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夢の片道切符

 夢の中に居た。



 夢の中で自分は列車の中に居て、自分以外誰も居ない中座席に座り、半ば寝転がる様な姿勢で上を見上げていた。



 列車の天井はまるで吹き抜けの様に透明なガラス張りで、そこから見える満月とその周りに鏤められた星々がいやにはっきりと光輝いて、最初それが天窓に描かれた絵であると勘違いしてしまう程だった。



 走り続ける列車。それに対して少しもその位置を変える事の無い星月夜の眺めに、ぼんやりと、ああ、月や星が何処までも着いて来る、などと理屈に合わない事を考えて、眠い目を開けたり閉じたりしながら、懸命になって列車に着いて来る月や星の動きを想像して、一人ほくそ笑んでいた。



 最初、それ等を絵と勘違いしてしまったのも無理は無い。見上げた先の月の姿は、空に張り付けられたキラキラに輝く丸い板の様に見えて、現実感に乏しい物に見えたのだから。



 例えて言うなら、祭りで見掛ける様な安っぽい偽物の金貨の様な、何処か胡散臭さを感じる物であって、其れが却って実際に使う貨幣とは違って、何処とも知れない世界で使われている、恐らくはどの場所からも遠い夢の世界で使われている、そんな特別な物なのだろう、そんな事を考えていた。



 止まる事無く何処までも走り続ける列車の心地好い振動に、夢の中でありながらウトウトと微睡んでいると、カチンッ、と音がして、それから何かが転がって行く音がそれに続いた。



 何だろうと目を開けて、音の先を追ってみると、今しも壁際でクワンクワンと音を立てながら止まる寸前と云った一枚の金貨が目に留まった。



 立ち上がってそこまで行って、拾い上げてみると、その表面には何やら意味の無い模様とも取れない細かい穴や隆起が刻まれていて、何処か見覚えがある筈なのに一向にそれが思い出せず、一体これは何だろうと喉元まで出掛かった答えにもどかしさを感じながらも、座席に戻り、ポケットに金貨を仕舞い、元の様に座席から少しずれて寝転がる様に上を見上げる。



 するとさっきまでそこに在った物が見当たらない。ポッカリと穴でも空いた様に、そこに在るべきものが何処にも見当たらなくなっていた。と、同時に、さっきまで自分を悩ませていた模様の正体に思い当たった。



 そうだ月だ、あれは月の表面だ。



 慌てて確認すべくポケットから取り出してみると、それは金貨ではなく、見た事も聞いた事も無い行き先を示した一枚の切符だった。



 支払いは為されたのだ。これよりこの列車は、何処とも知れない世界、恐らくはその世界からも遠い夢の世界へと行き先を変え、何処までもその場所へ向かって走り続けて行くのだ。





                             終

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