表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

ピグマリオン

 街の外れの小さな博物館。今では訪れる者も稀になったその場所に、足繁く通い詰める男がいた。



 お目当ては、館内の隅に奥ゆかしく展示されているニンフェットの像。大理石に写し取られた、少女の瑞々しい肢体。薄目を開けて、恥じらう様に結ばれた唇。



 その姿に、一目見た時からすっかり虜になってしまった男は、愚かにもその少女像に恋心を抱く様になってしまったんだ。



 叶わぬ恋さ。



 でも、燃え盛った青年の恋心、それで諦め切れる訳もない。恋に焦がれて狂わんばかり。少女の台座に縋り付き、声を殺して泣いたのも、一度や二度の話じゃない。



 その挙句に、それ迄一度も祈った事の無い、名もなき神々に祈りを捧げたんだ。どうか、彼女に人としての生を吹き込んで欲しい、とね。



 慈悲深く公平な神々は、その声に耳を傾けた。願いは聞き遂げられた。



 見る間に、少女像に絡み付いた蔦の葉が緑に色付いて行き、その花が芳しい香りを放ち、周りに色鮮やかな蝶々が飛び立った時、少女は目を見開いて、愛らしい笑みを浮かべ、血潮流れる証の赤味を頬に映した姿で立っていた。



 こうして、二人は恋人となったんだ。



 男の喜びたるや、想像するに難くないだろう。そうさ、少なくとも最初の内は。



 だけど男は気付いてしまったんだ。彼が本当に愛していたのは、生身の意思を持つ彼女ではなく、永遠に変わる事なく在り続ける、冷たく固い大理石の彫像としての彼女だった事に。



 厚顔無恥で勝手極まる事に、男は神々に再び願いを掛けた。少女を再び元の大理石の像に戻して下さい、と。



 驚いた事に、願いは聞き入れられた。ただ、慈悲深く公平な神々はその前に、かの少女にも何か願いは無いか、と問いかけるのを忘れなかったのさ。



 少女は願った。願いは聞き遂げられた。



 こうして、この博物館には、新たな展示物が一つ増えた、と。これはそういう話なのさ、ウム。




                                 おしまい


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