『スライム』
◇『スライム』
暗き迷宮の奥底。
ぐっちょぐちょのぬとぬとした粘液にまみれる虎門さん。
矢尽き剣折れ、迫りくるスライムに大ピンチ。
「ぎゃわわわわ……! ひっ、ぬるって、冷ぴたってする!」
スライムは装備品に触れると無骨な鉄の剣をみるみるまに溶かしていく。
そして無防備になった虎門さん。
必死の抵抗もむなしく、虎門さんはぬるぬるのねとねとに飲み込まれていく。
「ダメ、もう、うち……あ、あ~れ~!」
――そのような熱演を演じて、カード対戦中の虎門さんは俺のスライムに惨敗した。
妄想を通り越して、これこそまさにロールプレイだ。
スライムの粘液におぼれて溺死した虎門さんは恨みがましくテーブルに突っ伏してつぶやく。
「公知くんにこんな趣味あったと知らんかった……ちょい引くごたる」
「カードで攻撃するたびに人を特殊性癖の持ち主みたいに言うのはいかがなものかな!」
「なんね! このつよつよスライム! スライムってもっとこう可愛くて弱いやつじゃなかと!?」
虎門さんはぷんすこ憤ってカードを指差す。
【装飾のみこむ液体】
今回じわじわと虎門さんを追い詰めた恐るべきカードだ。
華美な宝飾品を纏った貴族が金の腕輪を今まさに大きなスライムに溶かされるイラスト。
フレーバーテキストは『だから言ったろう旦那、死んじまったら御大層な装飾品も意味はない。とくにこいつに襲われた時は、死後の世界にも持っていけやしないのさ』と記載されている。
そして主な効果は、相手の場のアイテムをすべてゲームから追放する、という強力な除去だ。
これで虎門さんの装備品カードを除去して勝利した、というだけのこと。
虎門さんは時々、カード対戦にごっこ遊びを交えてくる。今回もソレだ。
「スライムは元々古典的な西洋ファンタジーやTRPGでは雑魚モンスターじゃないんだよ。不気味で、容赦なく冒険者を殺害する危険なやつなんだ。WTGのスライムもその延長線上だからエグい」
「ゲームだと序盤のかわいい雑魚ってイメージとに不思議かねー」
「大人気ゲームをきっかけに古典のイメージより新規のイメージが定着する、ってのはエルフでも同じだな。ある作品でそう表現されるまで元々エルフに耳が長い設定なんてなかったらしい」
「ほえー、だけんWTGのエルフあーなっとっと」
「なっとっと?」
「そ、なっとっと」
どういう意味だ。たまに虎門さん語はいつも聞いてる俺にもわからないものが飛んでくる。
「なっとっと……エルフが納豆を食べてる?」
和食一式にちゃぶ台に座って納豆かきまぜてる金髪美少女エルフさんの図を想像する。
これはこれでアリだ。
「なっとっとはね!」
「なっとっとは」
「なっているの、てことですばい。だからWTGのエルフはああなってるのね、て言ったとよ」
「な、なるほど……」
虎門さん語は奥深い。そしてかわいい。
「でね、公知くんのスライムだけん、グロこわホラーな殺し方してくるスライムじゃなかと思って」
「いや、まぁいくらリアルな強敵でもそれを想像されると困るな……」
「服だけ溶かしてくるエロスライムば想像してみたとけど、どう!? イメージ正解しとる!?」
虎門さんの迷演技の正体に俺はおどろきだ。
「なに考えてんのハレンチな!?」
「じゃあ公知くんの想像するスライムどーなっとっと? うちば骨まで溶かし尽くす……?」
「……ぐ、グロくない方でご想像ください」
「えへー、公知くんやらしか~」
後日、虎門さんも同じスライムを仕返しに使ってきた。
しかし俺の装備品が除去されてスライムに攻められる様子は虎門さん以外誰得なので割愛する。
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