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仮初めの双子

掲載日:2023/10/05

6/8 12時 誤字報告ありがとうございます。

大変助かります(*^^*)




結婚式が終わり嫁いできた夜に、夫となるサウジー・ターミレスが言った。





「僕は性的に人が愛せないんだ………だから悪いんだけど、夜は別々に寝たいんだ……………騙したようで済まない……………」

辛そうな顔で、部屋を去るサウジー。



初夜に1人、夫婦の寝室に取り残された妻となったリュシュナ。


どうやら、夫は他人に対して性的欲求をまったく抱かない無性者というものらしい。


幼馴染みだけど、恋愛感情も愛情も持ってくれている愛しい人。

私の両親が3か月前に事故で亡くなっても、彼の両親と共に私を支えてくれた優しい人。

彼の両親も親が亡くなった私を邪険にせず、娘のように慈しんでくれている。

1人娘の私の伯爵家に、ターミレス子爵家のサウジーが婿に来る予定だったので、お互いに益もあるものだ。

今の私には身近に頼る者もなく、断るという選択肢は無いも同然だった。




「もっと早く言って欲しかったわ。流石に、抱かれない覚悟は出来てなかった」


普段から愛を囁かれ大切にされていたから、予想できなかった事態に鼻の奥がツンとした。


そして涙が一筋流れると、止めどなく溢れてしまう。



「うぐっ、ずずっ、ふうっ………

なんで、なんで、こんなことに………お父様……お母様……

ふえぇん、うっ、うっ………………」


広すぎる夫婦の寝室で、膝を抱えて亡くなった両親を思って泣いた。

纏まらぬ思考で一睡も出来ない。

もう一滴も涙は出ないと思う程泣いた気がした。


翌朝、朝食の為に食堂に行けば、サウジーと彼の両親が笑顔で微笑んだ。

「おはようリュシュー。よく眠れた?」

「今日はゆっくり起きて良かったのに。疲れているでしょ?」

「ははっ。僕の顔が見たくて頑張ったのかな?」


爽やかな笑顔で、挨拶をしてくる夫。

彼の両親も同様だ。

夫にとっては、秘密を告げたことでもう安心したのだろう。

でも私は、彼に何も返答はしていないのだが。


「おはようございます、皆様。今日も良い天気ですね」


何食わぬ顔で、挨拶を返す。


ここは私の邸ホムス伯爵家で、両親の事故後何故かサウジーの両親はここで過ごしていた。

当初は、心配してくれたのだと思っていたのだけど…………


新妻が不機嫌では、世間体も悪いのでいつも通りに振る舞う。

サウジーと不仲だと思われれば、使用人達に心配を掛けてしまうもの。


ただ此処は私の家。

これ以上の勝手は許さない。


「お義父様、お義母様。御心配お掛けしておりましたが、私はサウジーと籍も入れましたし、悲しみも乗り越えられました。子爵家にお戻りになられても大丈夫ですよ。今までありがとうございました。感謝しております」


私は執事や侍女、他の使用人達と頭を下げて礼をする。


私の為に、領地の政務も滞っておられるでしょう。

本当に有り難いことでした。

心を込めて伝えた。


「ああ、そうだね。そうしよう。サウジーを頼んだよ」

「何かあれば言ってちょうだいね。直ぐに手伝うから」


やや焦りながらも、自宅へ戻ることを承諾する義両親。

サウジーは急いで帰らなくても良いのではと言うも、私はこれ以上の御迷惑は掛けられないと固辞したのだ。




そもそも、何もかもおかしいのだ。

昨日、眠れないお陰でいろいろと考えられた。

初夜を断られたことがショックだったが、そこからがおかしい。


婿とは、悪く言えば種馬だ。

婚約破棄や離婚の原因になりうる。

家の存続の為の制度なのだから。


それを婚姻後の初夜に言うのは何故?

