山の砦の絆
夜明けの冷たい風が、山岳地帯の岩肌を撫でていた。葉月と八重、ミリア、カイルとともに、険しい山道を登り、ドワーフ族の村「グリムストーン」にたどり着いた。村は切り立った崖に囲まれ、石造りの砦がそびえる。灰色の岩壁に囲まれた集落は、まるで要塞のようだ。煙突から立ち上る煙と、鍛冶の鎚音が響く。村人たちは頑丈な体格で、髭をたくわえたドワーフたち。葉月は「叡智の書」を握りしめ、3個目の試練の情報を確認する。
『山の砦:ドワーフの村をモンスターの襲撃から守れ。絆の鍵を得よ。』
八重が足元の岩を蹴りながら呟く。
「なんか、めっちゃゴツい村だね……。本で読んだドワーフの集落みたい。」
彼女の足の傷は癒えたが、動きはまだ慎重だ。闇の勢力の襲撃の記憶が、姉妹の心に影を落とす。
カイルが剣を肩に担ぎ、陽気に言う。
「よお、グリムストーンだ! ドワーフの酒は最高だぜ。試練クリアしたら、飲もうな!」
ミリアが微笑む。
「カイル、呑気すぎるよ。試練はモンスターの襲撃を防ぐこと。準備しないと。」
村の長老、髭が白いドワーフのバルグリムが一行を迎える。
「来訪者よ、よく来た。モンスターの大群が迫っている。村を守ってくれれば、女神の鍵を授けよう。」
彼の声は低く、岩のように重い。
葉月は緊張で喉が詰まる。
『村人との連携が必要? コミュ障の私に、そんなの無理……。』
八重も長老の視線に縮こまる。
「あの、モンスターって、どんなの?」
かろうじて声を出す。
バルグリムが説明する。
「ゴブリンとオークの混成軍だ。夜に襲ってくる。砦の防壁を強化し、罠を仕掛けろ。」
葉月は叡智の書を開く。
『ゴブリンは素早く、火に弱い。オークは力が強いが、動きが遅い。戦略を立てれば、勝てる。』
分析力が高まるが、村人との会話が怖い。
『どうやって指示出すの? 知らない人に話しかけるなんて……。』
村は戦闘準備で忙しい。ドワーフたちが鉄を打ち、矢を用意する。葉月は戦略を考える。
『防壁の弱点は東側。ゴブリンがそこから侵入する可能性が高い。罠を集中させ、火で迎え撃つ。』
「カイル、ミリア、東側に罠を仕掛けて。八重と私は魔法で援護するよ。」
小声だが、指示を出す。
カイルが親指を立てる。
「おっ、葉月、頭いいな! 任せろ!」
八重が想像力を働かせる。
「火の魔法でゴブリンを焼き払おう! 物語みたいに、炎の壁を作れるかも!」
彼女は「フレイム・バリア」の呪文を練習する。
だが、村人との連携が問題だ。バルグリムが葉月に近づく。
「来訪者、戦略を教えてくれ。村の若者たちに指示を。」
葉月は凍りつく。
『大勢に話す? 無理……声が出ない。』
顔が赤くなり、目を逸らす。
八重が代わりに言う。
「えっと、姉が考えてて……東側を固めるんです!」
だが、ドワーフたちは混乱。
「誰がリーダーだ? はっきり言え!」
若いドワーフが苛立つ。
葉月の心が縮こまる。
『コミュ障のせいで、失敗するかも。家族が待ってるのに……。』
八重が手を握る。
「葉月、できるよ。一緒に話そう。」
夜が迫る。モンスターの遠吠えが聞こえる。ゴブリンの甲高い叫び声、オークの重い足音。葉月は決意を固める。
『戦略を伝えなきゃ。』
だが、村の広場でドワーフたちに囲まれ、言葉が詰まる。
「あの……東側に、罠を……火で……」
小さな声に、ドワーフたちが不満げ。
「何だ、頼りねえな!」
若いドワーフが吐き捨てる。葉月の心が折れそうになる。
『やっぱり、私じゃダメ。陰キャのままじゃ、家族を助けられない。』
その時、カイルが前に出る。
「おい、みんな! 葉月の戦略は完璧だ! 東側にゴブリンが来る。罠と火でぶっ潰すんだよ! 葉月を信じろ! 俺が保証する!」
彼の陽気な声が、村に響く。
葉月は驚く。
『カイル……なんで、私を?』
カイルがウインク。
「葉月、頭いいんだから、自信持てよ! お前がリーダーだ!」
八重が頷く。
「姉ちゃん、すごいよ! 私も手伝う!」
ミリアも微笑む。
「葉月、戦略教えて。私たちが支えるよ。」
葉月の胸が熱くなる。
『陽キャの励まし……怖いけど、嬉しい。』
「……ありがとう。じゃあ、東側に火の罠を集中。ゴブリンを誘い込み、オークは防壁で防ぐ。」
声が少し大きくなる。
ドワーフたちが動き出す。罠を仕掛け、松明を用意。八重が魔法を準備。
「フレイム・バリア、発動!」
炎の壁が東側に広がる。
夜、モンスターが襲来。ゴブリンが素早く突進し、オークが後ろから迫る。
葉月の戦略通り、ゴブリンが罠に引っかかり、炎で焼き払われる。八重の魔法がゴブリンを足止め。
カイルが剣でオークを斬り、ミリアが風魔法で援護。
だが、東側の罠が一部壊れる。ゴブリンが防壁を突破し、村に侵入。ドワーフたちがパニックになる。
「来訪者、助けろ!」
葉月は恐怖に震える。
『失敗した……私の戦略が。』
だが、カイルが叫ぶ。
「葉月、立て直せ! お前の頭脳が必要だ!」
葉月は深呼吸。
『家族のため、村のため。コミュ障でも、やるしかない!』
「みんな、落ち着いて! 北側に予備の罠を! 八重、魔法を北に!」
大声が出た。自分でも驚く。
八重が魔法を切り替え。
「フレイム・バリア、北側!」
炎がゴブリンを焼き、ドワーフたちが矢で応戦。カイルとミリアがオークを足止め。葉月の指示で、村人たちが再結集。
防壁が持ち直す。
戦いは長引いたが、モンスターは退散。村に静けさが戻る。バルグリムが姉妹に近づく。
「来訪者、よくやった。絆の鍵を授けよう。」
石の台座から、赤い鍵が現れる。
ドワーフたちが葉月を囲む。
「お前、最初は頼りなかったが、立派だったぞ!」
若いドワーフが笑う。葉月は照れる。
「……ありがとう。」
コミュ障の壁が、また薄くなる。
夜、村で祝宴が開かれる。ドワーフたちが酒を振る舞い、カイルが葉月に杯を渡す。
「葉月、リーダーだな!」
八重が笑う。
「姉ちゃん、かっこよかった!」
葉月は杯を握り、微笑む。
『村人と絆ができた。カイルの励ましが、力をくれた。』
ドワーフの子供が葉月に花冠を渡す。
「来訪者、ありがとう!」
葉月は初めて、心から笑う。
「……こちらこそ、ありがとう。」
家族を助ける旅で、絆が深まった。