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『冒険者ギルド』は、その名の通り、冒険者の登録、仕事の斡旋、素材の買取などを行う組織の事だ。
その中には冒険者の相談なども含まれ、快適な冒険者ライフをおくれるようにバックアップもしてくれる。
冒険者にはランクがある。Fから始まり、Aまでいくと、S、SS、SSSと、スキルと同じように上がっていく。
ちなみに僕はDランク冒険者。初心者では無いけれど、ベテランでも、熟練者でも無い、そんな立ち位置なランクだ。
「あの、ミュレイさん」
「あら?どうしました?今日は帰りが早いですね」
総合カウンターに座る女性は見知った人だった。僕が冒険者に登録した際、この女性、ミュレイさんが受け付けをしてくれた。何でもミュレイさんも新人だったらしく、初めて受けた登録者が僕だったので、顔と名前を覚えてくれているそうだ。
「連れ帰りたいペットが居るのですが、登録して貰えますか?」
「ペットですか?どちらに?」
魔物や、異世界の動物をペットとして連れ帰りたい者が居る。テイマースキルを持った者などは特にその傾向が強いが、魔物を地球に連れ帰るには色々と規則がある。
魔物は危険なので、その個の危険度や、その他諸々の規則事項を元に決められ、冒険者ギルドに登録してから初めて連れ帰る事が出来る。
「こいつなんですが…」
「わふ」
僕のフードに入り込んでいた、見た目ポメラニアンの犬が顔を出す。
「あら可愛い!!」
ミュレイさんは手を伸ばす。その瞬間フードから飛びだした。
「あぶな……」
く、無かった。ミュレイさんの豊満な胸に顔を埋め、クーンクーンと擦り付けている。少し目のやり場に困りながら聞いてみた。
「こいつって魔物ですか?」
犬の脇を持って持ち上げたミュレイさんは、見た目ポメラニアンの顔をじーと見つめる。
「ちょっと分からないですね、どう見ても普通の犬にしか見えないですが、何処でこの子を?」
「ダンジョン内でゴブリンに狙われていた処を助けました」
「なるほど、ダンジョン内ですか…………少し調べて来ますね」
そう言葉を残し、そのまま胸に犬を抱えて裏に引っ込んだ。その時の犬の顔ときたら、間違いなくニヤリと笑った。ちんちんが付いてたし雄なのは分かったが、あの野郎!
総合カウンター近くの椅子に座り、待つ事30分程で戻って来る。
「お待たせしました」
「いえ、で、どうでした?」
「結論から言うと分かりませんでした。データベースにアクセスしましたが記録にも無く、よって、ただの犬だろうと言う結論にいたりました」
ただの犬にしては言葉が分かるし、僕のフードに入ったのだって自力で駆け登ったんだよな、異世界産の犬はこんなにもハイスペックなのか?
「ついでに登録もしておいたので連れ帰って大丈夫ですよ、帰る前にはちゃんと『クールセンター』に寄って、ペット用の除菌をして下さいね」
「はい、ありがとうございます」
軽く頭を下げ、犬を受け取る。その際、何とも言えない表情の犬ときたら………ムッツリ犬と名付けてやろうかな。
「おい、ムッツリ犬」
総合カウンターから離れ、ムッツリ犬と呼んでやった。『バシ!』と前脚で僕の頭を叩き、無言でフードに潜り込む。
ちなみに、登録は冒険者登録証、通称『ギルドカード』に記録される。
このギルドカードは多機能で、どう言った仕組みか分からないが、魔物の討伐記録も残る。今日倒したゴブリンの記録も勿論ある。ゴブリンは素材として使えない為、ダンジョン内で放置されるが討伐報酬はちゃんと出る。
買取カウンターに寄り、ちょっとだけ採取した薬草とゴブリン1体分の報酬を貰う。
「いつも薬草助かります」
とても可愛い笑顔の受付嬢、ムッツリ犬がフードから顔を覗かせ「可愛い!!」の声を受ける。ドヤ顔を決める犬。
その顔に僕はキレそうになるが、受付嬢は違ったらしく、可愛い可愛いを連呼していた。今にもムッツリ犬が胸に飛び込みそうだったので、さっさと買取カウンターを離れ、『クールセンター』に向かう。そんな残念な顔するなよな。