重大な瑕疵のはず。



でもサウジーは私に告げた。

私は承諾していないが、彼はもう受け入れられたと思っている雰囲気だ。

こんな重大なことなのに、どうして笑っていられるの?


答えは私を嘗めているからだ。

男女の交わりがなくとも、周囲には愛を囁いたり口づけをする所は見られている。

仲の良い状態だと思われているだろう。


それなのに子供が出来なければ、私のせいだと思われるかもしれない。

彼が無性者だと話しても、彼が否定すれば私の虚言だと思われるだろう。


よくよく考えると、私の立場はとても危険だと思った。

彼の行動が巧妙すぎるからだ。


確かに彼は優しいし、両親の事故後は力づけてくれた。


でも事故になる前に、彼との婚約を考え直すと両親が言っていたことも思い出した。



サウジーのターミレス子爵家には、サウジーの他に兄がいる筈だが、一度も顔を合わせたことがない。 兄がいるから弟の彼が婿に来ることになっていたのに。


兄の話を、1つも聞いたことがないのだ。

ただ兄が、前妻の子だと言うことしか。


何故だろう?

彼とは6才の頃から関わりがあったのに。


そして彼の両親もおかしい。

此方にいた時に購入した物を、伯爵家のつけにして散財していたのだ。

私とて跡取りとして育った娘。

請求書を見れば直ぐに気がつく所業。

家令だって報告をあげてくる。


現在伯爵家を管理運営しているのは、私だから。



ああ、こんな悪辣なこと………

彼らには第三者が関与していそうだ。



お婆様に相談してみよう。

私は文をしたため、遠方に暮らす数少ない味方に送ったのだ。



案の定彼は無性者なのを隠す為か、夜の生活が順調であるかのように愛しているような話を吹聴していた。


この時点で、白い結婚と言う話は信じてもらえないだろう。


そして彼は、実家の経営が上手くいかないと金銭を持ち出し始めた。執事に調査を依頼しても、そのような事実はなかった。


代わりに得た情報は、女性達の影。

複数の女性に貢ぎ夜を共にし、その中の1人に執心していたのだ。

ピンクブロンドの童顔な可愛らしい女性。

豊満な胸部を彼の腕に当てて、寄り添って歩いている。


とても無性者には見えない。



『ああ、私は嘘をつかれていたのね。表面しか見ていなかったせいね、きっと』

彼は耳障りの良いことを囁き、結婚前はいつも私を優先してくれた。

腰まであるストレートのプラチナブロンドが綺麗で、紺碧の垂れ目で微笑む私の王子様だった。


でも今は私だけが仕事をして、彼は家に居ない。

夜も別室なので、朝食でしか顔を合わせない。

朝だけでも顔を見せるのは、せめてもの義理か様子を窺う為なのか?


そんな状態で3年が経とうとしていた。


ある日、サウジーの両親が伯爵家に訪問して来た。

「ねえ、リュシュナ。もう結婚して3年だし、子供が居ないと家も伯爵家も困るでしょ。不満はあると思うのだけど、お妾さんにお願いしてはどうかしら。ええ、ええ。勿論、子供は貴女の子として届けるわ。育てるのはお妾さんがするし、貴女はそのまま伯爵家を守ってくれれば良いのよ」


「そうだな。一番は家の存続だ。リュシュナだってこの家を潰したくはないだろ?」


きっとこの人達は知っている。

私とサウジーに、男女の営みがないことを。

知っていて尚、いいえ元々完全に乗っ取りを考えて、私の血を入れないようにしているのでは?



「お妾さんのことは待って下さい。もし子が出来ずとも、私の遠戚に心当たりがあります。手紙で連絡を取っていますから」

そう言えば、2人は此方を睨んでいた。

既に取り繕うことを止めたのだろうか?


