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 2時間経っても氷華さんは戻って来ていない。 

 僕は心配で2階へに続く階段の前で、行ったり来たりしてしまっている。 


 いい加減疲れたのか、片腕の男も座り込みブツブツと言葉を発しているだけになった。


「あの、助けていただきありがとうございます」


 ずっと顔色が悪かった女性が話しかけてきた。顔色は戻っている、魔力が少しは回復したのだろう。

 魔力は魔素を体内に取り入れると魔力になる。魔力は生き物であれば誰でも持っていて、魔法だけではなく、活動する為のエネルギーにも変えられる。スキルを使う際も魔力を使う。

 魔力が減れば、憂鬱感が増したり、集中力が無くなったりと、身体に何かと影響を及ぼす。最悪死に至る為、冒険者なら魔力回復薬は誰しも1本は持ち歩いているものだ。

 この女性も持っていた筈なので、全部使いきったに違いない。


「君達だけでも無事で良かったよ」

「無事じゃねーだろ!!俺様の腕を見ろ!どうしてくれんだ」

「あなたは黙ってて!」


 やっと静かになったと思ったのに、片腕の男が突っかかってくるも、女性が言い返していた。


「元を正せばあなたが悪いのに」


 小声で呟いた言葉は僕に届いた。あの男が何か言ったのか、何かしたのか分からないが、今に至る原因を作ったのだろう。


「もし心配でしたら2階に行ってください、オークには効きませんでしたが、結界石を持ってきてます。ゴブリン、コボルトなら効果ありますから」


 結界石はその場に結界を張る魔道具で、石と名前は付いているが、実際には魔力を元に作られた道具の一種、錬金術とは別の分類になっている。


「それなら……」


 お願いと言いかけた。しかし、新人達を置いて助けに行って良いものか、氷華さんの事が心配なのは確かだ、しかし、このまま置いても行けない。


「入り口に結界を張れば、この建物の中は安全になります、ですから行ってあげて下さい」


 僕が悩んでいるのを見てか、後押しをしてくれた。


「分かった、行ってくるよ」

「ああ?」

「うるさい!うるさい!!あんたは黙って!」

「アバズレ!さっきからてめぇは!」


 この女性の中で片腕の男は、もう見たくもない存在になったのだろう、視線さえ送る事なく冷たく言葉を言い放つ。


「食べものと魔力回復薬を置いていくよ、食べてくれ」


 食べものと、魔力回復薬をその場にだす。外はまだ明るいが、若干日が傾き始めている。ランタンと寝袋も取り出しておいた。

 僕の収納に驚きながらも感謝を告げてくる。


 女性が部屋の入り口に結界石を設置したのを見て、僕は階段を下りた。



 森林の中は木々でより暗くなり始めていた。まだ見えはするが、真っ暗になるのは時間の問題だろう。もっと早く2階に下りる決断をするべきだった。

 今は後悔しても仕方がない、少しでも急ごう。


『グワァ!!!』『ギン!!!』『ワオーー!!』


 入り口から出るや、戦闘音や吠える声が聞こえてくる。あっちか、まだ距離はありそうだ。とにかく急がないと!収納から移動手段を取り出した。





『氷華視点』


「くっ!」


 斬っても斬ってもオークが向かってくる。


 ラート第1ダンジョンは4階層までしか攻略されていない。理由の1つは転移が使えない事、もう一つの理由は、どの階も次の階段までが遠く、4階層がまったく旨味の無い土の荒野だと言う理由で、2階にさえ余り人が来ないダンジョンになってしまっている。故に2階以降はその階に居る、メインの魔物が蔓延っている。


「しっかりしろ」


 助けだした女性の肩を持ち、少しづつ歩む。疲労回復薬や魔力回復薬を飲ませたが、疲労が過度を越えた事で余り効果が無い、肩を貸してようやく歩ける状態になるまでに結構な時間がかかってしまった。


