『子犬を拾ってきた』
◇『子犬を拾った』
子犬のカードを拾ってくる虎門さん。
いつもの喫茶店の卓上に、煤けた埃っぽい子犬のカードを虎門さんはそっと置く。
愛くるしい絵柄なれど光ってもなければ強くもなく、典型的な古い雑魚カードだ。
「あんね、ゴミ捨て場のダンボールの中に捨てられとったんよ、この子」
「元の場所に返してきなさい」
「なして!? 公知くんひどいっ!」
「傷んだコモンカードなんて使い道ないゴミなのはわかるだろう? どうしても使いたければ美品か、いや、それにしたって弱カードすぎる……」
哀愁漂う子犬のカード。
ダメージ品、傷物のカードでも使えないことはない。むしろ問題はゲーム上の性能だ。
「虎門さん、ただでさえトレカ軒並み弱いのに、さらにデッキを弱くしてどうするのさ」
「ばってん公知くん、うち、運命ば感じるとよ」
虎門さんはトレカが弱い。
トレカよわよわ虎門さん。
その原因のひとつは、カードの採用基準に個人的思い入れが強く反映されることだ。
しかしそういう風変わりなところも虎門さんの人間的魅力だと俺は思ってもいる。
「わかったよ、じゃあ、使い道を考えてみる」
「わーいわーい! 公知くんありがとー!」
ぎゅむっと気軽に抱きついてきて、全身で感謝を示してくる虎門さん。
お互い、彼氏彼女の関係性なのだからハグ程度はまぁ、して問題はないはずなのだけれど。
考えていたデッキレシピが一瞬消し飛ぶくらいには、ちょっと俺には刺激が強かった。
そして翌日……。
「【駐屯所の子犬】はこのデッキ構築上なら採用意義がある。この種族と低ステータスじゃないと成立しないコンボだから、ネタデッキの範疇だけど使えるには使えるよ」
「わっはーい! じゃあ公知くんもここはひとつネタデッキでお相手ばしとくれるー?」
「はいはい、付き合いますとも」
“駐屯所の子犬”は弱いなりにぬるいデッキ相手には活躍することができて虎門さん満足げ。
手加減してるとはいえ五戦二勝三敗は虎門さんにしては頑張った方だ。
「わーい! ばんじゃーい! ちゃんと【駐屯所の子犬】が活躍しとったとすごかね~」
「ああ、【犬を溶接せし者】のおかげだな」
【犬を溶接せし者】――。
墓地の「犬」を相手のカードにくっつけ、その能力やステータスを同一として扱う。
よって、弱小な「犬」のカードほど相手の強力な手駒を雑魚に変換できる強烈な除去カードだ。
「……子犬、これ、死ぬよりひどかこつなっとらんね?」
片や、駐屯所で兵士にかわいがられている子犬。
片や、闇夜にまぎれて犬と悪漢をくっつける不審者。
ゲーム性能上有力なコンボは、時に思いがけない物語上のコンボを発生させることがある。
「……虎門さん」
「うん?」
「子犬だってカードとして遊んでもらえて嬉しがってるはずさ」
「……そったいね!」
そして虎門さんは意気揚々と叫ぶ。
「てややー! ドラゴンに【駐屯所の子犬】ば溶接やー!」
虎門さんは満面の笑みで子犬のカードと戯れる。
めでたし、めでたし。