血盟』に依頼を出していたそうだ」


 血盟とは、パーティーが集団となり、同じ目的や意志を持ち合わせた者達が集まり組織されると『血盟』と呼ばれるようになる。

 

「しかしその全ての血盟が全滅、または、全滅に近い状態で依頼失敗となった。その後、すぐに動けた私達『ヴァルキリーメイデン』に依頼が回って来たんだよ」

「えっ!?」


 僕は名を聞いてびっくりする。


 女性だけで構成された血盟の名が『ヴァルキリーメイデン』トップ血盟の1つ。


「もしかして……」

「ああ、そのもしかしてさ、依頼はどうにかこなせたが、被害がね………」


 被害と言っても多岐に渡るが、今回は間違いなく死者の事だと想像が付く。


「暗く、気乗りしない打ち上げだったんだが、君とポメ君が来てくれたお陰で、皆んなハメを外し、今を楽しめていた」


 今だけでも、楽しく居て欲しいと願ったに違いない。


『死は忘れる訳では無い、心に留め、糧にする』


 冒険者は誰もが経験する事だと新人研修の時に教わる。糧に出来ない者は、冒険者を辞めろとまで言われる。厳しいようだけど、それが現実だと。


「そう言えば、名を名乗って無かったな、私はヴァルキリーメイデン副リーダーの『氷華ひょうか』だ」


 ヴァルキリーメイデンと聞いた時に、この人の名前も顔も思いだしていた。雑誌にも、SNSだけじゃなく、モデルもこなす、超有名人、余りにも現実離れした美貌は、男性からだけじゃ無く女性人気も高い。そして、ヴァルキリーメイデンの最大戦力の1人。


「ぼ、僕はソラトです」


 急に緊張し始めてしまう。こんな有名人の人達の中に紛れ込んでしまっていたとは、ゆくゆく見れば、最初に裸になって踊りだした人は、ヴァルキリーメイデンのリーダー『花月かげつ』さんだ。

 あそこに寝てるのは!とか、あそこで下半身だけ脱いでチビチビお酒を飲んでる人は!とか、雑誌やニュースなどで見た面々だった。


「すみません、こんな大きな『血盟』の方達ともつゆ知らず、てか、今になって見覚えがあると思いだしまして……」

「最初にも言ったが感謝してるのは私達の方だ、だから気にする必要は無い」


 あわわと挙動不審になってしまっている僕が居る。


「何か礼をさせてくれないか?」

「い、いらないです。僕もポメも楽しめましたので」

「ソラト君は、給仕みたいな事しかしてなかっただろ?」

「そ、そんな事ないですよ?」


 僕は、料理運びをして、お酒運びをして、酔った人の介抱をしてと…………満喫してたのはポメだな。


「何か無いか?」


 心の中を読んだかのように聞かれる。そんな、急に言われても、と思ってしまうが、うむ、それなら。


「じゃあ、余りの料理を全て貰って行って良いですか?」

「それは構わぬが、アイテム袋に詰めて帰っても、この量は入りきれるのか?相当な量がある、それに、明日か明後日にはダメになってしまうだろ」


 アイテム袋やアイテム箱に料理を入れても時間経過して冷めてしまう。でも、僕の『収納』は時間停止があるんだよね。


「僕は『収納』持ちですから」

「収納スキルを持ってる者は地球人では1人、君だったのか」


 SSSトリプルエスは無駄に有名になる。まあ、残念スキルで有名でもあるけどね。


「しかし、収納スキルであっても、この量は多過ぎでは無いか?ダメと言ってる訳じゃ無いが、ソラト君とポメ君では食べきれる量では無いだろ」


 まだ手を付けていない肉なども多く残っている。普通に考えれば食べきれ無い。

 

「実は収納スキルには時間停止があるんですよ」

「な!何!?ま、まて!時間停止だと!!!」


 かなり驚いている。まあ、そうだろうな。『収納』スキル自体が珍しく、現在までに確認されたスキルが載っているサイトにも、そんな事は書いてないからね。


「それに、量は多分ですが、無限に入るんじゃ無いのかな?試した事ないけど、いっぱいになった事は無いですね」


「……………何て事だ…………これが本当なら………」


「ん?」


 声が小さ過ぎて聞き取れなかった。


「いやすまん、収納スキル持ちを見た事無くてな、良かったら見せてくれないか?」

「もちろん良いですよ」


 スキルの珍しさと言うだけならトップクラス。見た事ある人のが少ないと思う。

 僕は目の前のテーブルや、準備だけされ持って来れてもいない別に置かれた料理や飲み物を、次々と収納していった。


「………………」


 初めて見たからだろうか?見た者は皆んな「えっ?」的な顔をしていた。

 

「それで、何か時間停止出来ると言う証明になるモノはあったりするだろうか?」

「ありますよ、例えばですね、ハイこれ」


 取り出したのはアイスクリーム、パックに入って、無駄にカチンコチンになっている。


「あ、ああ……」


 受け取った氷華さんは、唖然とした顔をしていた。


「ソラト君、この事は他の誰か知っているのか?」

「多分知らないんじゃ無いですか?僕はソロですし、今まで言うタイミング無かったですから」


 氷華さんはパックに入ったアイスクリームを取り出し口の中に入れた。「無駄に凍り過ぎているな」と言いながらも食べ終わる。


「君の為に言うが」

「はい?」

「時間停止の件や無限に入る事、大きさも関係無いと言う事は、信用出来る者以外は言うべきでは無い、私や、今回見た者に、血盟の名を使い箝口令をひく」

「は、はあ……」


 箝口令って大袈裟な!と思ったけど、他人にスキル情報を漏らすのはモラル的に宜しくない。

 サイトに載ってある情報程度なら大丈夫だろうけど、スキルはある意味、その人の切り札になりうるからな。まあ、僕のスキルが切り札になるかは別問題だけど、僕にまで心配してくれる氷華さん、きっと仲間想いで良い人なんだろうな。

 


 







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