『江戸川エルフ』
◇『江戸川エルフ』
西洋ファンタジーの定番亜人種、優美なる長耳のエルフ。
虎門さんが想像していたエルフは「美しい」「かわいい」「神々しい」といった感じらしい。
「うちエルフデッキばね、組んでみたかとよ!」
「ああ、名探偵エルフいっしょに見に行った影響か。俺のを参考に今度持ってくるよ」
「わーい! たいぎゃー楽しみにしとるけんね!」
ここで虎門さん語小解説。
「たいぎゃー」は「とっても」と同じ意味だ。別に「タイガー」とは関係がない。
後日、俺は虎門さんにカードショップの卓上でエルフデッキをお披露目した。
ありもしない虎耳や尻尾が期待感にそわそわ躍動するさまが目に浮かぶほど虎門さんは食い入る。
エルフデッキ。
緑の領地カード多数と種族:エルフのカードを中心にした中速殴り倒しデッキだ。
TCGにおける「緑」や「自然」は大抵、豊かな大地の恵みを想起させる役割を与えられる。
カードを使用するためのコスト基盤を成長・加速させ、重くて強力なカードを使うのが一例だ。
このエルフデッキはやや軽量でコスト基盤を支える序盤から中盤の素早い展開を得意とする。
特にコスト1や2の小型で優秀なエルフカードが四枚ずつ投入されている。
虎門さんはその代表例【ラクロスのエルフ】を手にして目をぱちくりさせ、驚愕する。
「か」
「か?」
「かわいくなかっ!? なにこれ!」
【ラクロスのエルフ】は数十年前のTCG黎明期の海外産カードだ。
そのイラストは日本の現代基準エルフとはかけ離れている。もし「ラクロスのオーク」という名前だと教えたら信じるだろう、という不気味さと醜悪さを備えている。
他のエルフにしても全体的に筋骨隆々とした男が多く、鋭利な剣や重たい弓がよく似合う。
森の貴婦人どころか森の蛮族だ。
「うちの知ってるエルフと違う……! 森で会ったらクマより怖かっ!」
「WTGでは【クマ】のパワーは2だが、この【鉄葉のメダリスト】というエルフはパワー4だな」
「金太郎さん!?」
まさかり担いだ屈強なエルフがクマを負かせば確かにエルフ金太郎になってしまうか。
とかく虎門さんはカルチャーショックを受けて呆然としていたが。
「……あ、だけんこんデッキ、金太郎飴みたいに似たカード四積みばっかと? 金太郎飴エルフ?」
「でたらめなデッキ名をつけないでくれるかな!?」
「これはこれで味わいあってよかとけども! うちが組みたかとは名探偵の江戸川エルフちゃんみたいなかわいかのがよかとよ~、WTGはまだよくわかっとらんし」
「やっぱり虎門さんはイラストアド重視か。そうだな、じゃあ……」
俺は複数のTCGからエルフ関連のものをチョイスして掲示してみる。
あーでもない、こーでもない。
なかなか難航するが、ちょっとめんどくさい反面、試行錯誤が楽しくもある。
共通の趣味を通じて会話が盛り上がるというのは俺にとって至福のひとときだ。
「あ、これかわいかね~♪」
と美麗なエルフに一喜一憂する虎門さんの方こそ、かわいいと言いたい。
「うーん、どれが一番に江戸川エルフらしく見えるやら」
「なやましかねー」
しかし結局、その日はエルフデッキが決めきれず、次回に持ち越しとなるのだが……。
一週間後。
虎門さんは「江戸川エルフちゃんっぽい理想のエルフデッキ決まった!」と写真を送ってきた。
それは版権集合系TCGに参戦した新発売の「名探偵エルフ スターターデッキ」だった。
「……ぽいじゃない! 100%だコレ!?」
眼鏡の素敵なロリ探偵、江戸川エルフは俺に『バーカ☆』と言いたげに不敵に微笑んでいた。