「ガウっ!!!」


 ポメ君が襲ってくるオークの腕を噛み、脚を噛み、私のアシストをしてくれる。それによりオークを倒し易くしてくれている。

 最初こそオークを1撃で倒していた、それが2撃になり、3撃となる。私も疲労が蓄積されているのが分かる。集中力が落ちないように魔力回復薬も飲む。

 槍が1本ダメになった。オークの血で斬れ味が悪くなり、無理に振り続けていたら、先端が折れた。

 折れた槍はその場で捨て、もう1本持ってきていた槍を取り出す。槍は2本しか持ってきていない、これが使えなくなれば終わりだ。

 こうなる事が分かっていれば、愛武器まなぶき『ブリュンヒルデ』を持ってくるべきだった。後悔先に立たずとは良く言ったものだ。


「ガウガウ!!」


 ポメ君が何か訴えてくる。私を励ましてくれているのか?ほんとこの子は賢くて勇敢だ。私の行動の先を読み、動いてくれている。


「しまった!」


 オークの首で槍が止まってしまった。引き手のチカラが思いの外無くなっている。

 私を捕まえようとオークの手が迫る、生け捕る為に武器は使ってこない。ポメ君が腕を噛み手を阻むが、違うオークが槍を持つ手を握る。


 チカラでは勝てない、引っ張られ飛ばされてしまう。


「くっ!ここまでか!ポメ君、君だけでも逃げてくれ!」


 ゴロゴロと地面に転がった。オークが私に覆い被さろうとしてくる。


『バシュ!バシュ!バシュ!』


 オークの頭に矢?これは、ボウガンのボルトか。


『ドゴン』大きな音が響く。オークが向かって来ていたスペースに岩が生えた?木と木の隙間に丁度良い感じに収まっている。この岩は転移石の上にあったものだ。


「目を瞑って下さい!!」


 その声が誰の者かすぐに分かった。指示通り眼を瞑る。瞼の奥が光を発した。これは閃光弾。


「氷華さん助けに来ました」

「ソラト君何故!?」


 君には1階で待ってもらっていた、来るべきでは無い筈だ。


「心配だからに決まってます、それより早く立って下さい」

「ああ」


 閃光弾は一時的なものだ、急いでオークの首に刺さった槍を抜き、岩よりこちら側に居るオークを斬る。

 岩で阻まれているが、回り込めば向こう側のオークは来れる。早く距離を取らなければ!


「氷華さん手伝って下さい」


 ソラト君を見ればオフロードバイクに跨り、後ろに助けた女性を乗せていた。紐を取り出し私に渡してくる。

 紐を受け取り、とにかくグルグルとソラト君と女性を落ちないように巻き付けた。


「行きます!」


 頷いた。これなら逃げきれる。私はソラト君の運転するオフロードバイクの後ろを追尾した。




《ソラト視点》


 収納からオフロードバイクを取り出しエンジンをかける。戦闘音や吠える声がする場所に走らせた。

 たまにオフロードバイクで遊んでいた甲斐があって、多少の凸凹道は問題ない。後ろではしゃいで揺らす人も居ない。


「見つけた!」


 オークに囲まれようとしている氷華さんの姿だった。槍を振りオークを撃退していってるも数が多い、今は5体居る、さらに向こう側から向かって来るオークの姿も見える。


「あっ!」


 槍が首で止まってしまった。首に刺さったオークは絶命しているが、他のオークが迫る。手を取られ、転がされた。


 この距離なら外さず撃てる。


 3連式ボウガンを取り出した。オークの身体は大きい、それに比例して頭も大きい、3発打てば最低1発は当たる計算だ。氷華さんは地面に転がっているから当たる事はない。


 狙いを定める『バシュ!バシュ!バシュ!』2発頭に命中した。


 頭にボルトが刺さったオークはそのまま倒れた。他のオークがこっちを見た。

 木と木の隙間に転移石の時に収納した岩を取り出して置く、よい感じに挟まり進路を妨害出来ている。

 これで向かってきているオークと分断ができた、少しは時間稼ぎになる筈だ。

 急いで閃光弾を取り出した。こっち側のオークの無力化を計る。


「眼を瞑って下さい!!」


 閃光弾のピンを抜き投げる。ピカリと眩しい光が辺りを包む。オークは見事に目がやられ、無力化成功!

 氷華さんの近くにたどり着いた。ポメも閃光弾にやられていた「わふわふ」言っている。すまん。


「氷華さん助けに来ました」

「ソラト君何故!?」


 その顔は何故来たと言ってるようだった。僕は戦うスキルも無いし、逆に足手纏いになってしまうかも知れない、それでも来られずにはいられなかった。

 

「心配だからに決まってます、それより早く立って下さい」

「ああ」


 早くこの場を離脱しなくては。愚痴なら後で幾らでも聞きます。

 ポメを回収、フードにインさせる。横たわった女性を背中に背負い、バイクに跨る。紐を取り出すも上手く巻き付けられない。


「氷華さん手伝って下さい」


 紐を受け取り、背負った女性と僕を巻き付けてくる、とにかくグルグルと。落ちないに越した事が無いので、これで問題ない。

 

「行きます」


 氷華さんの頷きを確認。僕はオフロードバイクのスロットルを回す。いざ!離脱!







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