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望むままに  作者: 傭兵
2/3

1-1 騎士を目指す少女は名指しで指名される

世界の形を知っているか?


この問いに対して、ほとんどの人々が『知っている』と答えることだろう

知らないのは教育を受けていない、あるいは受けられなかった人々か、もしくは陰謀論のような俗説を信じ、本当の形を知っていてもそれを嘘だと断じている人々くらいのものだ


だがこの質問を『見た事があるか?』に変えると途端に数は減っていく

実際の所皆が知っているのは世界の形状という情報だけで、精々それがテストに出た時は教わった通りに答えれば点が貰えることが重要なのだ


何故、今そんなことを思い出しているのか、事の発端は数ヶ月前のこと、わたしがまだ学生だった頃にまで遡る




ーーーー





誰しも学生の頃に職員室へと呼び出される経験はあるかと思う、それは個人の面談だったり、何かしらの不手際によるお叱りであったり、個人によって理由は様々あるとは思うが、そのどれもが苦い思い出に彩られている


だがその日は呼び出しに応じると向かった先は職員室にある先生の机ではなく、応接室のような場所だった


勿論この学校の最上級生である私は知っている、この部屋は来客に教師が対応するだけではなく、空いている時間ならば生徒との1対1での面談や他者に話を聞かれたくないであろう配慮をするために使用される場所である事を


そして内心安堵する、少なくともお叱りであればそのような配慮をこの先生がするはずは無い

いや、先生以外の教師でもしないだろう、恐らくとしか言えないが


そして前置きも無く本題へ入り、その内容に驚愕する


「赤鷲騎士団ですか?」


残念ながら聞いたことの無い騎士団だが、騎士団への勧誘というものは心を躍らせる

こうして個人に面談をする形でこの騎士団を提示しているということは少なくとも自分の所属するクラス、あるいはこの学校でこの勧誘が来ているのは自分だけなのだろう


自分としては30年前に王都奪還の主力を担い、今も尚国内の各所で活躍が聞こえてくる金獅子騎士団を志望しているが、平民である自分には過ぎた夢であることは自覚している

それなら態々名指しで指名してくれた、明確に私を欲しがっている騎士団への参加も吝かでは無いというもの


だが、この国においての義務教育の3年間の期間ずっと担当してくれている先生は何やら渋い顔をしている


「この話は断った方が良い」


このアルダン先生は極めて厳しい先生だ、訓練の際弱音を吐くだけで訓練の時間を倍にするような鬼のような先生だ、むしろ鬼そのものなんじゃあなかろうか?

だからこそ疑問に思った、この先生ならば断る素振りを見せた時点で激しい叱責が待っていると思ったからだ


それこそ『せっかく直接指名を受けるという栄光を無下にするとは何事だ!』などと言って先生との模擬戦100連戦を課してくるかと思っていた


「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」


「そうだな、まず赤鷲騎士団等という騎士団の存在を聞いた事がないという点だ、それが意味する所を答えろ」


ただ答えを教えるのではなく、自分で答えを導けるよう教育をしてくれるのはありがたくはあるのだが、答えを間違えれば拳骨が飛んでくる、首筋に嫌な汗が滲むのを感じつつ、答えていく


「はい……可能性としては……新設の騎士団である、若しくは先生でも知らないような、例えば普段は人員の募集をしていない、目立った功績もない騎士団である、あとは噂に聞く汚れ仕事を担う騎士団でしょうか?実際にそのような騎士団が存在するのかは疑問ではありますが」


「よろしい、では次に考えるべき疑問は、何故ウィス騎士候補生だけにこの話が来ているのか、という点だ」


やはり私にだけ指名が来ている事が今情報として明かされた、確かに疑問ではある、別に私はこの学校で1番の成績を収めているという訳では無い

騎士団という、貴族や国が設立し金を受け取って活動する組織としては優秀な人材こそ求めている筈、私は恐らく総合的には学年で5~10位、得意な実技分野でも学年3位、自分だけに声がかかるのはおかしい


「であれば能力以外の点を重視して募集を行っているという事ですね……なら……出身でしょうか?」


ここレーゼン騎士養成学校において身分差は校内に限って無視される

だからこそ失念していたのだが、自分より上位の成績を収めている人物はみな貴族だ


「恐らく、としか言えんがそうだろうな」


ここで先生が新たな情報を開示しないということは、今ある情報だけでもこの先の疑問の答えが導き出せるということ

なぜ貴族が外されるのか?その答えは難しくは無い


「汚れ仕事ですか?」


拳骨が落とされた


「前にも授業で言ったが、その噂はデマだ、仮に真実だとしても学校からの募集ではなく騎士団からの引き抜きという形で人員の補充がなされる、表向きは退職した事にしてな、俺ならそうする

それに前に授業で言っただろう?平民のみで構成される騎士団は死亡率が高い、危険性の高い仕事をより多く振り分けられるからだ」


それは『平民のみ』で構成される騎士団の話であって『平民を指名して募集している』騎士団とは限らないじゃないかと言いたい


けど、言われてみれば平民のみで構成されている可能性の方がずっと高いことは理解出来る為、薮蛇にならないよう口を噤んだ


「俺がこれを断った方が良いと言った理由は理解したな?では次に業務内容を予想してみろ、新設の騎士団であると仮定した上でだ」


業務内容の予想と言われても検討がつかない

危険度の高い仕事ともなれば何処かの貴族の私兵では無いだろう

おなじ理由で王城務めの近衛騎士という説もない

となれば文字通り国家直属の騎士団、危険度の高い仕事と言えば魔物や魔獣の住まう危険領域の解放、亜人の排除、戦争への参戦、といった所だろうか?最も、現在我らが国、ファイゼン王国とか戦争中の国は存在しない為、実質二つとなるのだろうが


