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01

 僕は『蒼井あおい 空飛そらと』ソラトの名で冒険者をやっています。


「ソラト様〜」


 名前が呼ばれる。


「は!はい!」


 買取カウンターと書かれた場所に進み、名前を呼んだ笑顔の可愛い受付嬢の前に立った。


「薬草と麻痺草、ゴブリン3体で合計950マネになります」

「ありがとうございます」


 日本円にして1マネは10円、今日の稼ぎは9500円って事になる。

 

「いつものようにギルドカードにお願いします」

「かしこまりました」


 僕は買取カウンターを離れ、『アースゲート』と書かれた通路に向かった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 今から約300年前、僕達が住む地球と、『世界の扉』と呼ばれるゲートで異世界に繋がった。


 繋がった異世界の名前は『アセンスティラ』


 その異世界には色々な種族が存在した、『人族』『エルフ』『ドワーフ』『獣人』『妖精』『精霊』など、そして、アセンスティラの先人民族の種族名は『スティラ』見た目は僕ら人族に似ているが、どこかしら僕らと違う特徴を持っている、例えば瞳が赤かったり、牙が少し生えていたりと、パッと見だと分からないのがスティラ人。


 スティラ人を除く、全ての種族は別の世界から来た者達だ。


 ずっとずっと昔、まだ異世界と繋がるずっと前の話し、アセンスティラは小説や漫画でファンタジーとして描かれた物語に似た世界だと、当時の人達は漏らしたと言う。

 だからだろうか?種族名や魔物の名前など、あらゆるモノが地球由来で付け変えられたそうだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 僕はそのアセンスティラ、第三ダンジョン都市『ラートランド』で活動している冒険者。今日もひと仕事を終え、地球に帰宅した。家ではいつものように過ごし、眠った。



 翌日、いつものように地球からラートランドに行き、同じダンジョンに潜る。


 第三ダンジョン都市ラートランドは新人ルーキーが多い、僕は冒険者になって5年になるけれど、初心者ダンジョンと呼ばれる、ラート第1ダンジョンをホームとしている。


 アセンスティラの冒険者になると、無料でスキル開花を行ってくれる。戦闘面に特化したスキルや、生産に向いたスキルなど、色々なスキルが存在する。

 スキルに目覚めれば、昨日まで剣を握った事が無い者でも、剣を振れるようになる。

 スキルにはランクがある。最低ランクがF、それから上がっていき、Aの次はS、SS、SSSとなっている。


 僕の開花したスキルは『収納』、スキルランクはSSS(トリプルエス)


 ランクだけは無駄に高いが、今では過去1残念スキルと言われている。評価の基準はそのスキルが世に出た時点のもので、100年前まではSSSだった。今では『アイテム袋』が普及して、僕のスキル価値がほぼほぼ無くなった。

 アイテム袋やアイテムボックスは、収納する容量によって値段がピンキリではあるけれど、剣や水などをしまえる程度の物であれば、数万マネで買えてしまう。


 僕がソロでいまだに初心者ダンジョンをホームにしている理由は、そこにあった。


 パーティーを組もうにも、稼ぎは分配になる。戦闘スキルや支援スキルで無い者はパーティー内でお荷物になる。

 僕が唯一必要とされるのは新人ぐらいで、アイテム袋が買えるまでの期間ぐらいなものだ。その期間も人によっては2、3日もかからずに買えてしまう。だから僕は、安全第一で初心者ダンジョンをソロで活動を行っているのだ。


 あっ!ゴブリンだ!


 背の高さは1メートルから1.5メートル程で、緑色の肌、少し尖った耳、無駄に伸びた鼻と醜い見た目が特徴だ。知能は低く、雄しか存在しない。

 戦闘能力は低く、手に持つ武器を振り回すだけ、しかも正面から真っ直ぐに向かってくるだけだから、1匹2匹なら、僕でも余裕な魔物。


『ゴブリンを見かけたら30匹は居ると思え!』


 新人教育で習う事だが、今居るダンジョンには当てはまら無い。このダンジョンは『新人育成用』としても使われているので、そこそこ力の付けた新人冒険者が美味い依頼として受けるのが、ラート第1ダンジョンの『2階層までの魔物討伐依頼』。戦闘に慣れさせ、依頼の仕組みを覚えさせる意味もあるので、冒険者ギルドも良い値で依頼を出してくれる、新人冒険者には人気の依頼となっている。


 まあ、それでも、ソロの僕からしたら危険な任務なので、受けさせてくれない。最低パーティー数は5人からと決まってるしね。(臨時パーティー可能)


