闇の呪いと決断の夜
湖畔を離れ、山道を進む一行は、夜の闇に包まれた森の開けた場所でキャンプを張った。星が瞬く空の下、焚き火の炎がパチパチと音を立てる。
葉月は「叡智の書」を膝に置き、闇の勢力のマーク――黒い鏡のシンボルが刻まれたネックレスを見つめる。
『これ、敵の証。導き手が言った通り、鏡の力を狙ってる……。』
家族を助けるための試練が、予想外の危険を伴うことに、胸が締め付けられる。コミュ障の彼女にとって、未知の敵との対峙は恐怖そのものだ。
八重は足の傷を気遣いながら、隣で毛布にくるまる。
「葉月、なんか怖いね……。あの影たち、また来るかな?」
八重の声は震え、普段の少しおっちょこちょいな明るさが影を潜めている。
葉月は妹の手を握る。
「……大丈夫。カイルとミリアがいるし、私たちの絆もある。」
内心では不安が渦巻く。
『でも、コミュ障の私が、みんなを引っ張れる? 分析だけじゃ、足りないよ……。』
カイルは焚き火に薪をくべ、陽気な声で言う。
「よお、暗い顔すんなよ! 闇の勢力だろうが何だろうが、俺の剣でぶった斬るぜ!」
彼の明るさが、場を和ませる。ミリアは静かに微笑み、魔法の結界を張る。
「念のため、警戒結界を強化したよ。敵が来ても、すぐ気づける。」
一行は交代で寝ずの番をすることに。葉月と八重は最初に休む番だ。
葉月は毛布にくるまり、八重の寝息を聞きながら思う。
『家族の事故、血だらけの両親……あんな光景、二度と見たくない。試練をクリアしないと。』
だが、疲れと緊張で、すぐに眠りに落ちる。
深夜、葉月の夢に導き手の声が響く。
「葉月、覚悟せよ。闇はすぐそこに……。」
目が覚める。焚き火の光が揺れ、ミリアが結界の異常を叫ぶ。
「敵だ! みんな、起きて!」
暗闇から、黒い影たちが現れる。闇の勢力だ。マントに身を包み、目だけが赤く光る。手に持つ短剣が、暗い魔法のオーラを放つ。数は一〇体以上。葉月は飛び起き、八重を揺さぶる。
「八重、起きて! 危ない!」
カイルが剣を抜き、突進。「来やがったな!」 ミリアが魔法を放つ。
「ファイア・ボルト!」 炎が影を焼き、一体を倒す。だが、敵は多い。影のリーダーが低い声で笑う。
「来訪者を捕らえ、鏡の力を奪う……。」
戦闘が始まる。葉月は叡智の書を開き、分析。
「あの短剣、毒じゃなくて呪いだ! 当たらないように!」
八重は想像力を働かせ、簡易トラップを試みる。
「蔓で足を絡める!」
だが、影の動きは速く、トラップを回避される。
突然、一体の影が八重に襲いかかる。黒い霧の矢が放たれ、八重の胸に命中。
「うっ!」
八重が倒れ、黒い模様が体に広がる。呪いだ。彼女がうめく。
「葉月……体、動かない……。」
「八重!」
葉月が叫ぶ。パニックが襲う。
『妹が……! どうしよう、助けなきゃ!』
カイルが影を斬り、ミリアが八重に駆け寄る。
「これは闇の呪い! すぐに解かないと、魂が侵食される!」
葉月は叡智の書をめくる。ページに、呪いの情報が浮かぶ。『闇の呪い:黒い鏡の力で魂を縛る。解呪には、光の魔法と強い意志が必要。儀式は複数人で行う。』 葉月は震える。『複数人……私、一人で決められない。カイルとミリアに頼まなきゃ。』 だが、コミュ障の壁が立ちはだかる。
『助けを求めるの、怖い。でも、八重が!』
影たちが再び襲う。カイルが叫ぶ。
「葉月、八重を頼む! 俺たちが敵を抑える!」
ミリアも頷き
「葉月、儀式の準備して! 私が援護するよ!」
葉月は深呼吸する。
『家族のため、八重のため……コミュ障でも、やるしかない!』
「カイル、ミリア、助けて! 八重の呪い、解くために協力して!」
声が震えるが、はっきり響く。成長の瞬間だ。
ミリアが指示。
「葉月、叡智の書に従って光の魔法を準備! 私は結界で時間稼ぐ!」 カイルが影を牽制。「急げ、葉月! 俺が守る!」
葉月は八重の傍に跪き、本を開く。ページに光の魔法「ルミナス・クリア」の呪文が浮かぶ。
『強い意志……絆だ。八重、私の半身。絶対助ける!』「ルミナス・クリア、始動!」
光が葉月の手から放たれ、八重を包む。
だが、呪いは強い。黒い模様が抵抗し、八重が苦しむ。
「葉月……怖いよ……。」
葉月の心が揺れる。
『一人じゃ足りない。絆は、みんなで。』
「ミリア、カイル、力を貸して! 叡智の書に、複数人の意志で呪いが解けると書いてある!」
ミリアが結界を維持しながら手を伸ばす。「わかった、私の魔法も!」 カイルが剣を振りながら叫ぶ。
「俺の意志も乗っけろ! 八重、起きろよ!」
葉月は二人の手を握る。初めての他者との接触に、一瞬躊躇うが、八重の顔を見て踏みとどまる。
「みんな、一緒に……ルミナス・クリア!」
三人の意志が重なり、光が強まる。八重の体から黒い霧が抜け、模様が消える。
八重が目を開ける。
「葉月……みんな、ありがとう……。」
弱々しいが、笑顔。
影たちが動揺。
「呪いが解けただと!? ……撤退!」
リーダーが叫び、闇に消える。
一行は疲れ果て、焚き火のそばで休息。八重は回復したが、弱っている。ミリアが治療を続ける。
「よかった、間に合った。葉月、あなたのおかげだよ。」
カイルが笑う。
「葉月、すげえリーダーシップだったぜ! コミュ障って言ってたけど、ちゃんと叫んでたじゃん!」
葉月は顔を赤らめる。
「……ありがとう。でも、怖かった。」 内心、思う。
『八重のためなら、できた。他人と繋がるの、怖いけど、必要だ。』
八重が葉月の手を握る。
「葉月、かっこよかったよ。私、助かった。」
夜が明ける。闇の勢力は去ったが、気配は残る。葉月は叡智の書を握り、決意を新たにする。
『次は山の砦。家族を助けるため、どんな敵でも倒す。』