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「うふ、うふふふふ、うふふふふふふ、楽しい!!」
氷華さんが壊れた。
草原と言ってもデコボコ道には変わりない。オフロードバイクで進むが揺れはする。結構大きなデコボコだとお尻が浮いてしまう。それが楽しいらしい。
時速は30キロほど、歩くより速いが、公道などと比べればかなり遅い。2人乗りしているのでかなり神経を使う。
「うふふふふふ、ふふふふふ」
楽しいようだ。バイクの後ろではしゃぐので揺れる。胸がどうとか言う暇が無い程、めっちゃ運転に集中した。
「つ、つかれた……」
「済まない運転させてしまって、私は乗り物は運転出来ないが、乗るのは好きなんだ」
しばらく運転した後、ダンジョン入り口にあった丸いサークルの人工物がある場所で休憩する事にした。
氷華さんは免許を持って無いようだ、車の免許を取りに行った事もあるそうだが、免許センターから出禁をくらったらしい。いったい何をしたんだ?
「前から思っていたのですが、このサークルは何なんですかね?」
「これは転移ポータルと呼ばれている」
「えっ!?転移?じゃあ、ここまで転移できたんじゃ?」
転移ポータルの名前は知っていた、まさかダンジョン入り口にあったのがそうだと知らず、いつか転移してみたいなぁ〜と思っていた。
氷華さんは数多くのダンジョンに潜っている。だからこそ転移ポータルは見てすぐに分かったに違いない。
氷華さん程の実力者なら、初心者ダンジョンで転移を使う筈だ、他のダンジョンだってそうしてるに違いない。だから疑問に思った。
「転移ポータルは転移石を持って始めて使える、その転移石は各ダンジョンで違う、現在、ラート第1ダンジョンの転移石は1つも見つかっていないのだ」
転移するには転移石と言う物が必要で、初心者ダンジョンの転移石は持って無い、だから転移を使わなかったと。
転移ポータルの存在しか知らなかった僕は、転移石なるものも勿論知る訳が無く、どうやって手に入れるかも分からない。
「ん?どしたポメ」
地面をテシテシと叩いた、僕がそれに気が付くと後ろを向く。
「着いて来いと言ってるようだな」
「そうみたいですね」
転移ポータルから少し離れ、大きな岩があった、その前に来た。今度は岩をテシテシと叩く。
「この岩がどうした?」
どう見ても普通の岩にしか見えない。何かあるんだろうか?ポメは気配を感じとる事が出来る、だからと裏に冒険者も魔物も居なかった。
「何も無いじゃないか」
テシテシテシテシテシテシ、凄く何かを訴えている。何なんだ??
「ポメ君、下かい?」
氷華さんが言葉にすると、ポメは「わふ!」と吠えた。下に何かあると言う事か?でも、どうやって動かすんだ?
「こんな大きな岩、僕と氷華さんと一緒に押しても動きそうに無いですよ」
「うふふふふ、初めての共同作業」
楽しそうに笑う。しかし、声が小さかったので後半は聞き取れなかった。
「ソラト君、君の収納に入らないか?」
「どうでしょう、こんな大きな岩、入れた事無いですね」
試しに収納すると『シュ!』と消えた。
「入ったな」
「入りましたね」
大きさは余り関係無いと思ってたけど、本当に入るとは思ってもいなかった。
「扉かな?」
何かがそこにあった。木の板が履いてあって、窪みも見える、風化がかなり進み、ボロボロになっているが厚みがあるので穴が開いていたりはしていない。
「おそらく長く放置された地下か何かのようだ、有毒ガスが充満してるかもしれん、このまま開けるのは危険だ」
さすが氷華さん、何も言われ無かったらそのまま開けていた。これが経験の差か。
「テッテレー!有毒マスクぅ〜!」
効果音を付け、有毒マスクとゴーグルを2セット取り出してみた。
「君は準備が良いな」
とりあえず何でもかんでも役に立ちそうなのは買ってしまうたちなんです。ハイ!しかも複数個。
「何があるか分かりませんからね」
マスクとゴーグルを装着、「シュコーシュコー」氷華さんがマスクを付けて遊んでる?
厚手の手袋をはめて、木の板にある窪みに手を入れ開けようとチカラを入れた。ボロボロと崩れ落ちた。
中に階段は無かったが、ちょっとした穴、中にはポツンと置かれてあったのは、小さな箱。
「何ですかねコレ」
「まて!」
と言われた時には持ち上げていた。
「…………」
ん?
