闇の本拠地と蘇る絆
砂漠の夜風が、葉月の頰を冷たく撫でていた。サハラントの遺跡から脱出した一行は、砂丘の影に身を寄せていたが、八重をさらった闇の勢力の追跡を逃れるため、すぐに行動を起こす必要があった。葉月は「叡智の書」を握りしめ、涙を拭う。八重の叫び声が耳に残り、心を締め付ける。
『八重……私のせいだ。守れなかった。双子の絆が、私の支えなのに。』
コミュ障の彼女にとって、妹は半身そのもの。現実世界の事故――血だらけの両親と八重の顔がフラッシュバックし、胸が痛む。
『家族を助けるため、八重を絶対に取り戻す。』
カイルが剣を握り、立ち上がる。
「葉月、泣いてる場合じゃねえ! あの幹部の霧の痕跡を追おう。闇の本拠地は砂漠の奥だぜ。」
彼の陽気な声に、力強い決意が混じる。ミリアが杖で砂を調べ、魔法の光を放つ。
「痕跡が残ってる。八重の気配……生きてるよ。急ごう。」
彼女の銀髪が夜風に揺れ、落ち着いた眼差しが葉月を励ます。
葉月は深呼吸し、叡智の書を開く。
『分析だ。本拠地は地下要塞。敵の数は多い。トラップと魔法の防御網。八重を助けるには、戦略が必要。』「……行こう。みんな、私についてきて。」
声は小さく震えるが、決意が宿る。
『コミュ障の陰キャなのに、リーダー? 怖いけど、八重のためなら。』
仲間たちの信頼が、彼女の背中を押す。
一行は砂漠を進む。星空の下、砂が足を重くする。葉月は本で地図を確認。
「本拠地はオアシスの近くの地下要塞。入り口にトラップがある。右側の崖から潜入しよう。」
カイルが頷く。
「お前の指示に従うぜ、リーダー!」
ミリアが微笑む。
「葉月、頼りになるよ。私が魔法で援護する。」
本拠地に近づくと、黒い岩山がそびえる。洞窟の入り口は暗く、闇の気配が漂う。影の番兵が巡回している。葉月は分析。
「正面突破は無理。崖を登って、裏から入る。カイル、ロープを用意して。」
彼女の声が、少し大きくなる。
『みんなが信じてくれる。八重のため、指揮するんだ。』
カイルが崖を登り、ロープを下ろす。ミリアが「シャドウ・ヴェール」で一行を隠す。洞松明の光が壁を照らし、影の兵士がうろつく。葉月は戦略を立てる。
「カイル、左の敵を陽動。ミリア、魔法で援護。私がトラップを解除する。」
カイルが笑う。
「了解! 行くぜ!」
ミリアが「ウィンド・ガスト」で敵を吹き飛ばす。
戦闘が始まる。影の兵士が短剣を振り、暗い魔法を放つ。葉月は叡智の書でトラップを分析。
「ここ、毒針の罠! 右のスイッチを押して!」
カイルがスイッチを押し、ガコンと音が響く。ミリアが「ファイア・ボルト」で援護。
葉月の指示が的確で、一行は奥へ進む。
『コミュ障なのに、みんなを動かしてる。八重、待ってて。』
一方、八重は闇の本拠地の牢獄に捕らわれていた。冷たい石の床に座り、鉄格子を握る。体に残る闇の呪いの残滓が、寒気を呼ぶ。
『葉月……来てくれるよね。』 八重は内省する。
『いつも姉に頼ってる。おっちょこちょいで、想像力だけが取り柄。物語のヒロインみたいに強いわけじゃない。事故の時も、葉月の手がなかったら、怖くて耐えられなかった。』
血だらけの車内、姉の手を握った記憶が蘇る。
『陰キャの私たち、双子でよかった。でも、一人じゃ何もできない。姉がいないと、私、ただの弱虫……。』
涙が落ちる。
『でも、物語の主人公は諦めないよね。自分で動かなきゃ!』
八重は牢の格子を調べ、想像力で魔法を試す。
「ルミナス・ライト!」
弱い光が鉄を照らすが、鍵は見つからない。
『ダメか……葉月、早く!』
葉月たちは要塞の奥へ進む。敵の数が増え、影の兵士が襲いかかる。
「来訪者を討て!」
カイルが剣で応戦。
「葉月、指示を!」
「ミリア、火の魔法で左側を! カイル、右を抑えて!」
彼女のリーダーシップが光る。
『怖いけど、みんなが信じてくれる。八重を助けるんだ。』
最深部に近づくと、広間に出る。そこに、闇の勢力の幹部が待ち構える。仮面を被った男、赤い目が輝く。背後に黒い霧が渦巻き、八重が鎖で繋がれている。
「葉月!」
八重の叫びが響く。
「よく来た、来訪者。」
幹部が嘲笑う。
「双子の絆? 笑えるな。お前たちの事故は、絆のせいだ。現実世界で弱虫だったから、家族を巻き込んだ。」
葉月の心が揺れる。
『私たちのせい? そんな……。』
事故の記憶がフラッシュバック。血、悲鳴、八重の涙。
『コミュ障で、両親に心配かけた。でも、事故は私のせいじゃない!』
「八重を返せ!」
声が大きくなる。コミュ障の壁が、怒りで崩れる。
戦闘が始まる。幹部が杖を振り、黒い霧が襲う。カイルが剣で突進。
「ハァッ!」
だが、霧が剣を絡め、動きを封じる。ミリアが「ファイア・アロー」を放つが、霧が吸収。
「無駄だ。闇の力は絶対だ!」
葉月は叡智の書を開く。
『弱点は杖の宝石。壊せば……。』
「カイル、宝石を狙って! ミリア、魔法で陽動!」
指示が的確。カイルが宝石に剣を振り下ろすが、幹部が回避。
「小娘が!」
八重が鎖の中で叫ぶ。
「葉月、信じてる! 私たちの絆、負けないよ!」
八重の声が、葉月の心を奮い立たせる。
『双子の絆……事故の時も、八重の手を握れたから耐えられた。』
幹部が霧を放ち、葉月に襲いかかる。
「お前一人で何ができる!」
葉月は恐怖に震えるが、叡智の書が輝く。
『新しい魔法……!』「エテル・バースト!」
光の爆発が霧を払い、幹部の杖を砕く。幹部が膝をつく。
「ぐっ……!」
カイルがトドメを刺す。
「これで終わりだ!」
剣が幹部の胸を貫き、仮面が落ちる。男の顔は、普通の人間だった。闇の力が消え、幹部が崩れ落ちる。
「鏡の力は……我々の……。」
息絶える。
葉月が八重の鎖を壊し、抱きしめる。
「八重、無事でよかった!」
八重が泣く。
「姉ちゃん、ありがとう……私、一人じゃ何もできないって思ったけど、姉ちゃんが来てくれた。」
ミリアが治療魔法をかけ、カイルが肩を叩く。
「葉月、リーダーだな! すげえ戦いだった!」
その時、白い霧が現れ、導き手が登場。
「よくぞ、幹部を倒した。最後の試練は真実の鏡の前だ。鏡の力は、真実を直視するもの。君たちの絆、事故の秘密を明らかにせよ。」
葉月が問う。
「秘密って? 教えて!」
導き手が消えながら言う。
「直視せよ……それが救済の鍵。」
一行は鏡へ向かう。葉月は八重の手を握り、思う。
『双子の絆が、事故の鍵? 真実を知るのが怖い。でも、家族を助けるため、進むよ。』