導きの予言と闇の影
水の神殿から脱出した一行は、湖畔の草原で息を整えていた。青い宝石の鍵を握りしめ、葉月は胸の鼓動が収まらないのを感じた。試練二をクリアした達成感と、八重の怪我の余波が混じり合う。
八重の足はミリアの癒しの魔法で応急処置が施されていたが、まだ少し痛みが残っているようだ。葉月は妹の傍らに座り、手を握った。
『八重、無事でよかった……。初めて他人に助けを求めたけど、それが正しかった。』
コミュ障の壁が少し薄くなった気がするが、まだ完全には溶けていない。
カイルが剣を地面に突き立て、豪快に笑う。
「ふう、危なかったぜ! 水の精霊の試練、絆が大事だってよ。お前ら姉妹の絆、俺たちも見習わなきゃな!」
彼の陽気な声が、湖面に響く。ミリアが水筒を回し、水を飲む。
「そうだね。次は山の砦の試練だって聞いたけど、詳しくはわからないよね。」
八重が足をさすりながら言う。
「叡智の書に、少し書いてあったよ。絆の試練だって……でも、ヒントが少ない。」
葉月は本を開き、ページをめくる。
『次の試練は山岳地帯。ドワーフの村を守るミッション? でも、具体的にどうすれば……。』
分析好きの彼女は、不確定要素に不安を覚える。
そんな時、周囲の空気が変わった。湖の霧が白く渦を巻き、導き手の姿が現れる。ぼんやりとした人影、白いモヤに覆われたシルエット。姉妹はハッとし、立ち上がる。
「導き手……!」
導き手の人影が、穏やかな声で語りかける。
「よくぞ、二つ目の試練をクリアした。葉月、八重。君たちの絆が、水の精霊を納得させたようだ。」
カイルとミリアが警戒し、武器を構える。
「おい、こいつ誰だ? 怪しいぞ!」
カイルの声に緊張が混じる。ミリアも杖を握りしめる。
「女神の使い……?」
導き手は二人を無視し、姉妹に続ける。
「次の試練は、山の砦。ドワーフ族の村を、モンスターの襲撃から守れ。そこで、絆の鍵を得よ。だが、注意せよ。鏡の力を狙う者たちが、動き始めている。闇の勢力だ。彼らは君たちを阻むだろう。」
葉月の心臓が早鐘を打つ。
『闇の勢力? 鏡の力を狙う……って、何? 導き手、もっと詳しく!』
「闇の勢力って、どんな人たち? どうして私たちを狙うの?」
導き手の人影が揺らぐ。
「彼らはエテルリアの影に潜む組織。願いの鏡を独占し、世界を支配しようとする。来訪者を排除するのが、彼らの目的だ。次の試練で、気をつけよ。ヒントはこれだ――『絆は、言葉ではなく行動で示せ』。」
言葉を残し、導き手の姿が霧のように消える。湖畔に静けさが戻る。葉月は叡智の書にヒントをメモする。『絆は行動で……。分析だけじゃダメってこと?』
不安が募る。
カイルが剣を収め、肩をすくめる。
「なんだよ、あのオッサン? いや、性別わかんねえけど。闇の勢力か……聞いたことあるぜ。噂の悪党組織だな。鏡の力で世界征服とか、ベタな悪役だよ。」
ミリアが眉を寄せる。
「本当にあるんだ……。女神の加護を狙う私たちも、巻き込まれるかも。葉月、八重、大丈夫?」
葉月は小さく頷く。
「……うん。家族のため、続けるよ。」
八重も同意する。
「そうだよ。次の山の砦、行こう!」
一行は湖を離れ、山道を進むことにした。夕暮れが近づき、森の影が長く伸びる。カイルが先頭で道を切り開き、ミリアが後方を警戒。姉妹は真ん中で、互いに支え合う。八重の足がまだ痛むので、葉月が肩を貸す。
『八重、無理しないで。』 心の中で思う。
山道は険しく、岩がごろごろ転がる。風が強くなり、木々がざわめく。突然、カイルが足を止める。
