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何とか1階まで帰ってこれた。
「何故来たんだ!君まで犠牲になったらどうするんだ!!」
思った通りに怒鳴られた。『冒険者ならまず自分を大切にしろ、次に仲間の命を大切にしろ』と新人研修で言われたな。と思いだす。
「心配で、行くべきでは無い事は承知の上でした」
「では何故!今回は助かったから良かった、だが、君も犠牲になってたかも知れないのだぞ」
最悪全滅だってありえる。そうならない為に、冒険者の在り方を、そして、僕の事を思って言葉にしてくれているのは分かる。でも僕は。
「それでも、あなたを助けたかったんです」
「っ!!」
会って数日、されど数日、でも、知り合った以上は。
「皆を助けるのは無理だと分かってます。でも、僕が、僕で助けれる可能性があるのなら」
ほんのひと握りしか助けれない状況になるかも知れない、絶望的な状況になるかも知れない。それでも。
「僕は助けに行きたいんです!」
「わふ!」
そうだな、今はポメも同じ気持ちなんだな。ポメも僕の隣で氷華さんを見上げ吠えた。
「……………そうか」
俯き、眼を瞑り、最後に一言だけ言葉を残した。
僕は冒険者としては失格だな。
僕は収納から大きなテントを出す。
その場でお湯が沸かせる魔道具のケトルと、水、タオルなどを準備、それらを持ち、中に女性3人が入っていった。
助け出した女性は身体だけじゃなく、精神的にも弱っていた。オークの群れから襲われたのだ、冷静になればなる程思い出してしまうだろう、今日はとにかく休ませたいと言っていた。
その間僕は、結界の外に出てギルドから支給された『信号ボール』を打ち上げる事にした。
信号ボールは信号弾のボールの形したタイプで、その場に置くと上空に打ち上げられる。
遠く離れた場所に視覚的に救難信号であったり、合図だったりを送る事ができる。
今回打ち上げるのは、僕達の他に救援に向かったパーティーに知らせる為、黄色く光りしばらく浮き続ける。
もちろん魔物とかが居れば危険になったりする場合もあるが、ここでなら問題無いだろうとの判断だ。
信号ボールを打ち上げ数分後、2つの信号ボールが上がった。
1つは凄く遠い、まったく別方向からだ。そして、もう1つは結構近かった。
1階入り口まで見えるか分からないけど、最低でも僕達の救援パーティーの他、2パーティーが救援に出てくれている。
「てめぇ!魔物が来たらどうすんだ!?ああ?」
片腕の男がほざいていたが、何かもう可哀想な気がしてきた。溜息が出そうなのをぐっと堪え、面倒なので無視してご飯を食べる事にした。
「ポメ、今日はありがとうな」
「わふ」
いつものちょっと間の抜けた吠え方で返答してくれる。
「ステーキとチーズハンバーグどっちが良いか?」
わふわふ!と両脚を地面にテシっと叩く。どっちだそれ?
「ステーキか?」
首を振る。
「チーズハンバーグ?」
首を振り「わふ!」と両脚を再度テシっと叩く。
「ふ、2つか!?」
「わふ!!」
正解!と言わんばかりの顔だ、早よクレと地面をテシテシ叩く。そうだった、こいつの胃袋は異次元ポケットだったな。
ステーキとチーズハンバーグを出してやると嬉々としてガブついた。
亡くなった3人は残念だと思う。しかし、僕達は冒険者なのだ、それは新人でもベテランでも変わりは無い。危険と隣合わせの職業。
それが嫌なら引退するしかない、何やかんやで冒険者は、冒険が好きな、根っからの冒険者なんだよな。
ショートソードや3連式ボウガンのメンテを進めていると氷華さんがやってきた。
「さっきは怒鳴って悪かった」
「いえ、氷華さんは正しい事を言ってくれました、ただ僕の我儘を通しただけなので」
苦笑してしまった。僕の我儘だよな本当に、冒険者たるものって理解は出来ても、納得は出来ない、だから行動に出してしまった。
「ところで、助けた女性はどうですか?」
「今眠ったところだ、精神的にかなり参っているようだがな、しばらくは……」
「わふ!」
急に黙り込んだ氷華さんは、腰に付けたポーチから槍を取り出した。
