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第27話 ◆◇◆ 灯莉 ⑦


 傘の柄を持つ手には、茶色い手袋を嵌めている。無機質な表情をしていた灯莉だが、花を手向ける昼斗が、隣で泣きそうな顔をしているのを一瞥し、唇を噛みたくなっていた。昼斗はベッドの上は別として、泣いたりしない。それが逆に痛々しい。


 表情を見ているだけで、辛いのだろうとよく分かる。

 分かってしまうくらいの期間は、既に共に在る。


 昼斗の肩が震えている。それは冬の寒さが理由ではないだろうと、灯莉にもよく分かっていた。本当は――抱きしめて、存分に慰めてあげたかった。きっとまたこの義兄は、自分のせいだと悔やんでいるのだろうと、痛いほどに気持ちが分かる。


 ――でも、今更どんな顔をして?

 ――あんな風に傷つけたのに?


 理性の言葉で、灯莉は伸ばしかけた腕をとどめ、ギュッと手を握る。そもそも自分は、昼斗を恨んだままであるはずで、それなのに、どうしてこんな風に胸が締め付けられるのだろうかと、内心にすら説明を付けられない。


 けれど隣を歩く昼斗の辛そうな顔を見ていると、遣る瀬無くなる。

 慰めたくてたまらない。


 ここにきて、灯莉はいよいよ自覚した。とっくに自分は、粕谷昼斗という人間を好きなのだと。けれどごちゃごちゃのメンタルは、自覚したその感情のやり場を教えてはくれない。


「ねぇ、昼斗? 海鮮も美味しいと私は思うの」


 捻りだした雑談が苦しい。


「海鮮か」

「アサリが好きなら、ホタテも行けるんじゃない?」

「別に俺はアサリが好きなわけじゃない。お前のクラムチャウダーが美味しいって思っただけだよ」

「缶詰そのままの味でしょ?」

「嘘だ。塩とか胡椒とか」

「それはいれてるわよ」


 灯莉はそう告げてから、ぽんと昼斗の頭に手を載せた。すると俯いたままで、昼斗が足を止めた。


「泣きたいなら、泣けばいいのに」

「――泣いても、なんにもならないだろ? 泣いて、戻ってくるなら、いくらでも泣くさ」


 昼斗のそんな声が、灯莉には辛い。けれど、どうしても両腕で抱きしめる事が出来ない。

 もう、自分にそんな権利はないのだと、灯莉がそう思う一番の理由は、昼斗の瞳が暗いままだからだ。それでも、そばにいたい。確かにそう感じながら、傍らにいる。


「私は、生きてるよ」

「ああ」

「私は、死なないよ」


 何気なく灯莉がそう口にすると、勢いよく昼斗が顔を上げた。


 そして、泣きそうな笑顔を浮かべた。その表情の理由はよく分からなかったけれど、灯莉は目を閉じ、少しでも救いになれればいいのにと願った瞬間だった。





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