焼け焦げた机の上で
「違う、こんなんじゃだめだ・・・!」
ガシャン。という落下音に驚き、木の緑から鳥が消えていく。
「どうしてこんな簡単な薬すら作れないんだ、どうして・・・くそっ!」
暖かい木漏れ日と対比するように、彼の顔には影が落ちていた。
その目線の先には割れたガラスと、小さく焼け焦げた一枚板の大きな机。
幾度となく失敗を受け止めてきたそれは、今は何も言わずもたれかかる彼を支えていた。
大きな溜息は、徐々に部屋を冷たくしていく。
ーーー
「ったく、こんなんじゃ売り物にもならないよ!」
「そこを何とか、明日食う金もないんだ・・・」
「こんな純度の低い風邪薬が店頭に並んでるのを見たことがあるっていうのかい?」
「頼む・・・昔のよしみだろ」
レンガ造りの背の高い建物が並ぶ中、そんなやり取りが路地裏に響いていた。
薄茶色で埃にまみれたローブを深くかぶり、背中を丸め、男に縋るように頭を下げる。
埃でまとまったくせ毛が顔を隠しており、その先には生気を失った瞳が物乞いのように揺れている。
「今回が最後だ、いいね。お前みたいな落ちこぼれの薬を並べてるなんて噂になったらこっちも商売上がったりだ!」
その言葉に一瞬、顔を上げ何か言いたそうに口を開くが、そこからは乾いた空気しか漏れてこなかった。
これでいいんだ、これで今日の飯が食える。
そう言い聞かせるように、汚れた手の中にある銅貨を少し握った。
町はずれの小さな森の奥にある、苔や小さな葉が生えたその家に明かりが灯る。
今朝の調合に失敗したガラス瓶はそのままで、今でも少し煙を出している。
聞こえる音は彼の呼吸の音と、近くの小川のせせらぎだけだ。
シュウゥゥ・・・
・・・何かが燃えているような音がする。
確か部屋のランプは消したはずなのに。
くたびれたソファから重い体を起こすと、割れたはずのガラス瓶が光る液体を垂らし床を焦がしていた。
まずい、何か調合を間違えたか・・・!
もたつく足で杖を取り詠唱をしようと肺を膨らませる。
静かに眠る森は一瞬朝日のような強い光を帯びたが、すぐにいつもの夜へと戻っていった。