私が手をこまねいていたと思っていたんだろう。

実際あまり良い状態ではないことは確か。

お婆様から手紙の返答は得られていない。

密かに離婚できる情報を集め、弁護士と相談していたくらい。

だが、決定的なものはまだ得られていなかった。

最悪、純潔の証を教会で調べてもらうことは出来るが、まだ矜持が許さない。


子爵家の跡取りは彼の兄が考えることだろう。此方は子が出来ないことで離婚してもらっても良いのだ。婿のサウジーに妾まで宛がう必要はない。彼には伯爵家の血が入っていないのだから。



どうやら義両親の思惑は外れたらしい。

そこにサウジーが、揚々として現れた。


「話は決まったの?早くブランの部屋を用意したいのだけど」


義両親は首を振り、サウジーを見た。


サウジーは地団駄を踏み、顔を赤く歪ませた。

「なんでさ。どうして承諾しないのさ。ブランの子は可愛いから皆が喜ぶよ。リュシューの醜い赤ん坊より、可愛い方が良いのに。ねえ、そうだよね。リュシュー」

息を切らし、ハアハアしているサウジー。


「お妾さんが好きなら、離婚してからにしてくれない。私は貴方の子はもう要らないわ。離婚してください!」


私はもう聞いていられなくて、離婚を切り出した。


「なんだとー! リュシューの癖に。僕に惚れている癖に。しないぞ、離婚なんて。ブランに贅沢をさせてやるんだから。その子供にだって。お前は僕の為に、死ぬまで尽くして働けば良いんだ」

はははっと大声で笑うサウジー。



そのままの勢いで、私は屋根裏に閉じ込められた。

「出して、出してよ。何を考えてるの?貴方正気なの?」

ドアをドンドン叩き、扉を開けるように言うが応じてくれない。


屋根裏の誇りまみれの場所で途方に暮れる。

其処には、所狭しと年代物の品物が無造作に置かれていた。

暗いけれど、目が慣れてくれば見えるようになる。


「こんな所があったのね。来たことなかったもの」


最初は暗くて不安だったが、慣れれば落ち着いてきた。

置いてある物は、いつか使用したのを見たことがある懐かしい物ばかりだったから。


そして意図して置かれたのか、6対(12枚)の鏡が向かい合っていた。


「合わせ鏡ね」


その鏡は少し広い場所に置いてあり、互いに鏡を映すだけ。

小さな窓からの光で、辛うじてそれが見える。


鏡に向かって進む光は鏡の銀の膜にぶつかって反射し、それが鏡に映され続ける。



リュシュナは壁に寄り掛かり、骨董品の古いタンスに入っていた父のコートにくるまり床に就く。


翌日そこから出されると、家令を初めとする使用人が解雇されていた。 新たな使用人とピンクブロンドの女が、サウジーと共に私をニヤニヤ眺めた。


「今日からここに住むブランだ。使用人も全員解雇したから、お前の味方はもういないよ」

「奥様、ごきげんよう。いつも、あたしの為に働いてくれてありがとう。涙が出るほど嬉しいわ」

ブランはリュシュナに近寄り、肩に手を当てて頬にキスをする。


「な、何をするのよ」

慌てて頬を拭うリュシュナだが、それを見てブランは嘲笑う。


「サウジーに相手にされないから、お裾分けしようと思って。でもあたしじゃ駄目みたいね。ごめんなさい」

そう言えば、後ろのメイド達もニヤついていた。

どうやらこの女達もサウジーの女らしい。



「とっとと食事して、仕事を始めろよ。お前を生かしているのは金を稼がせる為だけなんだからな」

罵声を浴びせ、ブランと去っていくサウジー。


メイドからは硬いパンと、僅かな野菜切れの入ったスープがテーブルにドンと置かれた。

「お口に合うと良いんですが」と言って薄く笑っている。

その向こうには、上質な肉の焼ける匂いがするのに。


リュシュナがこんな理不尽を許す必要はない。


「要らないわ。貴女が食べると良い」

そう言って、馬車で弁護士事務所に向かった。


弁護士は暗い顔をして、リュシュナを見た。

「調査の方は終了したのですが……………実はですね」


どうやらサウジーは、結婚前からギャンブルや娼館通いをしていたらしい。それも学生時代に王都の悪友に教え込まれ、抜け出せなくなったようだ。


こちらの領地に戻ってもそれは続き、とうとうリュシュナの両親の耳にも入った。そして婚約の解消を打診する段階になり、事故にあったようだ。


何故こんなことになったのか?

