ep.1 『tout guérir』《すべてを癒す》魔法
胸の前で、祈りを捧げるように両手を組む。
一度目を閉じて意識を、魔力を、集中させる。
目を開けると……怪我の状態が細胞単位で、診える。
「回復魔法『tout guérir』」
僕の目の前にいる親友、エリックの膝の怪我を中心として暖色の優しい光が包み、みるみるうちに怪我が治っていく。エリックやそこにいたクラスメートたちからは「わぁ!」「すごい……!」という感嘆の声があふれた。
すごいでしょ~。でもね、これって実は物凄く複雑なことをやっている。
まず損傷した組織を把握。表皮、真皮、皮下組織、一体どこまで損傷しているのか。そしてその組織を細胞レベルで再生していく。欠損した組織があれば、欠損部位を補うように細胞を補填、修復して……(早送り)
……以上ざっくり、これが僕の回復魔法。
体育のサッカーで転んだ、ちょっとした怪我。
でもよりによって丁度転んだ先に小石が落ちていて、ぱっくりと深い傷となっていた。
だけど。
……光の収束と共に、膝の治療は無事、完了。
「おわったよ」
「うわぁ、すごい……ロン、ありがとう」
エリックはそう言って、黒目がちな瞳を僕に向けてにっこりと笑った。
紺色がかった黒い髪をまっすぐ切りそろえた、物静かだけど律儀で正義感が強い、僕の幼馴染。
「どういたしまして。グラウンドに小石が落ちてたなんて災難だったね」
「ほんとだよ。でも、ロンのその魔法、本当にすごいね!綺麗だし、僕もそんな魔法だったらなぁ」
「ありがとう。僕はエリックの魔法、好きだけどね」
ここは魔術師専門の小学校。僕やエリックみたいに魔法が使える《魔術師》の小学生が通う。
だけどこの世界は、魔法を使えない《非魔術師》の方が圧倒的に多いんだ。
僕たち魔術師は、火や水のような自然を扱う《基本魔法》に加えて、一人一人変わった《特殊魔法》を持つ。これは個性みたいなものかもしれない。
僕の回復魔法はその《特殊魔法》で、アニメやゲームで見る《ヒール》みたいな魔法に近い。《guérir》ってフランス語で《ヒール》っていう意味だから、きっと一緒だね。あれって、魔術師や魔法使いがキラキラ〜って簡単に治しているみたいに見えるし、僕もそうだと思ってた。
でもね、実は物凄く複雑なんだ。
擦り傷や切り傷なら皮膚や血管の解剖を。
打撲や骨折なら更に皮下組織や筋組織、骨の解剖も。
内臓系がダメージを受けた場合は、内蔵の機能と解剖を、きちんと正しく知っておかないといけない。
それも人体に直接使う魔法だから、適当なことはできない。
失敗は……許されない。
それに『tout guérir』は完全じゃない。
『何でも治してしまう』と言われるこの魔法は、僕が知ってるものしか、治せないんだ。
はじめまして。
『tout guérir -すべてを癒す魔法 -』をお手に取って下さり、誠にありがとうございます❁¨̮
本作は小学生のロンが回復魔法を元に奮闘するお話となっております。
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よろしくお願いいたします❁⃘*.゜