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03

「ふあぁぁーー」

 

 目覚ましが鳴りいつもの時間に目を覚ます。体が若干痛いのは気のせいでは無い。昨日の夜、ポメとバトルの末ににベットを占拠され、僕が家主の筈なのにソファーに眠むるハメになったからだ。


 腰と肩が少し痛いな、ポメ用のベッドを買ってやらないとな、と思い朝のお通じを出しにトイレと向かう。


「わふ?」

「………………」


 ドアを開けると、洋式トイレに器用に座り、用を足すポメの姿があった。チョロロロロ……




 僕が住む家は、冒険者ギルドが大家のアパート、冒険者であれば格安で提供してくれて、『アセンスティラ大使館』へのアクセスだって徒歩10分で着いちゃうのだ。勿論、ペット可なのでポメを家に住まわせるのも問題が無い。さあ!冒険者のみんな!同じアパートに住もうぜ!今なら、満室で入れないけどね!


「なぁポメ、本当に着いて来るのか?」

「わふ!」


 当たり前だ!みたいな顔をしている。


 初心者ダンジョンをホームにしているとは言え、危険が無い訳では無い。昨日ゴブリンに狙われていたポメだからこそ、家でお留守番と思ったんだが、出て行く前からフードに入り込み、何度も説得したがそっぽを向かれ、フードから強制排除しては強引に入り込むを繰り返した。しまいにはフードに噛み付き、プラーンとぶら下がると言う何とも言えない状況になったのだ。

 今日はいつも以上に安全第一で行動しようと考えながら家を出る。


「あっ!!」


 色々と考えていたら、とある事を思いだしてしまった。ショックの余り、天を仰いで、涙が出そうになった程だ。


 それは、ゴブリンに撃ったボウガンのボルトを抜き忘れてしまっていた事だった。何と言う失態!ポメに気を取られ、ボルトを抜き忘れてしまうなんて!!!


 昨日使ったボウガンのボルトは、矢尻の部分に隙間が有り、シャフトの中は螺旋状で射てば空気により回転をアシストして攻撃力が増す仕組みになっている。作りは全てに特殊金属が使われており、錆にくく、硬さと軽さが両立した至高のボルト。その至高のボルトの値段は1本18000円(税別)もする、それが3本。


 ななな、何という事だ!


 絶望に打ちひしがれ、ゾンビが徘徊するかのような足取りで『アセンスティラ大使館』に着いた。


「お兄さーん」


 エントランスに入ると1人の女性が走り寄ってくる。


「ん?昨日の!」

「どうしたんすか?顔が青いっすよ?」

「ちょっと嫌な事を思いだしただけだから、ところで何か用かな?」


 ショックが大きすぎて、側から見ても僕の顔は青かったようだ。


「あの可愛い犬っコロわぁ?」


 昨日、メンテ部屋で会った女性冒険者だった。胸元の空いた服装は変わらずで、短パンを履いた元気っ子な感じの女性。少々目のやり場に困りながら。


「フードの中に居ますよ、ほら、ご指名だ」

「わふぅ〜」


 フードを揺らすと欠伸をしながら顔を見せる。寝ていたようだ。


「きゃー!やっぱ可愛いぃぃ!」


 有無も言わさず、フードの中からポメを取り出した。


「あははは、やっぱこの子、胸が好きなんだね!」


 またもや胸を舐め始める。元気っ子は嫌がる事無く、逆にめっちゃモフり倒している。


「この子の名前なんてぇーの?」

「ポメだよ」

「あはは、見た目のまんまじゃん!だけど可愛い名前だね」


 毛の色が真っ白な、見た目はポメラニアンだからな、そう言えば、ポメと決めたのはこの女性がポメって言ったからだったな。


「おい、行くぞ」


 エントランスで女性冒険者がポメと遊んでいると、後ろからパーティーメンバーと思わしき男性が声を掛けてくる。


「えー!ポメと遊んでいたいよぉ〜」

「またにしろ」

「次いつ会えるかわからないじゃん!」

「メンバー全員準備が終わってんだぞ」


 何や感やで、ブーブー文句言いながらも「またねぇ〜」と去って行った。ポメはぴょんぴょんと跳ね、女性冒険者に「またペロペロさせて」と言ってるように思える。このムッツリ犬め!