それにはカラクリがあった。


サウジーが手を出した女の中に、この町のマフィアの首領(ドン)ガルボの娘がいたからだ。娘と言っても妾の娘で、それ程目にかけてもいないような娘だった。だがその娘がサウジーを気に入り、ガルボに相談した。


ガルボは金になると踏んで、サウジーを唆した。

本当なら、ちょっと脅して小金をむしるくらいの筈だった。

だが、羽振りの良い伯爵家が着いてきたのだ。

逃がす手はない。


真っ当な貴族なら、一生関わらないマフィア。

それががっちりとサウジーに絡み付いた。

そして伯爵家の財産を狙っているのだ。


それも信用していた、幼馴染みの夫を利用して。

そしてサウジーはもう、私の味方ではないのだ。



「なんで………こんなことに……………」


項垂れるリュシュナだが、弁護士はさらに続けた。

「大変申し訳ないんだが、私はこれ以上貴女の力になれない。私も家族を盾に取られて協力出来なくなった。済まない……済まない……」

泣きそうな弁護士は俯いていた。


放心状態になるも、何とか頷く。

「ええ、解りました。御世話になりました」


踵を返すリュシュナに、弁護士は告げる。

「こんなことは言いたくないのだが、貴女は此処を離れた方が良いと思う。命を脅かすかもしれない。現にご両親は…… 現金ならここにも少しあります。こんなことしか出来ないが。貴女には、生きていて欲しいのです」


そう告げられるも、首を横に振る。

「あれでも、あんな夫でも、殺すまではしないと思うんです。領民のこともありますし、直ぐに逃げることは出来ないわ。でもありがとうございます」


そして私は家路に着いた。



家に着けば、夫にそのまま屋根裏部屋へ連れていかれた。

「今日は何処に行ってたの?仕事もしないで。そんなお前には此処がお似合いだ」

ドアが閉められ、鍵をかけられた。


いくら仕事をしても、湯水のようにお金を使われていく。

でも仕事をしなければ、領民が立ち行かぬだろう。


毎日毎日、仕事は執務室で行い。

粗末な食事をして屋根裏へ行くだけ。


いつの間にか、門には屈強な門番が立っている。

訝しく思っていれば、夫が言うのだ。

「お前が、勝手に出歩かないように雇ったんだ。全く無駄な出費だぜ。なあ」

「そうよねえ。もう諦めてあたし達の奴隷になるって言えば、もう一寸自由になれるのに。可愛そうね」

2人とも見下した顔で、自分達が邸の主のように良い放つ。


「な、なんてことを…………」

直接的な言葉が胸を貫く。

実質自由がなく、仕事をして寝るだけだった。


「もうこんな女、娼館に売っちゃえば良いのに。こんな不細工要らないでしょサウジー。それとも本当は好きなのかしら?」

明らかに馬鹿にした言い方だった。


「そんな訳ないさ。こいつには働いてもらって、ブランに贅沢させたいだけさ。それに下手に子供なんか出来て、伯爵家を継がせるなんて騒がれたら困るから抱いたこともない。まあ、抱く気なんて起きないけどな」


酷いわねサウジーと、楽しそうなブラン達。

既に心身が限界だった。

何も希望等持てない。

弁護士にも頼れず、共にいた過ごした使用人達も同じように脅迫されて去ったのだろうし。



矜持等捨てて、あの時逃げてしまえば良かった。

誰にも必要とされていない。

居なくても良い存在。

働く機械みたいな存在。



絶望が支配していた時、仕事机にある手紙を見て心臓が跳ねた。

『お婆様からだわ』

サウジーは、手紙関係について何も言わない。

仕事の関係だと思っているらしいから。



そして封を開けて読む内容に、久々に心が揺れた。


「お元気ですか?

