ep.5 "…Ah bon?"《えっ》
空から見ると物凄い勢いで炎が広がっているのがわかる。広場はもう目の前だ。
その真ん中に人影を発見する。
あれはエリックと……酒屋のダニエルさん……!
周りに3人の男の人がいる。
人々の言葉でなんとなくの情報がわかっていたつもりだったけど、実際に目の前にすると胸がぎゅっと締め付けられる。
ダニエルさんがエリックを抱きかかえている。
……お腹から血を流しているようだった。
エリック。
早く助けてあげなくちゃ……!
「エリック! ダニエルさん!!」
……名前を呼んだその時、ダニエルさんが僕を見て目を見開き「危ない!」と大声で叫んだ。
同時に男の人が僕に銃口を向ける。
パパン!という銃声と共に僕の頬を銃弾がかすめていった。
痛っ……と思うもそれは一瞬で、僕は回復魔法で自分の傷を瞬時に治す。
「天使ちゃん! 来ちゃダメだ、危ないぞ!!!」
「……天……使…………」
目を瞑っていたエリックがダニエルさんの言葉に微弱に反応し、うっすらと目をあけた。
焦点が合っていない。
エリック……!
「天使ちゃん、こいつらの狙いはアナタなんだよ!!!」
ダニエルさんが叫んでいる。
意味が、わからない……。
だって、僕はエリックを助けに……だけど、どうやら男たちの様子がおかしい。
「アッッはっッ! 本当に、いた!! 写真の、まんま! 天使だ、こいつぁ『なんデぇも治せる魔法』を持って、ぃる!」
「撃て、うテぇ~、こいつ撃って、もぉ、治せるかラぁ」
「おえぁ、目が回って気持ち悪い……」
……?
3人の男たちは呂律が回っていない。
これって……
……ダニエルさんの、特殊魔法によるものだ。
急性アルコール中毒
「致し方ないです、この人たちの周りの空気、アルコールにしましたわ」と、ダニエルさん。
え……こっわ!
……じゃなくて。
3人の男の人が倒れて、ダニエルさんが銃を回収したのを見た後、僕は広場に着地した。エリックは……!
僕はエリックの診断をする。
その間にダニエルさんが今の状況を説明してくれた。
騒動は僕の写真を見せられたことから始まったこと。どうやら僕の回復魔法に用があったらしく、悪用しようとしていたのかもしれない……ということだった。
男たちは非魔術師で、1人は焼け、あとの3人はこの有様……急性アルコール中毒で倒れている。
ダニエルさんとエリックは銃で撃たれ、僕をおびき寄せるための人質に。……ダニエルさんは軽傷、エリックは腹部に命中して重症だ。
だけど「動いたら撃つ」と脅されて。ダニエルさんは気づかれないように少しずつ彼らの周りの空気をアルコールに変えていたらしいけど、僕が現れて気が逸れたところを一気にアルコール中毒に陥れたとのこと。
ダニエルさんは今日のお祭りの準備で魔力を沢山使ってしまっていたらしく、今は殆ど残っていない。
……じゃあ焼けたもう一人の非魔術師は?
きょろきょろと見回す僕を見て、ダニエルさんが言った。
「あと一人はあそこだよ。水魔法で鎮火してやったがご臨終かも……」
「そんな……」
「だって元はと言えばあちらさんが……まぁいいや。まずエリックを頼む」
苦しそうに胸を上下させるエリックを目の前に手を組んで……全部の意識を集中させた。
「回復魔法『tout guérir』」
銃弾は脾臓をかすって抜けていったようだった。だけど重症なことには変わりない。
一つ一つ、丁寧に再生していく。
暖色の光がエリックを包んでいる。
もう、少し……!
「……天使ちゃん凄いな。本当に天使……っていうか、まさに……」
「……」
「悪い、集中してたか」
大事なエリックの体。ミスは許されない。
……どれくらい集中していただろう……だけど光が収束と共に、治療は無事に終了した。
エリックは目を閉じて、静かに眠っているようだった。
……良かった。
「次、ダニエルさんの番ですよ」
「俺は大丈夫ですわ」
「いいから……あと、僕はロンです」
「ロン」
そうして僕はダニエルさんと、続いて熱傷の男の人を治した。後はアルコール中毒の人たちだ。
だけど。
「……
……
……アルコール中毒……治し方わかんない……」
「えっ」