「待て、なんか変だ。影が……動いてる?」
葉月が目を凝らす。道の脇の茂みから、黒い影が複数現れる。人影のような、だがぼんやりとして不気味。マントを羽織り、顔を覆った者たち。手には暗い光の短剣。
「誰だ、お前ら!」
カイルが剣を抜く。
影の一人が、低い声で笑う。
「来訪者を狙え……鏡の力を渡すな。」
他の影たちが一斉に襲いかかる。短剣が風を切り、暗い魔法の弾が飛ぶ。
「闇の勢力か!」
ミリアが杖を振り、防御のバリアを張る。
「ウィンド・シールド!」
戦闘が始まった。カイルが剣で影を斬りつけるが、影は煙のように回避し、反撃。葉月と八重は後ろに下がるが、巻き込まれる。葉月は叡智の書を開き、分析。
「あの短剣、毒がある! 触れないで!」
八重が想像力を働かせ、簡易トラップを試みる。
「蔓で足を! みんな、避けて!」
だが、影の動きが速く、トラップが効かない。一人の影が姉妹に向かい、短剣を振り下ろす。
「危ない!」
カイルが飛び込み、剣で防ぐ。だが、別の影がカイルの背中を狙う。ミリアが魔法で援護するが、数が多い。五人以上の影が、囲むように迫る。
葉月の心がパニックになる。
『どうしよう……コミュ障なのに、指示出さないと。』
「カイル、左の影がリーダー! 弱点は首のネックレス!」
叡智の書で分析した情報を叫ぶ。声が少し大きくなった。
カイルが頷き、突進。
「了解! ハァッ!」
剣がネックレスを斬り、影が悲鳴を上げて消える。だが、反撃の魔法弾が八重に当たる。「あっ!」 八重が倒れ、腕に傷を負う。
「八重!」
葉月が駆け寄る。血がにじむ。影たちが笑う。
「来訪者を捕らえろ……。」
ミリアがヒール魔法をかけようとするが、影の妨害で遅れる。カイルが一人で複数相手に奮闘。
「くそ、強いぜこいつら!」
葉月は初めての恐怖に震える。
『家族を助けるのに、こんなところで終われない。導き手が言った闇の勢力……本当だった。』
影の一人が葉月を狙う。短剣が迫る。
その瞬間、叡智の書が輝き、光の魔法が自動発動。
「ルミナス・バースト!」
影を弾き飛ばす。葉月は驚く。
『本の力……でも、みんなが危ない。』
戦いは激化。カイルが傷を負い、ミリアの魔法が尽きかける。影のリーダーが再び現れ、暗い霧を撒く。
「鏡の力を、我々に……。」
葉月は決意。
「みんな、集まって! 絆で戦おう!」
姉妹の絆が、水の試練で強まったことを思い出す。八重と手を繋ぎ、魔法を共有。
「コンビネーション……ライト・アンド・トラップ!」
八重のトラップと葉月の光魔法が融合。蔓が光を帯び、影を絡め取る。カイルがトドメを刺し、ミリアが援護。
影たちが退散し始める。
「撤退……だが、追うぞ。」
最後の影が去り際に呟く。
一行は息を切らし、地面に座り込む。カイルが傷を押さえ、笑う。
「ふう、助かったぜ。お前らの魔法、すげえよ。」
ミリアが治療を始める。
「あの影たち……闇の勢力だね。鏡の力を狙ってるって、本当だった。」
葉月は叡智の書を調べ、影のネックレスを拾う。そこに刻まれたマーク――黒い鏡のシンボル。
『これ、組織の証。導き手が言ってた通り。私たち、追われる身に……。』
八重が震える声で言う。
「葉月、どうしよう……。次の試練、行ける?」
葉月は妹を抱きしめる。
「行かなきゃ。家族が待ってる。でも、今度はもっと警戒して。」
夜の山道で、一行はキャンプを張る。だが、遠くから影の気配を感じる。
闇の勢力が、追ってくる。姉妹は追われる身となり、冒険は新たな緊張を帯びる。