ここは田舎の村で、おそらく手紙が着くのは何ヵ月も掛かる筈


待ちくたびれていたでしょう


ごめんよ


貴女の母、ユー二スは貴族ではないの


貴女のお父様が、他の貴族家にユーニスを養子にしてから嫁いだのよ


元は平民なの


それも辺境のね


ここは魔術師の集落


貴女の母ユーニスも、その血を引く者


花嫁道具の合わせ鏡は、この集落の者なら誰でも使える簡易な魔道具なのよ


貴女が、この村に来るなら止めない


でもその前に、やることがあるのでしょう?


もし貴女が命を賭けても復讐したいなら、この鏡を使ってごらん


きっと力になってくれる


対価は………鏡が決める

理解してもらえないかもしれないけど、永遠にこの鏡は在るの

私が生まれるずっと前から、そして死んだ後も…………



今、私の孫に当たるブレトーミルが、そちらに向かっているけど間に合わないかもしれない

そんな時は鏡を使ってごらん

呪文を書いておくからね


迎えに行くまで、生きていて頂戴ね



貴女を愛するカッサンドーラより」



「お婆様、ありがとうございます」

手紙を握り締めると、生きる希望が湧いてきた。

そしてそのまま眠りに就いたのだ。



翌朝、執務室で仕事をしていると、カタログを持ったブランが駆け込んできた。

「ねえ、このダイヤの指輪が欲しいの。買っても良いでしょ?」


猫撫で声だ、気色悪い。

駄目に決まっている。


「今の領地収入では無理です。散財せずにお金を貯めてから購入されてはどうですか?」

もうこの時は、口答えすれば粗食を抜かれたり、頬を打たれていたので逆らうことも言わずにいた。

生き延びなければならないもの。

今は我慢と、顔に笑顔を張り付ける。

でも買えない物は買えないのだ。それを伝えればさらに激昂する。


「あたしとサウジーの結婚指輪なのに、嫉妬してるのね。この不細工女」

あんまり煩いので、代わりに私の結婚指輪を渡した。

他の良い持ち物は既に盗られていたけれど、これだけは体裁もあるからといつも嵌めていた。でももう要らない。出来るなら結婚前に戻って、サウジーの居ない所へ家族と逃げたい。


