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第14話 ◆◇◆ 灯莉 ③


「痛みを感じないというのは、真実のようですね」


 三月の言葉に、管制室にいた灯莉は腕を組んだ。


 通常、痛覚を含めた知覚を、パイロットは機体と共有する。どころか、感覚だけではなく、物理的にも〝イメージ〟を共有するせいで、機体が破損すれば、肉体も負傷する。たとえばそれは、いつか三月の父親が、機体の首を切断されたと思った結果、首がちぎれて亡くなったのと同じことだ。いくら頑丈な装甲を用意しようとも、無意味だ。そうであっても、人間に残された最後の砦は、人型戦略機である。


「……」


 結果として、瀬是であってもそうだが、戦闘中、機体に攻撃を受ければ、パイロットは痛みを感じる。たとえば瀬是などの、俗にいう二十三歳世代の一部は、痛覚を遮断するような訓練を受けている。しかし、偶発的にパイロットとなった昼斗には、そんな訓練はおろか、鎮痛剤の薬物投与すらない。


「目を瞠る集中力ですね、灯莉のお義兄様は。さすがはエースだ。名前だけではなく、やはり実力的には、一番です。だからこそ、今回も生きているのでしょう。医師の腕がたまたまよかったからではありません」


 三月が形の良い唇の両端を持ち上げた。実際その通りだった。


 昼斗は、戦闘中、痛覚を感じないのだという。過度に集中する状態にあるようで、全てが終わり一息つくまでの間、痛みも負傷も意識に登らせないらしい。だから、生き残っているのだともいえる。


「死ねばよかったと思っているけど――……まぁ、パイロットは不足しているから」

「本心ですか?」

「どういう意味?」


 冷ややかな顔をしている灯莉は、いつも本音の表情ばかり向けている三月を見た。この二人は、もう長い付き合いで、互いに互いを親友だと認識する程度には、付き合いが深い。


「最近随分と注力していたようでしたから」

「それが? 計画通りだけどね?」

「――そうですか。復讐は順調ですか?」

「どうかな。まだ私を完璧には好きになっていないみたいだから、もうちょっとかかりそうだね。それまでに、死なれたら困るかな」


 そんなやりとりをしていると、連絡が入った。


 ――昼斗の目が覚めたというものだった。事件から、三日後の事である。現在は、蛍が後処理のために宇宙に出ていて、それを見守っていた最中だった。


「行ってきてはいかがですか?」

「うん。さすがは親友だね。その厚意、感謝するわ」

「ええ、存分に感謝して下さい」


 こうして灯莉は、昼斗の病室へと向かった。自然と足早に基地の中を歩いていく。途中にフラワーショップがあったが、一瞥して通り過ぎた。そして目指す病室の扉の前に立ち、二度ノックをしてからドアを開けた。


「灯莉」


 すると額に包帯を巻いている昼斗が、顔を上げてこちらを見た。


「大丈夫? 義兄さん」


 心配そうな笑顔を取り繕って灯莉が尋ねると、おずおずと昼斗が頷いた。


「ああ、大した事は無い」


 実際には、常人であれば亡くなっていても不思議はない大怪我だった。灯莉はそれを知っている。だが長めに瞬きをし、その思考を振り払い、双眸を開けた時には、無理に笑顔を浮かべた。そして頷いて見せると、昼斗が言った。


「瀬是は? 俺よりもずっと酷い怪我だっただろう?」


 それは昼斗の勘違いなのだが、灯莉は伝えず軽く(かぶり)を振って見せた。


「昼斗。自分の心配をしなよ。ね? 余計な事は考えずに、まずは自分の事を治すように」

「っ、あ、ああ」


 灯莉の言葉に、僅かに昼斗が頬に朱を差した。心配される事に不慣れな様子の昼斗を見ていたら、何故なのか胸が疼いた。歩み寄って、灯莉は、昼斗の唇に指で触れる。昼斗が惚けたように灯莉を見る。


「私のためにも、早くよくなって」


 そう嘯きながら灯莉が綺麗に笑ってみせると、いよいよ昼斗が真っ赤になった。

 だからつい、灯莉は昼斗の体に抱きついた。

 ――計画の一環だ、と、内心で考えながら抱いた昼斗の体は、思いのほか温かかった。





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