 ゴブリンの手には木の枝、たまたま拾ったのかな?少し太い木の枝だった。あの枝を振り回して突進してきても恐怖を感じ無い。

 まあ、新人の頃は魔物を倒すのに抵抗はあった、けれど、冒険者は魔物を倒してなんぼの職業、手が震えて倒した記憶がある。


「ゴブリンを倒しても微妙なんだよな」


 1匹あたり50マネ、日本円にして500円の魔物。だからってスルーも出来ない。後1ヶ月もすれば、ゴブリンの繁殖期になる。

 その時期だけはゴブリンも少し凶暴になってしまう。雌であれば何にでも交尾しようとする、それは勿論、人間も例外では無いので、女性冒険者の危険度が上がるのだ。

 500円でも貰えるものは貰っておこう。そう思う事にした。


 『収納』から3連式クロスボウガンを取り出す。


 ゴブリンは、川辺で変な踊りを踊っている。魚でも獲れたのだろうか?ゴブリンの生態は繁殖力の強い、醜い魔物と認識されているが、たまに訳の分からない行動を見かける。

 ダンジョン内であっても川があるし、草や岩山があったり、ラート第1ダンジョンの1層のように空があるように見えたりする。ダンジョンの七不思議の1つだけど、いまだにその謎は解明されていない、亜空間説が1番の有力候補だけど、って話しがそれちゃった。


 狙いを定める。ボウガンのボルトを無駄にしたく無いので、全て当てて回収出来るようにしなくてはいけない。ボルト1本がゴブリンより高いのだ。


 バシュッ!!バシュッ!!バシュッ!!


 連続で3本の矢を放つ。


「アギャャャ!!!!」


 左肩と背中に2本命中、その場でのたうち回るゴブリン。急所では無かったけれど、今なら簡単にトドメを刺せる。

 『収納』にボウガンを入れ、手で握るタイプのナイフ、プッシュナイフを取り出す。

 木の枝を痛みから落とし、地面を転がるゴブリンに近寄り、首にプッシュナイフを刺す。


 ビクビクと数回痙攣を起こし、動かなくなった。ゴブリンはこのまま放置する。

 ダンジョンで魔物を倒すと数時間後には死体が消える。もちろん素材として持ち帰れば消える事は無い、どういった仕組みなのか詳しく分からないが、それがダンジョンなのだ。

 ゴブリンの肩を持ち横にする、そのままナイフを抜くと返り血が飛ぶ恐れがあるのでタオルで被せ、刺さった部分をなるべく下に向ける。

 ナイフを抜くと血がプシュっと溢れ出たが、掛かる事は無かった。しばらくしてタオルを取り『収納』する。

 ナイフをキッチンペーパーで拭き、布で拭ってからこちらも『収納』した。


「グルルル!!!」

「ん?」


 そこには犬が居た、真っ白な………ポメラニアン?見た目はポメラニアンだ、でも、ダンジョンにポメラニアンは変だよね、なら魔物?こんな魔物見た事が無い。見た目はポメラニアンの魔物なのか??でも、真っ白で、ふさふさで、凄く可愛い!


「大丈夫だよ」


 僕は両手を上げ、ゆっくりと近付く。


 べ、別に見た目が可愛いくて、モフりたいなんて思ってない!

 ゆっくりゆっくり手を伸ばし、頭を撫で……


 ガブっ!手を噛まれた。


「いたぁひぃぃ、うう……大丈夫だからね、離して……」


 と言いつつも、頭を撫でてしまう。


「はぎゃ!!」


 噛んだまま首をふるふるしないで!!僕の手は食べ物じゃ無いんだ!!こうなったら、餌で釣って離して貰う。

 『収納』に塩胡椒だけで焼いた肉を入れてある、僕の収納スキルは任意で時間を止めたり出来るので、料理の作り立てを出せるのだ。


 ポメラニアン?の動きが止まった。


 めっちゃ肉を見ている。肉を左右に動かせば僕の手を咥えたまま動く、うん、痛いから離してほしいな。

 

「ほら、肉あげるからさ、離して」


 言葉が通じたのか分からないけれど、咥えた手を離してくれた。

 早くくれよ!と言わんばかりに睨んでくるポメラニアン?に、肉を渡すとすげー勢いでカブリついた。


「さっきのゴブリンは、獲物こいつを見つけて踊ってたのか?可能性はあるな、まあいいや、今なら頭を撫でても大丈夫だよね、餌を与えて敵では無いと示したし」


「グルルル!!!」


 ダメなようだ……


「ほら、肉を更にあげるからさ、撫でて良い?良いよね?」


 すっごい嫌な顔をされた気がしたが、しぶしぶ頭を出してきた。こいつ言葉が分かってるのかな?

 頭を撫で始めると睨みをきかせてくる。早く肉を渡せって?そんな感じだ。

 肉を2つ取り出すと、めっちゃ眼を輝かせ飛びついた。頭を撫でても気にしない程。現金なやつめ。


 さてどうしたものか、こいつをこのまま放置して帰るのは忍びない。


「一緒にくるか?」

「わふ」


 返事をしてくれた。やっぱこいつ、言葉わかってるよな?

 

 

 



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