今日、犬じゃないものを拾った
「今日も遅刻?また犬でも拾ってきたの~?
ここねは今日も優雅に登校してきた~へへへ」
小さな教室の中では、毎日新しいトピックが発信され、それを逃さんとばかりに食らい合っている。
リップを塗りながらそう聞く彼女も、またその一人だ。
「う~~ん・・・犬・・・ではないか。外国人みたいな?」
額にハンカチを押し付けながら、腰を下ろし、上下する肩を落ち着かせる。
「ちょ、まって眞守、流石に人はやばいって!犬とか猫とか亀とか、そういう次元じゃないんだよ!?警察とかに行ったの?」
「そんな時間あるわけないじゃん!うちの前で倒れてるし、うなされてるし、流石に放置していけないよ・・・」
流石に大きい声で言えない内容と思ったのか、机から身を乗り出しこそっと耳元で話す。
「それにさ、なんか見たことないマジック?とかしてて、聞いたことない外国語も使ってたの、余計に警察なんか連れてけないよ」
はぁと呆れた溜息は眞守には届かない。彼女の目は朝の光が反射し、キラキラと輝いていた。
「マジックって怪しすぎ〜、変なことに巻き込まれたって知らないからね・・・。あ!おはよ~、てかさ昨日のあれ・・・」
拾った外国人の話題は、新たに教室に来たトピックに持っていかれた。
眞守は特に気にせず、手鏡を見ながら乱れた前髪をきれいに直した。しかし、頭の中は不思議な現象とともに突然現れた彼でいっぱいだった。
「ってことで、今月は三者面談があるから親御さんと日程決めとけよー。プリントの提出は再来週の月曜までだからな」
先生の声など、BGMのように誰も耳を傾けない。眞守を除いては。
HRも落ち着いたころ、担任のもとへ行き、先ほどのプリントを目の前に置いた。
「先生、私・・・ほら親が・・・あれなんで、三者面談はなしで」
何となく気まずくならないよう、言葉尻を軽くし小さく歯を見せる。
「あ、おう。そうだったな、また別の先生交えてやるか」
先生なりに気を使ったのだろうか、軽く微笑み返された。
「まも~、今日一緒かえろ~、駅前でリップ見に行きたい!」
「ごめんね、今日は家帰んなきゃなんだ」
顔の前で手を立て、足早に教室から出ていく。
普段なら友人の誘いは断らないが、今回は訳が違う。自然と床を蹴る足は速くなっていく。