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令嬢、気づかれる

「ね、メイベル様、昨夜の夜会はいかがでしたか?」


「ぜひぜひ、お話を聞かせてくださいな」


 夜会から一夜明け、私はいつも通り教会での奉仕活動に参加していた。今日は、今度行われるバザーで売る陶製のブローチを作る日であり、私もそれを手伝うことになっていたのだ。


 席に着くや否や、皆が私を取り囲むように集まってきたのだった。


「昨日は初めての参加だったので、あまりたくさんの人とはお話しできなくて……」


「あら、最初はみんな上手くいかなくて当然ですわ。ちなみに、どんな方とご友人になられましたの?」


「えっと……カルダニアの宰相閣下の御令息のグロウ様という方と……」


 その一言だけで、すでに場はざわつき始めていた。


「……グロウ様と?」


「カルダニアの、エドヴァルド王太子殿下……の、お二人ですわ」


「え、えええええ!?」


 エドヴァルドの名前が出た瞬間、教会の建物自体が揺れたんじゃないかというほどのどよめきが起きたのだった。彼は大国の王太子なのだから、仕方あるまい。


「凄い、凄い、初めての夜会で、大収穫ではないですかっ!!」


「流石、メイベル様!!」


「ああ、羨ましい限りですわ!!」


「ま、待って待って、落ち着いてったら」


 興奮気味に前のめりになるご令嬢達をなだめながら、私は慌てて言葉を続けた。


「グロウ様は、父上と宰相閣下が友人だからという単なる偶然で……王太子殿下だって、ただ私の運が良かっただけですわ」


「偶然だってなんだって、凄いことには変わりありませんわ!」


「おめでとうございます! 私まで嬉しいですわ!」


「そんな、お、大袈裟ですわ」


 私が何と言おうと、周囲の祝福ムードが落ち着くことはなかった。皆が皆手を叩いて、まるで自分ごとのように喜んでいたのである。


「とりあえず、ブローチ作りを始めましょう? バザーに間に合わなかったら大変ですわ……!」


「もっと詳しくお聞きしたいのですが……仕方ありませんわね。また今度、ゆっくり聞かせて下さいな」


 そこまで言うとようやく、みんな持ち場について作業を始めたのだった。


 粘土を型抜きしながら、私は頭の中を整理し始めた。


 夜会で友人を作れるとは言っても、身分差がある場合は、当然ながら制約が存在する。双方の両親の同意を得た上で、どちらかの親立ち会いの下でグラス交換をしなければならないのだ。


 そして、カルダニア王室と我が公爵家は直接的な繋がりがなかったため、共通の知人である宰相が今回の件を取り持ったのだという。


 となれば、エドヴァルドはわざわざ国王陛下と王妃殿下の了承を得た上で、我が家と繋がりのある人物を探し、仲介役を依頼したということになる。それが恐ろしく手間が掛かることであるのは、明白だ。


 エドヴァルドは、私がアルビナだとはまだ気付いていないはずだ。ならばなぜ、ここまでして彼は私を友人にしたのか。それはいくら考えても分からぬことであった。


 とはいえ、友人関係を結んだとしても、そのまま親しい仲となっていくとは限らない。社交辞令としてグラス交換したものの、それっきりとなる場合もあるのだ。


 いずれ大国を担うとなれば、交友関係は広いに越したことはない。もしかするとエドヴァルドは、将来のために顔見知り程度の友人をたくさん作るように、と両親に言われているのかもしれない。そういうことならば、納得がいく。


(私なんて、大多数の中の一人にすぎない。きっとそうに違いないわ)


 しかし。そんな淡い期待はすぐさま裏切られることとなる。


 帰宅すると、カルダニア王室から私宛てに手紙が届いていたのである。


+


「どうぞ、紅茶の冷めないうちに」

 

「あ、ありがとうございます……エドヴァルド王太子殿下」


 必死に笑顔を作るものの、恐らくそれは、とんでもなく引き攣ったものとなっているだろう。


 カルダニア王宮の庭園にあるガゼボの下、私とエドヴァルドは丸テーブルを挟んで向かい合っていた。


 届いた手紙は、カルダニア王宮への招待状であった。当然断ることもできず、他にも招待客がいるだろうと考えていたら、まさかの私と彼の二人きりだったのである。


 小国の一貴族の娘と、大国の王太子が円卓を囲んでいる。それは通常ではあり得ないことであった。


「紅茶は、お口に合いましたか?」


「はい、とっても美味しゅうございます」


 正直、緊張のあまり味など分かったものではない。もしここで失礼な態度をとってしまったならば、その影響は私の家族にも及んでしまう。綱渡りをするような心持ちで、私はエドヴァルドと相対していた。


 私がすべきことは、彼と親交を深めることではない。アルビナだと気づかれぬように、ただただ無難にやり過ごすことだけだ。


「それは良かった」


「ふふっ」


 どうやら、今のところはエドヴァルドの気分を害してはいないらしい。内心ホッとしていると、彼は傍に控えていたメイドにちらりと目配せしたのだった。


 するとメイドは、呼び鈴をテーブルの隅に置いて立ち去ったのである。


「呼び鈴を鳴らすまでここに人は来ないので、ご安心ください」


「エドヴァルド王太子殿下、それは一体……?」


 何となく嫌な予感がして、私はおそるおそるエドヴァルドに問いかけた。


 そして、その予感は見事に的中してしまったのである。


「またお会いできて光栄です、アルビナ様」


 そう言って、エドヴァルドは口元に笑みを浮かべたのだった。

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