迷いの森の試練
第二章:迷いの森の試練
ルナリア村は、森の入口からほど近い小さな集落だった。木造の家々が立ち並び、冒険者や商人で賑わっている。カイルとミリアの案内で、姉妹は村の宿屋に落ち着いた。
部屋は簡素だが、清潔で、葉月はようやく一息つけた。
「異世界の宿屋……本で読んだ通りだ。でも、現実は疲れる。」
夕食の席で、カイルが地図を広げる。
「よし、最初の試練は迷いの森の奥だ。隠された鍵を探すんだろ? 女神の言い伝えによると、森の中心に古い遺跡があって、そこに鍵が封じられてるらしいぜ!」
ミリアが頷く。
「でも、迷いの森は名前の通り、道に迷いやすい。幻覚の霧がかかってるし、モンスターも多いよ。葉月、八重、大丈夫?」
葉月はフォークを握った手を震わせる。
(大丈夫じゃない……コミュ障で、陽キャの二人と話すだけで緊張するのに、冒険だなんて。)
声に出せない。代わりに、八重が答える。
「うん、がんばる……。叡智の書に、森の情報書いてあったよ。」
葉月は本を開き、ページを指す。地図が浮かび上がり、モンスターの弱点も記載されている。
『スライムは火に弱い。ウルフビーストは群れで行動するから、孤立させろ。分析すれば、勝てるはず。』 と心の中で呟く。
カイルが笑う。
「おお、すげえ本だな! それ、来訪者のアイテムか? じゃあ、明日早朝に出発だ。みんな、寝ろよ!」
夜、姉妹の部屋で、八重がベッドに座り込む。
「葉月、なんかドキドキするね。この二人、いい人だけど……話すの、苦手だよ。」
葉月は頷く。
「私も……。陽キャすぎて、圧倒される。でも、家族のためだよ。試練クリアしないと。」
二人は手を繋ぎ、眠りにつく。夢の中で、血だらけの両親の顔が浮かぶ。『助けなきゃ……。』
翌朝、一行は森に入った。
木々が密集し、陽光がさえぎられる。霧が立ち込め、道がぼんやりとしか見えない。カイルが剣を構え、先頭を歩く。
「気をつけろよ。幻覚が出たら、俺の声に従え!」
ミリアが杖を握り、魔法の光を灯す。
「みんな、手を繋ごうか? 迷子にならないように。」
葉月は八重の手を握るが、カイルの提案に戸惑う。
『手を繋ぐ? 知らない人と? 無理……。』
結局、姉妹だけで繋ぎ、ミリアの後ろを歩く。
森の奥へ進むにつれ、霧が濃くなる。葉月の分析力が発揮される。
「この霧、魔法の成分が入ってる。叡智の書によると、深呼吸で幻覚を防げるよ。」
カイルが感心する。
「へえ、葉月、賢いな! じゃあ、みんな深呼吸だ!」
八重が想像力を働かせる。
「なんか、霧が動物の形に見える……。あれ、トラップみたい!」
彼女の言葉通り、霧が狼の形を成し、襲いかかる。幻覚だ。
「本物じゃない! 無視して!」
葉月が叫ぶ。珍しく声が出た。分析のおかげで、冷静になれる。
だが、幻覚の次は本物の脅威。ガサガサと音がし、スライムの大群が現れる。緑色の体が地面を這い、酸性の液体を飛ばす。
「来やがった!」
カイルが剣を振り、斬りつける。スライムが二つに分かれるが、再生する。
葉月は本をめくり、分析。
「スライムは核を壊さないと再生する! 中心の青い部分を狙って!」
ミリアが魔法を唱える。
「ファイア・アロー!」
炎の矢がスライムを貫き、核を焼く。ジュウッと音が響き、数体が溶ける。
八重は周囲を見回し、想像力でアイデアを閃く。
「トラップ作ろう! 木の枝で落とし穴!」
彼女は近くの蔓を拾い、簡易的な網を編む。
本の物語で読んだ冒険シーンを思い浮かべ、即興で作成。
「八重、すごい!」
ミリアが褒める。八重は照れくさそうに頷くが、心の中で思う。
『褒められると、嬉しいけど……どう返事すればいいの?』
カイルがトラップを仕掛け、スライムを誘導。
「よし、みんな下がれ!」
スライムが落ち、酸で穴が溶けるが、数体減る。
協力は上手くいっているが、葉月はコミュニケーションの壁を感じる。
『カイルの指示、素直に従えない。声が大きいし、陽キャのノリが……。』
ミリアが
「葉月、次どうする?」
と聞くと、葉月は目を逸らし、小声で
「えっと……核を……」
しか言えない。八重も似たようなものだ。
さらに奥へ。ウルフビーストの群れが現れる。黒い毛並み、鋭い牙。五匹が囲むように近づく。
「群れだ! 孤立させろ!」
葉月が分析。叡智の書に、ウルフビーストはリーダーを倒せば混乱すると書いてある。「あの大きいのがリーダー! 狙って!」
カイルが突進。
「了解! ハァッ!」
剣でリーダーの脚を斬る。獣がうめく。
ミリアが魔法で援護。「ウィンド・バリア!」 風の壁で姉妹を守る。
八重はまた想像力を発揮。
「トラップ! 蔓で足を絡めて!」
彼女は蔓を投げ、ウルフビーストの足を絡める。簡易だが、効果的。獣が転ぶ。
葉月は魔法を試す。
「ルミナス・ボルト!」
光の矢が飛び、リーダーの目をくらます。分析通り、弱点は目だ。
カイルがトドメを刺す。
「これで終わりだ!」
剣が首を斬る。群れが混乱し、逃げ散る。
戦いが終わり、一行は息を切らす。鍵の遺跡は近い。霧が晴れ、古い石の門が見える。
「みんな、よくやったぜ! 葉月と八重、分析とトラップ、最高だった!」
カイルがハイタッチを求める。
葉月は手を出すのを躊躇。
『ハイタッチ? そんなの、したことない……。』
結局、軽く触れるだけ。八重も同じく、ぎこちない。
ミリアが気づく。
「二人とも、疲れたよね。無理しないで。」
彼女の優しさが、姉妹の心を少し溶かす。でも、壁はまだ厚い。『褒められても、ありがとうって言えない。コミュ障のせいで……。』 葉月は思う。
遺跡の門を開けると、内部は迷路状。壁に謎の刻印。葉月が分析。
「これはパズル。叡智の書に似た記号がある。順番に押せば、鍵が出るはず。」
八重が想像。
「物語みたいに、罠があるかも。気をつけて!」
カイルとミリアが協力し、パズルを解く。姉妹の知識が鍵となり、中央の台座から、光る鍵が現れる。黄金の鍵。試練一の証。
「やった! 鍵ゲット!」
カイルが喜ぶ。
葉月は鍵を握り、達成感を感じる。
『協力したけど……まだ、話せない。家族のため、もっと頑張らないと。』
八重が葉月の耳元で囁く。
「葉月、すごかったよ。でも、この二人と、もっと話したいけど……怖いね。」
「うん……少しずつ、ね。」
一行は森を抜け、村に戻る。鍵を手に、次なる試練へ。コミュニケーションの壁は残るが、絆の芽は生まれた。