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星辰のパズル

 真夜中の殆ど灯の消えてしまった街の、一際高い建物の屋上で、他に誰も居ない中ベンチに腰掛けて夜空を見上げていると、普段は街の明かりに掻き消されて鳴りを潜めていた星々の光が、俄かに息を吹き返して一斉に輝き出し、見上げる自分が空一杯に鏤められた星空の中に迷い込んで、遠く地上を離れて宇宙の中で一人迷子になってしまったかの様な感覚に陥って来る。


 


 暫くの間その感覚に身を任せている裡に、何時だったか、不意に目が覚めて辺りが物音一つ聞こえない静けさに包まれて、自分がその中に徐々に沁み込んで行く様に思えて、もしかしたらまだ夢の中にいるのではないかと、不安を感じながら身を起こし、カーテンを開くと、其処に広がる星空の、まるで空がすぐ其処に在って、星に手を伸ばせば触れられるのでは、と思えて来る程の満天の、目に入る全ての範囲に広がる煌めく星々に誘われる様な感覚を覚え、その感覚に導かれるがままに窓を開けて、そのまま夢とも現とも知れない星の世界へと踏み出して行った……。


 そんな記憶が空いた心に滑り込む様に浮かんで来るのだった。


 


 そんな事が実際にあったのか、もしかしたら夢で見た光景を実際の出来事と混同して見分けが付かなくなった末に、さも当然と云った風に過去の記憶としてしまっているのか。


 何れにしてもそれは過ぎ去った過去という点で、其処に何の違いも無く、最早手の届かない記憶に過ぎない。



 記憶の中の星空は、見てる間に少しずつあちこち綻び出し、無数の立方体となって相互に入れ替わり始め、それが非常に滑らかに且つ物音一つ立てずに行われていた為に、見ている裡にそれがごく当たり前に推移している現象の様に思われて来て、知らずその光景を何の抵抗も無く受け入れ見入っているのだった。



 空一杯に広がる立方体群は前後左右、上下にとあらゆる方向に動き、絶えず位置を入れ替えて、それと共に移り変わる星図はさながら万華鏡の様に多種多様な文様を描くのだった。


 立方体は、常に滑らかに動いているかと云うとそうではなく、時折躊躇うかの様に動きが極端に遅くなったり、また考え込むかの様に暫くその場を動かなかったりと、まるで誰かがパズルを解いているかの様な動きを見せていた。


 


 そう云う事ならこれは随分と大規模な人数に依る物なのだろう。無数とも言える立方体全体を絶えず同時に動かすなどと云う動作は、とても一人や二人で出来る事ではない。


 同じく途方もない数の人々が、この作業にそれと知らずに従事している。そう考える方が自然じゃないだろうか? 


 これを眺めてる自分にしても、気付かない裡に、この巨大極まる宇宙規模のパズルの一部を、頭を捻りながら動かしていた、そんな夜もあったのかも知れない。



 今、人々と云う言い回しをしたが、この遊戯に参加しているのは何も人に限った話ではないのでは? と思い至った。


 縁側で日向ぼっこしながら外の様子にじっと見入る猫やら、草の上を這いながら一心に葉を食むのに余念の無い尺取虫、いや、生き物のみならず、例えば道を歩く際にふと見かけた石や側を流れる川の水、果ては空を彩る星に至るまで、意識するしないに関わらずパズルのピースを各々受け持ち、時にはピースその物として何れ至るのかも知れない〝解答″を目指して動いているのではないか、などと云う考えが頭を過る。



 或る晩、空を見上げてふと目に留まった星に、何故だか分からないが妙に懐かしい様な既視感を覚えた時、それは何時かの夜、偶々隣り合ってそれぞれ受け持つパズルのピースを巡って、ああでも無い、こうでも無いと、互いに誰だか分からないまま熱心に意見を交わした間柄かも知れないのだ。




                                  終

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