「最も可能性が高いのは亜人の排除でしょうか?東の亜人達が活発に行動しているとの話を耳にした事があります」


亜人、それは辛うじて人の形をしておきながら人とは呼べぬ程悪辣な知性、思想、外見を持つ蛮族の総称だ

現在人類として認められている種はヒューマン、エルフ、ドワーフの3種であり、亜人としては14種、亜人とすら認められず、邪猿種と分類されている種族もいるが、その基準は衣服を作成する能力の有無だ


衣服とは身を守るための手段であり地位や立場を示す象徴でもある、それらの有無は文化の有無と判断されており、例えばゴブリンのような種族は邪猿種として扱われる


「違うな、亜人の対処は黄梟騎士団の主導で行われる、だが情報収集を怠っていないのは評価点だ、1つヒントを与えよう、騎士団の名の由来について考えろ、授業で既に教えたはずだ」


違うと言われた時点で拳骨を警戒したが、何も無いことに胸をなで下ろしながら改めて考える


騎士団の名の由来は幾つかの法則があったはず、確か……色と獣の名前が着けられる


色に関しては暖色である程国外の問題に、寒色であるほど国内の問題に対処することが多かったはず、金や銀等の金属名は数少ない例外で、特にそういった不文律に影響されないと聞いた


動物に関しては例外も多いが攻めるならば肉食の、守るならば草食の名が付けられる場合が多い

他にもあったように思うが、いまいち記憶が不確かで思い出すことが出来ない


しかし、現状の法則に乗っ取るならば『赤鷲騎士団』は国外の様々な場所で攻める騎士団、という事になる


それの意味するところは


「まさか戦争を仕掛けるのでしょうか?」


「赤鷲、文字の通り読めば戦争を仕掛ける可能性が最も高いだろうが、俺の予想は異なる

南に隣接している危険領域である『世界の端』は地図上ではファイゼン王国の領土ではあるが、実効支配はできていない、理由はわかるな?」


「はい、世界の端とは世界で二番目に危険とされる領域であり、多数の魔物や魔獣が原因で開拓が不可能であるからです」


「そうだ、つまりはあそこも国外と見ることが出来るわけだ」


なんだか嫌な予感がしてくる


「更に言うなら、数年前に1つ話が出ていたんだ

10の層からなる世界の端は確かに驚異が高い、だが凶悪な魔獣は6層とら7層の辺りに集中しており、1から3層及び10層であれば事前準備次第で拠点の建設は現実的だとな」


そんな前の構想であればここ数年の卒業生から選ばれるはず、何かしらの理由で凍結されていたのだろうか?


「何が現実的だってんだ、中央のバカ共はどうやら空想の世界で生きているらしい、そんときゃ何とか止めれたんだが……」


「って先生のせいですか!!!」


どうやら数年越しでの計画と相成ったのは目の前の人物に原因があったらしい

勿論年上の先輩が死んでも良いという気は無いが、誰しも自分の身がいちばん可愛いものだろう


「だから断っていい、なんなら俺の名前も連名で出してやる、但し、断ればひとつ問題が発生する」


断る決心を完全に固め、それを先生に伝えようとするもそれを手で制される

命より大事なものなどあるはずも無いのだ、どんな問題があったところで気にしないのだが


「いいか?騎士団の構成員には平民もいる場合はある、だがそれを設立したのは間違いなく王族だ、発案が貴族、あるいは平民だとしても騎士団を名乗ることが出来るのは王族からの承認を得た場合のみ、確実に王族は関わっている

もし、この指名を断ればお前は王族の頼みを拒否する平民として知られる訳だ」


聞きたくない


「まぁ要は、騎士としての人生を諦めるか、命をあきらめるかの二択ってことだ、勿論どちらを選んでもそうなるとは限らない、上手くいく可能性もあるが、希望的観測は捨てた方が良いのは間違いない、安心しろ、拒否した時の命の保証はする、逃げる事になる可能性はあるが」


私は膝から崩れ落ちそうな気持ちでいっぱいだったが、既に座っている状態では膝の力を抜こうとも崩れ落ちることは出来ない


仕方が無いので喉の奥からやっとの思いでか細い声ながらも返答の言葉を捻り出した


「ゃりますぅ」






どうしてこうなった、いくら考えようともその答えはわからない


私は少なくとも学生生活の中では真面目で努力家な優等生であった筈だ

成績は言わずもがな、私生活においても街の兵士のお世話になるような事は無かったと断言出来る


強いて言うならば、武器だろうか?

騎士という身分は儀式的な行事を覗いて任務中の武器が制限されることは無い、だからこそ母の形見とも言える武器、銘は知らないが杖槌とも言うべき特異な武器を使用していた

だがそれだけで疎まれるとは思えない


であれば身分だろうか?

確かに私は平民でなんの後ろ盾も無い、けれども校内において寄せ付けるものの居ないと言って過言ではないレベルの成績を収めた分野もある、こんな左遷のような扱いを受ける言われは無い


となれば性別か?

確かに騎士という職は男所帯、女性だけで構成される騎士団は片手で数え切れる程度には少ないだろう

だがそれ以前に戦闘を主とする職務だ、実力主義であるべきだろう


考えれば考えるほどに苛立ちが募っていくが、この怒りをぶつける場所も無い



落ち着かなければならない、考えるべきは不満ではなく未来の事だ

大丈夫、理不尽には慣れている


そうして、気持ちを鎮めるためのある行動を行った

20240923 修正しました

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