「どうぞ」と、渡せば更に怒りを増す。

「こんな物要らないわよ。馬鹿にしてるの?」


「いいえ。割りと良い宝石なので、売れば良い値がつくと思いますよ。お金を貯めておけば、ダイヤが買えるようになりますよ」


「それなら、まあ良いわ。貰っといてあげる」

途端に笑顔に戻るブラン。


やれやれと思っていれば、それを見ていたサウジーが目を細める。

「要らないって何だよ! まさか逃げる気か? そんな事させないからな」

そう言うと、包丁を私に向ける。

逃げなきゃと思い走り出せば、サウジーが背中を突き飛ばす。

そして馬乗りになり、足の腱に刃を当てた。


「ギャー痛い。止めてーーーー!!!!!」

私は叫び体を捩るも、両足の腱が切られた。

出血は直ぐ止まるも、ズキズキと激しい痛みで気絶した。


気絶前に逃げる私を見ていたブランやメイドは、止めることもなく嘲笑していた。良い気味だと言って。



夜中に意識が戻ると、屋根裏部屋だった。

一応あて布はしてあるが、ペラペラで外れそうだった。

憐れみ等ないのだろう。


私は決意した。

合わせ鏡を使おうと。

鏡まで歩こうとするも腱が切れて動かないので、這いつくばって移動する。

蝋燭に火を灯し、呪文を唱える。


すると合わせ鏡に私が映り続け、その1つが単独で動き出し鏡から這い出てきた。


それは私と同じ姿の人だった。声も同じだった。でも、腱は切れていないのか、歩いてこちらに来てくれた。


「大丈夫ですか? いつの時代も酷い人間がいるわね。貴女の望みを言って、私はそれを叶えることが出来ると思うわ」


鏡から出てきた私は、明るく笑って抱き締めてくれた。

何故か私は彼女に謝っていた。

「こんな不細工な姿で出てきて貰って、ごめんなさいね」と。


鏡の私は驚いていた。

「可愛いのに、そんなこと言っちゃだめよ。誰かに言われたの?そんなの信じちゃダメ。貴女は可愛いわ」

「嘘よっ」と、叫んでしまうも、鏡の私は微笑む。


※これから鏡の私を、鏡ちゃんと呼び掛けることにした。

鏡ちゃんの名は、難しくて発音できないからだ。


鏡ちゃんは、私の良い所を教えてくれた。

「緑の丸い目は大きいし、鼻梁も綺麗。唇も小さくて可愛らしいわ。肩までの茶色い髪も、ストレートでスベスベだし、すらりとしたスタイルと長い足は替えが効かないわ。それから、知的で上品だし、etcetc…………」

「もう十分です。ありがとうございます」


真剣な表情で語る鏡ちゃんは、私のコンプレックスを減らしてくれた。


そして暫くすると、鏡から5才くらいの男の子が出てきた。

「ここどこ? ぼくかがみからでれたの?」

キョロキョロしてる天パの可愛い子。


鏡ちゃんが出てきたことで、もうあまり不思議にも思わなかった。 きっと、いろんな世界に繋がっているのだろう。

「お名前は言える?」

「うん。ぼくはアレン・ターミレスだよ」


え、サウジーと同じ姓。

「もしかして、サウジーと兄弟なのかしら?」

アレンは微笑んでうんと頷く。

「アレンはぼくのおとうと。かわいいんだよ」

「はあ、うそ。でも………」


サウジーの母が後妻に入る前、前妻が強盗に入られて亡くなっている。それからショックが強くて、先妻の子はあまり外に出ていないと言われていた。そこに居るアレンがダウジーの兄なら、アレンは鏡に隠されていたことに?

鏡から此方を見ていたのかしら?


「ねえアレン。貴女のお婆ちゃんの名前は解るかしら?」

「ええとね、カッサンドーラおばあちゃんだよ。おかあさんがしんじゃうまえに、おぼえておいてねっていってたの。きっときてくれるからって。でもずっとまってたけど、きてくれなくて。こえはきこえたんだけど、かがみがそろってなくて、はいれないって。でもまっててって」

言いながら泣き出した。

辛かったね。

頑張ったね。

私と鏡ちゃんで、アレンを抱き締めた。

アレンはびっくりして、一瞬泣き止んだけど、また大泣きした。

安心したんだね。


鏡ちゃんが言うには、何かの細工がされてたんじゃないかって。

そして全部鏡を割ると、魔道具の仕掛けが発動するから4枚だけ残されたみたい。あの集落の人が絡んでいるのだろうか?


「アレン、聞いて良い?」

私は聞きづらいことを聞いた。

ここに来たからには、情報の共有が必要だ。

ごめんと思いながら問いかける。


「アレンのお母さんを殺した人を知ってる?」

「うん。おとうさんだよ。おとうさんだった。ちいさいおのでエイって。おかあさん、やめてっていったのに、むねをなんどもきったの。ぼくはおかあさんのうしろにいて、おかあさんがじゅもんをとなえると、かがみにはいってたの。おとうさんはきがついてなかった。おかあさんはずっとかくしてくれたの」


