『世界を滅ぼすには』
◇『世界を滅ぼすには』
虎門さんは時々といわず、よく妙なことを言い出す。
毎度のファミレスで注文した品が届くのを待っている間に、またなにか思いついたようで。
「カードゲームのアニメ、いきなり世界を救う話になること多くなかー?」
「ああ、こないだ最終回だけいっしょに見たもんな」
虎門さんはどこか虚空を見つめながら言った。
「うちもほしい、世界を滅ぼすカード」
「そっちかよ」
「乙女のラスボス願望を満たしてくれる素敵で最強のカード、よかね~、ほんによか~」
空想する虎門さん。
一体どんなラスボスカードを思い描いているのやら。
「ばってんいざ実際に遊べるカードになっとっとは本物より弱くなか?」
「劇中そのままだと強すぎるんだよ」
「使ってみたかと思わん?」
「ええ……」
虎門さんはレシートを取り出して、さささっと書きつける。
プロキシという手法で、実際のカードがない時に判別のつくような紙を代用品にする。
レシート紙に必要最小限の名前などを書いて、カードスリーブ内で裏向きにしておいた実物のカードにはさみ、本物代わりにみなす。
もちろん公の大会や真剣勝負では使えないが、フリー対戦では相手の許可次第だ。
「ふっふっふっ、できた! 世界を滅ぼす、この世にたった一枚だけのラスボスカード!!」
「制作費0円か、すごいな」
「食事が終わったら試してよか~?」
「よかよか」
「わーい」
そして食事後、いざプロキシ入りデッキをまわした結果――。
虎門さんの負け。
「なして!? なして世界を滅ぼすこの世に一枚だけのカードを入れてボロ負けると!?」
「いや、だって虎門さん、一枚しか入れなかったでしょ」
「うん」
「デッキは数十枚あるのに、狙った一枚を確実に引くのは無理があるってのはわかるよね」
「わかる」
「それはうん、手札に握れないのは仕方ないんじゃないかな」
「うーーーーー!」
虎門さんは子供っぽく悔しがる。
「次は三枚にしてやってみる?」
「イヤ! ダメ! 一枚がいい! 世界を滅ぼすカードはたった一枚じゃなきゃダメとよ!」
こだわる虎門さん。
数戦やって、ようやく降臨するラスボスカード。
その絶大なカードパワーによって一気に戦況をひっくり返し、俺の手駒を壊滅させてくる。
「絶望せよ! ふーはっはっはっはっはっ! 世界は今、滅びの時を迎えるのだー」
「くっ、流石に最終回仕様のままだと反則じみてるな」
「うちはターンエンド! さぁ、あきらめるんだな公知くん!」
「ドロ―……仕方ない、サレンダーだ」
「え?」
「ん?」
「なしてあきらめると!? 世界が滅んでもよかとね!?」
「いや、ここから逆転はこのドローじゃ普通に無理なんだが……」
「貸して!」
虎門さん、またレシート裏に書き記す。逆転のカードを、好き勝手に。
そして山札の上に置く。
「世界を救うカードば創ってみたとです」
「創った!?」
「さぁ、あきらめなければ奇跡が必ず起きると信じて、運命のドローばすっとよ公知くん!」
「お、おう……」
気を取り直して、虎門さんの無茶振りに答えるべく、俺はカードをドローした。
「俺のターン、ドロー! き、きたぜ、逆転のカード! これで俺の勝ちだ! ……いいのかコレ」
「わぎゃーん!! 負けた~!」
ラスボス虎門さん、全戦全敗。
こうして世界は虎門さんの魔手から虎門さんの奇跡によって救われた。