「箱や宝箱は罠が仕掛けられてる場合がある、持ち上げて爆発もありえるからな、次からは気をつけてくれ」
「は、はい、すみません」
何も無くて良かったって事だよな。ちょっと強めに言われてしまった。これも経験の差なんだろう。僕は警戒心が氷華さんや他の冒険者さんより無いのかも知れない。
「この箱もそれなりに風化が進んでるようだ、開けて問題無いだろう」
許可を得たので、開ける。
「四角い板?」
携帯ぐらいのサイズで表面がツルツルした石?近いのは大理石だろうか。
「こ、これは!転移石!!」
「へ?」
「凄いぞポメ君!お手柄だ!これは初のラート第1ダンジョンの転移石だ」
『初』、その言葉に『ドキリ』と心が跳ね上がり、ジーンと感動が湧く。
ワシャワシャとポメを撫でまわす氷華さんを横目に、ああ、これが冒険者の醍醐味なんだな。と、思ってしまった。
お金稼ぎの為もあるが、僕はただ単にダンジョンが好きだった。ダンジョンの中は自由になれる気がした。
転移石を見る。僕は気が付いてしまう。新たな気持ちを……
ダンジョンを『攻略』してみたいと。
「ポメ、ありがとうな」
「わふ!」
ポメのドヤ顔が誇らしい。
「ポメ君は気配察知だけでは無く、地形などの違和感も感じとれる、斥候のような事が出来るんだな」
「普段はエロ犬だけどな」
「ガフ!!」
ポメが噛み付いてくる。いたたた、ゴメンゴメン。
「うふふふ、エロ犬にエロ飼い主」
「はい?」「わふ?」
ポメとケンカしてて聞き取れなかった。今日の氷華さんはずっと笑ってるよな、美人なのに笑顔がとても可愛いらしく見える。
「転移石をサークルに近づけてみて」
「はい」
転移ポータルに戻って来た。さっそくここの転移先の登録を行う事にした。
転移石を近づける、1メートルを切ったぐらいで反応があった。白く光り、左上にA2と文字が浮かび上がる、文字の隣は2文字程のスペースが空いている。ダンジョン入り口を登録したら埋まるのかも知れないな。
「サークル内で、文字に指を置き、転移と唱えればその場所に向かう事が出来る、まだこの場所しか登録されていないから使えないが、ほかの場所も登録していくと便利だ」
これで転移する仕組みが分かった。だから色々と聞いてみる事にした。
この転移石が登録した場所であれば、誰が持っても行ける。中には、登録した本人しか行けない転移石もあるそうだが、だいたいの石は誰でも使えると。
転移人数は転移ポータルによるらしい、だいたい数人は行けるようで、転移する際は転移石を持った者に触れる必要がある。
転移に必要なのは転移ポータルの魔力、何度か使うと切れてしまい、魔力が補充されるまで使えない。使用者の魔力を使う事も可能、しかし、魔力がごっそり持っていかれるので推奨はしないそうだ。
形について、携帯のような四角い片手で持てるタイプが一般的で、中にはピラミッド型や、丸い型もあるとの事、ピラミッド型は取り扱いに注意が必要と説明される。
「氷華さんどうぞ」
氷華さんが居たからここまで来れた、僕1人だと、岩山の難所までしか行った事が無かったからね。だから、転移石は氷華さんに相応しいと思い手渡そうとした。
「うむ、それも含め、帰ってから話しをするとしよう、それまで持っていてくれるか」
「はい」
パーティーを組んでる際に得たものは分配する。今回の転移石は分配出来ない、売ったお金で分配は出来るが、今回は貴重品、レア中のレアな物、超レアだ、だから、僕は氷華さんが持つに相応しいと思った。
「では行きますか」
オフロードバイクを取り出す。
「では頼む」
後ろに乗る氷華さん、もう既にウキウキしている。
バイクのスロットルを回す、2階に下りる階段に向けて走らせた。氷華さんの笑い声が聞こえ始める。とても楽しそうだ。
まだ新人冒険者は見つかって居ない。確かに心配だが、命を大切にするのも冒険者だ、冒険者になる前から口が酸っぱくなるほど『命は粗末にするな』『慎重に行動しろ』と教わる。
あの男は生意気だが、愚かでは無いと疑っていなかった。だからこそこの時はまだ、そこまで深刻な状況だとは思いもしなかった。