アレンは泣きながら気を失っていた。

酷いことをしてしまった。

ごめんなさいアレン。

膝の上で眠らせて、コート等の古着を被せる。

寒さはこれで大丈夫ね。


取りあえずここを出ないと。

アレンはここで暮らせない。

見つかれば危険に巻き込まれるだろう。

そもそも20才のアレンがこの姿だ。

周囲は混乱するだろう。


鏡ちゃんが見つかれば、サウジーに危害を加えられないか心配だ。

でも鏡ちゃんは言う。

ここは違う次元だから、体を傷つけられることはないそう。

とっても強靭な戦士にもなれるんだって。

重力が1/6だから、どんな奴でもぶっ飛ばせるって。

それって、スー◯ーマ◯みたいね。

(鏡ごとに環境は異なるそうだけど)

期間限定で1週間で戻るみたいだけど、それって召喚みたいだね。



じゃあ、担いで出して貰おうかしら。

私の個人通帳と両親の通帳もあるのよ。

これだけはずっと隠していたの。

どうせ本人か印鑑がないと下ろせないけどね。

マフィアが居るとどうなるか解らないし、今の所ほどほどのお金を自由にさせていたから、ここまで狙われなかったしね。

名を変えて、預金し直そう。

伯爵家のお金は代々の物だから私的には使っていないけど、きっと私が離れれば終わるだろう。

書類仕事は私しか出来ないから、爵位を手放す方向に行くだろう。それを買い取れば、マフィアの目的は1つ果たされるのだろうし。



私はアレンと魔女の集落に行こうと思う。

その前に医者に腱を繋いでもらおう。

一度切れたものは元通りにはならないだろうけど、歩けないと移動が辛いから。

お金も無限ではないしね。


私とアレンは馬車で移動し、隣の町で入院することになった。

名目上私とアレンは平民の親子で、事故の怪我を治す為に入院。アレンは私の付き添い人扱い。



その間、鏡ちゃんと魔術師の集落から来たブレトーミルで、両親の仇を取ってくれる段取り。

当事者がこの有り様で申し訳ない。

アレンが一生懸命頑張ってくれるので、このまま親子になるのも良いと思っているの。手術痕は痛いけど、アレンが撫でると痛みが消えるの。魔法かしら?尊いわ。ふふふっ。






その夜、伯爵家からマフィアの首領(ドン)ガルボの所へ行く、ブランにこっそり着いて行く。 調査した結果で、ガルボから側近AとBに伯爵夫妻の殺害を命令されたことが判明。 鏡ちゃんの握力でAとBの左腕を握りつぶし、自首させたとのこと。


「悪いことしかしない腕なら、もう要らないねえ? どう思う」と。これは左腕潰した後の台詞ね。

AもBも震え上がって泣いて命乞いして、騎士団に走ってinした。

「俺達がやりましたー」と。

今後どんな刑になるかは解らないけど、リュシュナはそれで十分と言う。生きて償ってと。悔しいけれど、結局命令された2人だもの。



そして首領(ドン)ガルボは、ブレトーミルの魔術でその姿を豚に変化させた。人間として裁かれるよりも、豚として捌かれる可能性がある恐怖がお似合いと言うことで。


豚の意識ではなく、人間の意識で豚は辛いだろう。

もうとっくに出荷の過ぎた時期。

野良豚は、人間にも野良動物にも大人気だ。

逃走も餌の獲得も大変だろう。

何れ誰かの栄養になる。

それを見届ける必要はないだろう。




ブランのことはほって置いた。

リュシュナが見放した伯爵家に未来はない。

サウジーと共に沈むと良い。


サウジーには、鏡ちゃんが直接参戦。

ブランと訪れたレストランのトイレで待ち構え、トイレ中にマスクをして背後から入室。

しっかり無性者になれるようにお手伝い。

両玉を握り潰しておきました。

少なくとも子種は死滅できました。

リュシュナは痛そうな顔をして聞いていたが、違う意味の無性者にしたぞと言えば爆笑していた。字は同じだぞと追加攻撃。

スッキリしたみたい。



サウジーの父親には、ブレトーミルから不幸の手紙ならぬ脅迫の手紙を送った。アレンから送った設定だ。

鏡に隠されたアレンは、何故かサウジーの父にも他の人にも見えなかった。成長もしていないので、何らかの魔術なのだろう。


サウジーの父は、気が小さい男だった。

「いつも見ているぞ

俺は力をつけた

お前等一捻りだ

俺が行くまで、首を洗って待っていろ

母は天国でお前は地獄だろうが、同じ黄泉路まで送ってやる。


母を殺した人殺しは、今度はリュシュナを殺すのか?

