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望むままに  作者: 傭兵
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1-2 少女は新天地で邂逅する

ポートイースト、ファイゼン王国において南東の国境に面する領地に存在するこの都市は戦争に用いられる砦のような建物を除けば最も国境に近い街である為、常駐する兵士の数も多い

また、海に面している都市でもあり、漁業も盛んだが、最も力を入れているのは海運業だろう


数百年前にはこの国に属してない時代もあったそうで、数年前に終戦となった戦争で狙われていた地域の一つでもある


そんな町にやってきたレーミルはまず騎士団の駐屯所へと向かおうと決める


赤鷲騎士団の駐屯所ではなく、騎士であるならば誰もが利用可能な施設の事で、この国の一定以上の規模を持つ町であればどこにでもある施設だ


主な利用目的としては、遠征任務中の騎士団の宿泊であったり、団の違う騎士同士の交流の場であったりと様々ではあるが、騎士の案内もその役割の一つである


基本的に騎士駐屯所は城門から見える位置に設置されており、看板も共通のものが使用されているため、場所を見つけるのはそう難しくは無い


レーミルは城門で身分証代わりの騎士学校卒業証を提示し、町の中に入ると同時にその施設を発見した


中に入る前にまずは身なりの確認をする

人は第一印象で8割が決まると言っても過言ではないと聞いた事がある

もちろん外見だけで判断するのはあまり褒められた行為ではないし、戦闘においてそれは致命的な隙になりうる可能性も秘めている、だがあくまでそれは理想論

実際、初対面であれば内面を見通せる筈もなく、外見から判断することになるのだからそれを整えるのは極めて重要な事である


城門近くにあった宿屋の窓ガラスに映る自分の姿を確認する


髪型は良し、いつも通りの金色で髪の毛は肩にかからない程度で問題は無い

服装はどうだろう?始めて入る駐屯所なのだから正装で入るべきかもしれないが、基本的に騎士の正装というものは整った軍服か、パレードに使用される儀礼的な全身甲冑かのどちらかとなるが、今の服装はどちらかと言えば重量が嵩まず、一見するとただ厚着をしているだけの様にも見えるコートの下に革製の胸当てとシャツ、下半身はある程度旅に耐えるだけの耐久性を持った黒のズボンと関節に保護具を装備している


この外見では騎士と言うより冒険者に見えるだろう、少し相応しくないかもしれない


そこで気づいた、良く考えれば数日の旅の直後、乗合馬車で来た為に汗はあまりかいてないだろうが臭い可能性はある

自分の服を引っ張って匂いを嗅ぐが、自分の体臭は自分では気づきにくいと聞く

だがレーミルの鼻はコートの下に来ているシャツの胸元や腕、腹など、あらゆる場所から汗臭さを感じ取ってしまう


これは拙い、急いで身を清めなければ、と思ったタイミングで声をかける人物が現れた


「おいちょっとそこの嬢ちゃん」


声を掛けてきたのは熊とでも形容するのがふさわしいであろうガタイの良い人物

レーミルは思わず悲鳴が漏れそうになるのをグッと堪え、騎士としてかくあるべきという理想像をなぞり、行動する


「そこで止まりなさい、要件があるならば聞きますが、警告を無視した場合、然るべき措置を取ります」


犯罪者を目撃したならば問答無用で捕らえるのが基本であるが、不審者ならば最初にすべき行動は警告、そして問答だ


すると目の前の人物はため息をついて言った


「なんでもいいけどよ、うちの店の窓先で百面相すんのはやめてくんねぇか?」


レーミルはその言葉の意味を一瞬理解することが出来なかった

そして冷静となり辺りを見渡す

宿屋の看板、店の入口、そこに突然現れたガタイの良い男性、反射率の高い窓ガラス、よくよく見れば中に見えるテーブルに座るニヤついた4人の男女とその奥からも感じる視線


「あっえっ!?」


漸く事態を飲み込んだレーミルは先程までの行動を思い返す

髪や服装を気にしていたのはまだ良い、恥ずかしいが、服装を気にするのは人として当然のことだ

しかしその後が良くない、特に上着の腹の部分を顔まで持ってきて匂いを嗅いだ時だ、おそらく胸元までは見えていないだろうし、見えていたとしても胸当てをしているので致命的では無いはず、それでも大衆に素肌を晒したという事実に変わりは無い