ポメも入り口を見る。
「結界張られてるからここだねぇ」
声が聞こえてくる。その声に僕もポメも聞き覚えがあった。
しばらくして、入り口に人影が映り込む。
「わふ」
その人影にポメは飛び込んだ。
「うわっとっと!あっれーポメちゃんじゃん」
姿を表せたのは、ポメと出会って3日間連続で会った元気でちょっと目のやり場に困る女性冒険者と、そのパーティーメンバーだった。
「知り合いですか?」
「以前、ポメを可愛がってくれた方です」
「そうか」
氷華さんは警戒をしつつも槍をポーチに戻した。冒険者同士は仲間意識が高いが、同時に危険な相手でもある。
冒険者はスキルを持っている、スキルは強力であるのは間違いではない、もしそれが人に向けられれば……
何かあっても、ダンジョン内での犯罪は摘発するのが難しい、冒険者同士の揉め事は無いとは言いきれない、故に信用に値するまでは警戒はあって損はない。
「おい、新人はこいつらか?7人居ると聞いたが?」
「それは」
ポメをモフるのに夢中な女性冒険者の隣に立って居た男性の冒険者が言葉にした。
僕は説明をする。2階におりてオークに囲まれて居た事、助けた時には3人は既に事切れていたこと、オークが繁殖期に入っていた事など。
「そうか、運が良かったなこいつら、普通なら助かってねえぞ、氷華様が居たのも奇跡だ」
「様?」
運が良かった、それは冒険者としての率直な意見だろう。てか今、男性冒険者は氷華さんに様を付けたよな?
「ふぁ!?氷華様が居るのぉ!」
ポメを撫で回していた女性冒険者も反応をしめす。
「ふぁーーーーーーー!!!!」
氷華さんをみるなり吠えた。んで固まった。ポメがぽとりと地面に落ちる。
「どうした?」
「さぁ?」
「わふ」
氷華さんは首を傾げ、ポメは不満気だ、僕も心配になり声を掛けてみる事にする。
「大丈夫?」
「ふぁーーー!ふぁーーーー!!」
ふぁーふぁーと言葉を連呼するだけだ。
「すまんな、こいつは氷華様の大ファンでな」
隣の男性冒険者が説明してくれる。憧れの人が目の前に居て、頭がショートしてしまったのだろう。
「マリン、戻ってこい」
マリンと呼ばれた女性冒険者の肩を持ち揺さぶる。
「はっ!?あたしの目の前に氷華様が居た気がしたのぉ」
「実際居るんだよ」
「ふぁーーー!!ふぁーーーー!!」
「だめだこりゃ」
一瞬正気に戻ったが、すぐにふぁーふぁーマシンに戻る。しばらく放置する事に決め、マリンさん以外にコーヒーを出し、話しを再開する事にした。
今回、僕達の他に救援に向かったパーティーは3組、僕が上げた信号ボールで他の2組は帰ったと思われる。
マリンさんのパーティーは近くまで来ていたので、こっちに来たと説明してくれた。
「俺達より先に向かったパーティーが居るとは聞いて居たが、氷華様が居るとは思わなかった……このコーヒー美味いな」
コーヒーは豆を焙煎してもらいすぐに収納したもので、ちょっと良いものを提供した。
氷華さんはコーヒーにミルクを大量に入れ、コーヒーよりミルクのが多い、コーヒーってよりコーヒー風味のするミルクだなこれは。
そして、またギャーギャー騒いだ片腕の男を目の前に座る男性冒険者がワンパンで黙らせたのは触れないようだ。
「ここから帰るのに男性2人は引き受けよう、こっからだと1日近くかかるからな、分担したのが気が楽になるだろう」
「ああ、助かる」
氷華さんは素直に感謝を述べる。
片腕の男の取り扱いに困っていたから、ワンパンで黙らせてくれる男性冒険者が頼もしく見えた。
その後、ご飯も提供して収納にビックリされるも、氷華さんは時間停止の事は言わず、さっき作って仕舞ったと説明した。内緒にしたのが良いと言っていたな。
マリンさんは、ご飯の席でやっとふぁーふぁーマシンから通常運転に戻り、ずっと氷華さんの隣りで喋りかけていた。氷華さんは少し困り顔になっていた。
ところでポメさんや、また肉ですか?
ちなみに、このパーティー全員が氷華さんを様呼びしていた、様以外付けるとマリンさんが怒り、ダンジョン探索に支障をきたすのだとか。




