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ガラ

作者: 黒鉦サクヤ

以前、タイトルだけいただいて、好きに妄想を膨らませて書いた話です。

 特別な存在と人間を結ぶ祝祭は、世界から消えてしまった。


 人間が精霊を信じなくなってしまったからだ。見える者はいなくなり、存在を感じる者もいなくなった。そして、精霊たちは人間に手を貸すのを止め、精霊界に引きこもるようになる。

 すると、世界のバランスは崩れ、人間界は荒れた。寒暖差は大きくなり、灼熱地獄か寒冷地獄の二択になる。今までは精霊の加護により、悪天候でもなんとか育っていた草木も枯れ、地上では作物が育たなくなった。青々と葉を茂らせていた木々は、もうどこにもない。元草原だった場所を駆け抜ける風さえも、爽やかさなど欠片もなく死んだようだった。


 日に日に食べるものもなくなり、食料を巡っての争いが世界中で勃発した。生きるために必要な飲水さえ見つけるのが難しくなり、人は信じることをやめた精霊に縋った。

 そんな人間たちを精霊は笑う。地上にすべてが無くなってからでは遅いのにね、と。


 しかし、彼らは人間を再び助けることにした。自分たちの愚かさを悔み、必死に請う者ばかりだったからだ。

 ただ、無から何かを作ることは高位の精霊でも難しい。そこで、あるものを利用することにする。地上には愚かな人間しか残っていない。


 ある者は葉を茂らせた大樹となり、ある者は草原を走る獣に変わる。優しい笑みを浮かべていた者は美しく可憐な花を咲かせ、食べることが好きだった者はツルを伸ばし土の中に育つ芋に変わった。

 この世界から消えたものを、人間を元手に再生させていく。精霊は狂ってしまった気候を元通りに直した。こうして精霊を信じ、栄えていた世界を復旧させたのだった。


 精霊たちは見返りに、祝祭を希望する。しかし、その様式は今までとはまったく違うものだった。

 人々は精霊を敬うことを忘れ、世界を滅ぼした。ならば、忘れないようなものを与えればいいと精霊たちは考える。

 今までの祝祭は、人が捧げものをしそれを受け取るのが常だった。けれど、これからは受け取るだけではなく、こちらの存在を忘れないよう彼らによく刻まなければならない、と。

 今、地上にあるものはすべて人間から作られている。それを知らずに、人は消費し自分たちの栄養としている。それを、祝祭の日に毎度知らせてやればいいと精霊は思う。


 木になった者を人間に、食糧になったものを元の姿に戻すのだ。祝祭の日には、かつて人間だった者たちが元の姿を取り戻す。そして、その中から一人だけ祝福を与え、人間へと戻してやるのだ。

 選ばれなかった者たちはその日が終わると同時に、また木となり花となり、人間であることをやめる。それが、精霊によって新たに作られた祝祭だった。


 かつて人間だった者たちは、祝祭で選ばれるのを心待ちにし、人間であり続けたものは日々の暮らしで消費しているのが同族であることを毎日思い出しながら過ごす。決して精霊の存在を忘れてはならないと心に誓いながら、生きるしかない。忘れれば、この世界の足りなくなった動植物へと変えられてしまうのだ。

 すべての人間が人間らしく過ごせる祝祭は、咲き乱れる花が消えた白黒の世界だ。滅んだ世界を目の当たりにし、何もなくなった地獄を体感する。

 それが、一度世界を滅ぼした人間に与えられた祝祭だった。 

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