「違っ!身なりを気にしただけでっ!カーテンが閉まってるって思って!」


そう、その窓ガラスはとても反射率が高い上、店内は少し暗めの雰囲気の酒場となっている


そのせいでレーミル店の内側はカーテンがかかっていて見えないと判断、加えて寒くなったこの季節、コートを着用していた

窓ガラスに向かってシャツを多少捲った程度であれば周囲から見られてもコートに隠れて肌を露出することは無いだろうと思ってしまった


「すみませんでしたぁぁぁぁ!!!」


そして騎士らしい振る舞いを意識したことの気恥しさ、素肌を見られたことの恥ずかしさ、店主からの視線のいたたまれなさと店内からの嫌な視線に耐えかねたレーミルは全力でその場から駆け出した



逃げ出した先は騎士駐屯所、駆け込んできたレーミルを見て受付に座る人物はなにやら驚いた顔をしている


「君、どうしたの?事件?」


本来事故や事件の通報をすべき場所は治安維持の兵士が務める城門付近の兵舎や街中を巡回する衛兵であり、騎士団の駐屯所では無い

だが突然人が駆け込んできたのだ、事件のひとつでも疑ったのだろう


「い、いえ、すみません」


熱くなった頭を冷ましつつ、冷静に門でも提示した卒業証と赤鷲騎士団の資料を提示して受付の男性に問いかける


「内定騎士のレーミルと申します!赤鷲騎士団の駐屯所の場所を案内願えればと参りました!」


レーミルは学生時代に敬語のテストで5点を取ったことがある

100点満点中の5点だ、それから猛勉強をしたとはいえまともな敬語に変換されているかと不安を感じながらも最悪意味は伝わってくれと願う


「あぁ、赤鷲騎士団………そっか……見たところ期日まで5日くらいあるようだし、少し観光してきたらどうだい?

騎士団に所属してからだとそんな暇があるか解らないし」


何やら憐憫の眼差しをしているようにも見えるその受付はレーミルに対して堂々とサボれと宣言している


レーミルはその事が少し意外ではあったものの、すぐに納得する

アルダン先生から聞いた話が真実だった場合、確かに命の保証がなされるとは思えない

遊べるうちに遊んでおけという事か


だが、騎士として行動をするならば答えは決まっている


「いえ、心遣いは感謝いたしますが不要な事です、それにこの時間からでは宿を探すのも難しいでしょう

今日はこのまま赤鷲騎士団駐屯所へ向かい、そこで宿を取ろうと考えています」


あくまで事務的に、ただし相手は騎士の先輩だ

その行動に対しての感謝の意を忘れず伝え、目的地を聞き出す

だがその受付が答えを言うことは無かった


「なんだあんたうちの新人だったのか!話は聞かせてもらったぜ」


そう言いながら駐屯所に入ってきた男、騎士ともあろう人が盗み聞きとは如何なものかと思いはするものの、相手はほぼ確実に上官であり、生意気だと目をつけられたくは無い

加えて、1週間近い旅路で疲れてもいる

なるべく無難な対応を心がけ、声をかける


「そうですか、私は内定騎士のレーミルです、赤鷲騎士団の駐屯所をご存知なのでしょうか?」


「レーミルか!宜しい!では着いて来なさい!」


まるでマントのような丈の長いコートを翻し、狭い室内にも関わらず大きな声でそう叫ぶと、その男は駐屯所から外へと出ていく

レーミルも受付の人物に感謝の意を込めて頭をさげると、その男の背後について行った


その十数秒後、レーミルはその決断を激しく後悔することとなる


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