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05

 昨日と同じ場所にたどり着く、予定では1時間ほどで着く予定だったが、食いしん坊と追いかけっこなど無駄な時間を使い3時間かかってしまった。

 ボルトはその場に無く、ゴブリンの死体も綺麗さっぱり無くなっている。

  

 川沿いから北上すれば薬草の群生地に着くが、向かうかは悩みどころだ。群生地には問題無く行けて30〜40分はかかる。

 それから採取を始め、早く切り上げて帰っても日が落ちてしまいそうだ。ダンジョン内に街灯は無く、辺りは真っ暗になる。ライトは持ってるけど、日がある時と比べ、倍以上に危険度が跳ね上がる。ゴブリンは夜目が効く、人である僕のが圧倒的に不利。

 いちを野営セットも持ち合わせてはいるが、見張りも居なく魔物避けの結界石も持って居ない。ソロ冒険者の辛い処だ。

 

「わふ?」


 フードの中でポメが何かに反応した。腹一杯になり、歩くのもきつそうなポメをフードに入れ、(よたよたと歩き、数歩あるいては休むを繰り返していた)さっきまでイビキをかいていたが起きたようだ。ひょこっと顔を出したのが何と無く分かった。

 右肩に前脚を乗せ身を乗り出した。右を見るポメと同じく、僕も右を注意深く見る。


「あ!あれは!」


 川の反対側は森林になっている。その隙間に見える4つの影。それはウサギの魔物ホーンラビット3羽と黄色い毛並みの丸々太った、イエローラビットの姿。


「ゴクリ」思わず唾を飲み込んだ。


 ホーンラビットは頭に30センチ程のツノを生やしたウサギの見た目の魔物、数こそ多くは無いがそこそこ見かける魔物だ。ゴブリンと違い、ツノも肉もぼちぼちの値段になる。


 しかし!しかしだ!


 イエローラビットは違う、過去に1度だけ遭遇した、レア中のレアなウサギ。

 イエローラビット1羽だけで、最低30000マネはくだらない。日本円で30万だ。

 革は富豪層に人気で高値が付く、肉は高級食材で、取り扱うレストランでは、100グラム数万円になるそうだ。


「ポメさんや、交渉しようじゃないか」


 ポメは気配を感じとるのが得意だと思う。ゴブリンも気が付いたし、川の反対側の4羽の魔物も気が付いた。だから、交渉する。


「昼に食べたステーキ肉を食わせてやる、だから、あの黄色いウサギ、イエローラビットの気配を逃さないように追ってくれないか?」


 ペシペシと頭を叩いてくるポメ。ポメを見ると頭を振って鼻を上にクイクイっとする。


「もっと条件を上げろと!?」


 ニヤリと笑うポメ、こ、この……ま、まあ良い、イエローラビットを倒せれば良いのだ。


「わ、分かった……いっ、一週間、ステーキ食べ放題でど、どうよ?」

「わふ」


 交渉成立と言ったような顔をする。こうなったら絶対倒してやる。イエローラビットはそこまで速く無いし強いとも聞かない、ただ、ホーンラビットの群に居る事が多いらしい(未確認情報)

 そうなると、あの3羽のホーンラビット以外にも居る可能性を視野に入れておかないとな。


 よし、まずは向こう岸まで移動だな、『収納』にはゴムボートも入れてある。幸い川の流れは緩やかだ。

 少し上流に行きゴムボートを取り出す。エアーは入れたままにしてある。オールも取り出した。

 余り音を立てないよう慎重に漕ぎ、川を渡りきった。ハンドサインでポメに確認『まだあそこに居るか?』と(指をさしただけ)ポメは頷いた。

 ゴムボートを『収納』、ポメはフードから出て僕の隣に着く。

 ショートソードは取り出し済み。ボウガンは恐らく使う暇が無いと思い出していない。ゆっくりと歩む、カサカサと落ち葉を踏む音とドキドキ音が重なる。思った以上に緊張してるようだ。