 今日はポメと一悶着があって、家を出るのが遅れたから会えたのかもしれないな。矢を失ったショックは大きいけれど、目の保養も出来たし、ヨシとするしか無い。




「お疲れ様です」

「ういっす」


 ラートランドのアース大使館に移動した。そこに居た警備兵の人に挨拶をする。警備兵さんの名前は分からないが、たまに見かける人で軽い会話をするぐらいの仲だ。


「お前、ミュレイと仲良くしてたな」

「見てたんですね」


 警備兵さんは受付嬢のミュレイさんに好意があるようで、僕が話しをしていると嫉妬される。そんな本人はミュレイさんの前ではカチカチに緊張して、ハイかイイエと、挨拶しか交わせなくなってしまう。


「で、ペットで釣ってあんな事やこんな事をしやがって」

「何ですか、その偏見な物言いは、ただペットの登録して貰っただけですから」

「それにしては、ペットを使って胸を揉みほぐしてたじゃねぇ〜か」

「間違いだらけで突っ込みしか無いですが、それならペットを登録して貰ったらどうですか?」


 はっ!と目を見開く、その手があったか!と。


「ってダメじゃねえか!俺はラートランドに住んでるから、登録が必要ねえよ!」

「地球に帰ります?」

「それは出来ねえ、ミュレイの家の近くに住めているからな」


 ストーカー!?危ない人だった!?


「迷惑はかけないで下さいよ、みんなのミュレイさん何ですからね」

「分かっている」


 言葉と言動に若干引いてしまったが、最後に警備兵さんから「ダンジョン頑張れよ」と声をかけられ別れる。




 総合カウンターには噂のミュレイさんが居た。


「どうしたんですか?眉間に皺を寄せて」


 とても微妙な顔でカウンターに座って居たので思わず聞いてしまう。


「……い、いえ、あの……」

「言い難い事ですか?」

「カワノさんと仲が良いのですか?」

「カワノ?」


 誰だろう?学生時代に同じ苗字の人は居たが。


「さっき話してた警備兵の方ですよ、名前を知らないって事はそこまででは無いのですね」


 警備兵さんがカワノさんだったようだ。


「………最近、カワノさんの眼が気持ち悪くて」

「そ、そうなんですね」


 警備兵さん御愁傷様です。心の中で手を合わせた。


「何かあったら言って下さいね、僕に出来る事ならお助けしますので」

「ええ、ありがとうございます」


 ニコりと笑うと、美人でいて凄く可愛いらしい。ミュレイさんはラートランドの冒険者ギルドでも1位2位を争う人気の受付嬢、この笑顔は確かにと思える。


「わふ?」


 ポメがフードから顔を出す。


「あら、その子ダンジョンに連れて行かれるのですか?」

「家に置いて行こうと思ったんですが、しつこくって!こら」

「きゃ」


 フードから勢いよく飛びだしたポメは、ココが所定位置だと言わんばかりに胸に飛び込み、顔を埋めた。


「すみません!ポメ!戻ってきなさい」

「大丈夫ですよ」


 ミュレイさんもポメの背中を撫で始める。チラっとこっちを見たポメの顔を殴ってやりたいと思った。もしかして、ミュレイさんの胸に顔を埋める為に着いて来たんじゃ無いだろうな。


「ソラトさんは安全マージンをしっかり取る方なので大丈夫と分かってますが、それでもダンジョンです。気を付けて下さいね。ポメちゃんも居るんですからね」

「はい」


 ミュレイさんの胸を堪能したらしく、満ち足りた表情のポメは、1時間程で戻ってくる。


「長くゴメンなさい」

「この時間は余り人が居ませんし、私もポメちゃんで癒されましたので大丈夫ですよ」


 ポメを受け取り総合カウンターを離れる。


「ムッツリポメさんよぉ〜」

「わふっ」


 勝ち誇った顔のムッツリポメに、悔しさと敗北感を味わってしまった。

 

 

 

  




 

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