ep.3 Agitation 《騒動》
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- 広場 - (第三者視点)
快晴の昼下がり、祭りの中心となる緑豊かな広場での出来事。
広場は華やかに飾り付けられ、園路にはフードトラックも並び、多くの人が訪れていた。
そんな折。
「お前、魔術師? ちょっと聞きたいことあるんだけど」
4人組の非魔術師の男たちが、30代位と見られる一人の魔術師に声をかける。彼は焦茶色の髪をカールさせておしゃれにひげを整え、エプロンをつけた、中肉中背の優しげな見た目の魔術師。どこにでもいる居酒屋のおっちゃん、という印象だ。
「魔術師ですが。なんでしょう」
「この写真の子知らない? 魔術師なんだけど」
「……知らないなぁ。お名前は」
「知らないのかよ……ていうかお前本当に魔術師? ちょっと魔法使ってみてよ」
「うーん、魔法はそうやって使うものじゃないのでねぇ」
「本当はそう言って魔法使えないんじゃないの?」
「おや、あなたたち。ここにあるワインは全部俺が魔法で作ってるんですよ」
「ははっ、この酒を全部? 信じらんないな」
非魔術師側の男の一人が、吸っていたたばこの煙を魔術師の顔面目掛けて吐き出す。
「うっわ、ちょっ……そういうことしちゃう?だから魔法はこういうところでお披露目するもんじゃないんだって」
「ほらやっぱ使えないんじゃないか」
「だ、か、ら! ……ったく、仕方ないな。そんなに酒が飲みたいなら見せてあげましょう。だけどアルコール度数高めのやつ作るのでそのたばこ、どうにかしたほうがいいですぞ」
「なんだって」
「特殊魔法……『alcooliser』!」
その魔術師が魔法を詠唱したとたん、空気中の水分がみるみるアルコール化し、たばこに引火した。
「どわぁあっっっち!!!」
「あっはは、どうだ、これがあなたたちが見たかった魔法だ」
「くっそ、貴っっ様ァ!!!」
「俺は空気中の水をアルコールに変えただけですもん」
「こっっッの!! 屁理屈ばっか言ってんじゃねぇこの魔術師が!!!」
「ははっ、俺はダニエルっていうの、覚えといてね」
男は燃えたままその魔術師……ダニエルに殴りかかる。が、ひらりと躱されそのままフードトラックに突っ込んだ。
「うわ、やっべ」
フードトラックにも引火、炎上した。
なんせその突っ込んだ男の周囲はダニエルの『alcooliser』によってアルコール濃度が高いものだから延焼が早い。
直撃したフードトラックはゴオゴオと燃え始め、辺りが騒然となる。
「水、水!!!」
その時。
「ダニエルさん何やってるんですか……! 早く消さないと!」
ダニエルに話しかけたのは紺色がかった黒髪の、漆黒の瞳の少年だった。
「なんだ小僧、お前もこの魔術師の仲間かよ」
「違うぞ、少年は関係ない。まぁ魔術師って人数少ないからさ、みんな知り合いっていうか。そんで俺はダ・ニ・エ・ル!」
「んなことどうだっていいんだよ! ……って、じゃあ絶対お前写真の魔術師の子知ってんじゃん!!!」
「……あ」
「くっそ、ナメたまねしやがって!!!」
パンパンッ!!!
非魔術師の男の一人は、懐に忍ばせていた銃で魔術師目掛けて発砲した。
その弾丸はダニエルと、ダニエルに話しかけた少年……エリックの腹部に命中した。ダニエルにはかすっただけだったが、エリックは腹部から血を流している。
「お前ら、人質ね」
「……っ!」
「おい、誰でもいい! 天才ヒーラーの《天使》連れてこい! お前が来ないと魔術師二人、死んじまうってな!!!」
辺りは一瞬静まり返った……が次の瞬間、大騒ぎになる。
「うわ、撃ちやがった!」
「《天使》……って、あの《天使ちゃん》?」
「危ないぞ、子供を避難させろ!!」
「待って、あの撃たれた魔術師たち大丈夫なのかよ、子供もいたじゃん」
「知らないよ、魔術師なら大丈夫なんじゃない?」
「誰か!《天使ちゃん》連れてきて!!」
「ダメだろ!《天使ちゃん》だってまだ小学生の子供だぞ!」
広場は騒然としている。
押し合いと火災で被害も出ているようだ。
楽しいはずのお祭りは一変、悪夢の始まりとなった。
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