 木と木の隙間から見える4羽、距離としては100メートル弱かな?まだ遠く感じるが、こっからはダッシュで向かう。

 気が付かれ逃げられても、ポメの索敵を信用しよう。


「行けるか?」

「わふ」


 お互い声は潜めている。


「GO」


 ダッっと地面を蹴り走り始める。4羽は気が付いたようで反対方向に逃げた。ポメはさすがと言うべきか、かなり速い。

 後少しでぽてぽて走るイエローラビットに追い付きそうだ。その時…


「ポメ!避けろ!!」


 ホーンラビットがポメに突進して来た。あのツノに突かれれば最悪1撃で終わってしまう。

 ポメは回避する、続くホーンラビットの攻撃も避ける。次々とホーンラビットが攻撃を繰り返す。ホーンラビットの連携が良すぎるように思える。

 ポメは回避に専念するしかなく、イエローラビットとの距離が離れた。


「はっ!」


 やっと追いついてショートソードを振りホーンラビット1羽を倒す。


「ポメ!行け!」


 ホーンラビット2羽を引き付け、ポメを走らせた。ホーンラビットは左右にぴょんぴょん飛びながら来るが、ツノ攻撃の際は突進しか無い。飛躍の瞬間だけ気を付ければ回避は難しく無く、着地の瞬間か、飛んで来たタイミングに合わせて剣を振れば容易に倒せる。


「ガウっ!!!!」


 ポメの吠える声が聞こえた。


 見失いかけていたので、声を出してくれるのは助かる。ポメもきっとそう思ったに違いない。

 急いで向かうと、ポメはイエローラビットの首を咥え抑えつけていた。倒してはいないようだ。


「良くやったポメ!」


 倒してしまうと思っていたが、これってもしかして生け取りに出来ちゃうんじゃね?イエローラビットが冒険者ギルドに持ち込まれる時は死体でしか無い。そもそも遭遇率が低いのもあるが、生きたままって、もしかしたら超高額査定になるのでは!?

 僕はそう判断してゲージを取り出す。このゲージはかなり頑丈なのでそうそう壊れはしない。

 バタバタと暴れるイエローラビットの首を掴み、ゲージに入れる。


「重いな……」


 かなり重い。感覚的にポメの5倍はありそうだ。でも、この重みは嬉しい重み。生き物は『収納』出来ないが、モーマンタイなのだ。


「よし、帰るか、ありがとうなポメ」

「わふ」


 やってやったぜテキな顔のポメ。


 帰る最中、討伐した3羽のホーンラビットの死体を『収納』、これもそこそこの値段になる。ニヤニヤが止まらないぜ。イエローラビットは疲れたのか暴れるのを辞めた。


「グル?」

「どうした」


 ポメの動きが止まったと思ったら僕のズボンを咥え引っ張り始める。どうしたんだ?


 ………ド……ドド………ドドド………


 地響き??


「ひいぃぃ!!!!」


 森林の奥から数百は居そうなホーンラビットがこっちに向かって来ているのが見えた。


「に!逃げろーーーー!!!!」


 慌てて逃げる。川向こうまで行けば逃げ切れる。


「くそ!重い!!」


 イエローラビットの入ったゲージが重すぎだろ!


 ドドドドドドドドドドドド


 地鳴りのような足音がどんどん近づいて来るのが分かる。このままだと追い付かれてしまう!!


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……


 ムーリー!


 イエローラビットの入ったゲージを投げ捨てる。もう後ろを振り返る余裕が無い。川に着くと即座にゴムボートを取り出し乗る。ポメも飛び乗った。  

 バシャバシャと、ホーンラビットが勢い余って川に飛び込んで来たのが見える。

 後少し遅かったらホーンラビットの波に飲ませていたに違いない。どうにか完一発で逃げ切れた。


「あ、危なかった」


 息をきらし、何とか言葉にする。何故あんな数のホーンラビットが居たのか分からないが、イエローラビットと何か関係がありそうなのは確かだな。


「はあ……」

「わふぅ〜…」


 疲れた……それにしても、逃した魚が大き過ぎて辛い。気が沈む、ゴムボートも沈む……ん?

 げっ!ゴムボートに穴が空いている!ホーンラビットのツノに突かれたのか!?


「ヤ!ヤベーー!!!」


 急いで反対岸まで漕ぐ、が間に合わず、後少しって処で沈んだ。






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