『クールセンター』は、地球に帰る際はいつも横を通る、その横には赤いセンサーと、水蒸気と風を受けた後に『アースゲート』に入るのだが、その理由は忘れた。
初心者講習で色々と説明されたが、良く覚えていない、数回利用すると誰もが気にしなくなるので、僕も同じく気にならなくなっている。
『クールセンター』に入るとマッチョな男がカウンターに座っていた。僕以上に冒険者っぽい男の人と目が合うと、ニカっと笑い、白い歯をキラリとさせる。
フードの中のムッツリ犬は顔を出すどころか、息を潜めるように小さくてなっていた。無理矢理に出すと「ワンワン」とめっちゃ吠える。
「あらあらまあまあ」
ガシっとムッツリ犬を受け取ったマッチョさんは、犬を逃がさないようにしっかりとホールドしていた。助けを求めるようにコチラを見るが、僕は良い笑顔で「行って来い」と言ってやった。
色々と検査やら何やらが終わり戻ってきた犬は、とても疲れた顔をしていた。フードに戻った犬はひたすら僕の頭を叩き続ける。「仲が良いのね」っとマッチョさん。ムッツリ犬の叩きが強くなったような気がした。
「いつまでもムッツリ犬じゃダメだよな、あ、コラ噛むな噛むな」
ムッツリ犬はお気に召さないようで、しまいには頭を噛んできた。
『アースゲート』は、通路を歩くだけで良い。地球に戻る瞬間だけ白い膜のようなモノが見えるが、いつもの事なので気にはならない。
ゲートの先は地球にある『アセンスティラ大使館』、さっきまで居たのがアセンスティラ第3ダンジョン都市ラートランドにある『アース大使館』。
僕はアセンスティラ大使館にある。武器のメンテナンスが出来る場所、メンテ部屋に向かう事にした。この場所はメンテ用の油も購入出来るので、冒険者はだいたいココを使う。
油はまだ残っているので今回は購入しなくて大丈夫そうだ。メンテ部屋は2階にある。
メンテ部屋の隣は飲食店が並んでいるので、飯テロがヤバいが、今日は犬が居るので、寄る気は無い。
メンテ部屋に入る際にクールセンター横にあった、赤いセンサーやら何やらの装置を通るようになる、入る時も出る時も同じだ。
中にはぼちぼち人が居た、冒険者の活動時間は個々で決めるので、どの時間でもだいたい人が居る。
武器や魔物の血が付いた物などは、決められた場所でしか取り出す事が出来ない、もし、その場所以外で出して見つかれば、高額な罰金、数度繰り返せば冒険者証の剥奪をくらってしまう。
プッシュナイフを取り出す。血の付いたキッチンペーパーとタオルを隣に設置された専用のゴミ捨て場に捨てる。
使い捨てのゴム手袋を取り出し付ける。専用のシンナーで表面を拭いてからメンテ用の油を塗る。
「さて、名前は何にしようかな?」
ぴょんとフードから飛び出し、僕の横に座るムッツリ犬。
「ムッツ?ムツ、ムッツーリ、こらこら、脚を噛むな」
ムッツリ犬だから似合ってると思うんだけどな。じゃあ見た目から?
「まんじゅう、わたがし、干からびたう◯ち、こらこら、本気で噛むなって!」
ネーミングセンスが無さ過ぎて噛み付いてきてるようだ。僕が空飛だから、僕にちなんで……
「スカイとか?」
イヤダメだ、ネームがカッコよ過ぎてネーム負けしてるように思える。
「何この子!可愛い!!」
横を通った女性冒険者が声を上げる。
「白いポメ!」
ポメラニアンにしかやっぱ見え無いよな、って、めっちゃ尻尾を振って甘えてる。
「あははは、そんな処を舐めないのぉ、くすぐったいってぇ」
クソ、羨ましいな。胸元の空いた服の隙間に顔を突っ込み舐めている。やっぱムッツリ犬で良い気がしてきた。
しばらくムッツリ犬と遊んだ女冒険者は「また遊ぼうね」と言いながら去って行った。
「お前の名前はポメな」
は?的な顔をされたが、他に思い付かない、ムッツーリとどちらが良い?と聞くと、泣く泣くポメでオッケーが出た。