騎士団に忠告しておくか

朝起きたら、騎士に囲まれているかもな等など」



何百通も手紙を送られ、ガルボやサウジーのことを聞いて平静ではいられない。常に怯え憔悴していく。

結果、自首した。

怯えて生きる等、脆弱な精神には耐えられなかった。

それに伴い爵位は剥奪。

サウジーの母は伯爵家に身を寄せたが、いつまで伯爵家がもつかは解らない。



その足で教会に行った鏡ちゃんは、白い結婚を証明してもらいリュシュナに伝えた。リュシュナは、そんな恥ずかしいことさせてごめんなさいと謝るも、大丈夫だと笑う。いつかリュシュナが鏡から呼ばれた時に、その子を助けてねと言うのみだ。



教会で白い結婚を証明されたリュシュナ。鏡ちゃんはリュシュナに確認し、サウジーが無性者だと公言した。付き合う女達が誰も妊娠しないことが証拠だと。


それでなくても既に玉なしサウジーに、周囲は悪評を流す。

女達は否定するも、金を貰って庇っていると嘲笑う。ブランも馬鹿にされていた。

「いくらルックスが良くても、玉なしはねえ。でも体が楽で良いわね」とか。

「いくらお金があっても、私なら耐えられない」とか。


ブランは衣装やアクセサリー等を自慢し、うざかった為嫌われていた。相手に「そんな安物なんて、恥ずかしいわ」等と、喧嘩も売っていた仕返しを受けたのだ。



そんな自慢をできるアクセサリー等も、資産がなくなり破産するまでの話だった。



マフィアのガルボは行方不明。

サウジーは破産。

それでもギャンブルは止めず、愛している筈のブランを娼館に売り飛ばした。

「嫌ー、助けて! 娼婦なんて最低じゃないー」

その発言で、娼婦仲間にも虐められるブラン。

環境に堪えられず、次第に病んでいくのだった。


勿論、今まで購入した物全て質屋に売った。

サウジーは、縋りつく母親を足蹴にしてそのまま死亡させ、騎士団に捕まり鉱山送りになった。

サウジーの実家は、既に爵位剥奪されている。




リュシュナはと言えば、サウジーの無性者の噂を流した後、アレンと魔術師の集落に住んでいた。

鏡から出たアレンは、これから成長できるそうだ。

一安心だ。


カッサンドーラに足の腱を治してもらい、後遺症も亡くなった。

こちらに戻る際、鏡だけは持ってきていた。


「これはまた誰かの嫁入りに渡すのさ」と、カッサンドーラは笑う。

「まあ代償はあるけど、生きてなんぼだからねぇ」と。




鏡利用の代償は、鏡に映った別の誰かを救うこと。

誰かが鏡を使う時、体を吸い寄せられて自然に鏡に入るんだとか。

その時に、一番解決可能な人が出るんだとか。

選ばれない人は即解散で、選ばれた人も解決後解放されるらしい。


鏡は存在してから長いので、いつの時代の人が来るか解らないと言う。過去か未来か現代か、それは悩みによるところ。


姿は鏡に映った人になるが、別人の集団が助けに来る。





問題が解決するまで、仮初めの双子が誕生するのだ。








12/26 日間ヒューマンランキング71位でした。

ありがとうございます(*^^*)

12時、69位でした。ありがとうございます(*^^*)


6/7 23時 日間ヒューマンドラマ(短編) 28位でした。

ありがとうございます(*^^*)


 誤字報告ありがとうございます。

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