『【RRR:FAインフィニット・スラストドラゴン】売ります』
◇『【RRR:FAインフィニット・スラストドラゴン】売ります』
虎門さんはカードバインダーをぐぬぬと睨んでいる。
喫茶店「ミトラ」は店休日につき、俺と虎門さんは貸し切り状態の店内でくつろいでいる。
虎門さんのデッキ構築を手伝っていた矢先、問題のカードを思い出したらしい。
「【FAインフィニット・スラストドラゴン】……」
「VFの環境カードだっけ、ドラゴンパーティデッキを組むなら三積みしたい切り札だな」
「……売りたかと」
「ん?」
「売りたかとよ、スラゴン」
虎門さんは机に突っ伏して、バインダーの中央で燦然と輝く最強格のカードを恨めしげに眺める。
なお、環境カードというのは『対戦ゲーム環境を左右する重要な流行のカード』といったものだ。
この場合、【FAインフィニット・スラストドラゴン】はカード大会で優勝報告をよく見かける強力なデッキタイプに投入されている。
それだけ(以下略して)スラゴンは需要が高く、VFユーザーなら欲しがる人はいくらでもいる。虎門さんみたいに渋い顔して眺めるもんじゃない。
「なんかねー、ドラゴン性に合わんとよー、うち」
「ああ、竜虎相打つって言うもんな」
「絵柄の趣味もあるとけど、そもそもショップ大会なんて滅多に出なかけん、スラゴンあと二枚集めて環境デッキば組んだって使い道なかとよ」
「眠れる竜も宝の持ち腐れってわけか」
最強の王竜を従えて、玉座にふんぞり返るカードクイーン虎門さん。
……というのは実際問題むずかしいだろう。環境デッキをコピーして最善のデッキを真似たとしても、トレカよわよわ虎門さんの技量だと使いこなしきれない可能性が高い。
それに環境デッキというのは「使えば必ず勝てる」というわけではなくて、勝率は高くても弱点を突いてくる対策デッキ、また同デッキ対決などを乗り越えなくてはいけない。
「なにより次の制限改定が怖いんよ!」
「あー……。一枚制限までは一気に規制されるんじゃないか、って噂だからなぁ」
制限カード。
公認大会などではゲームバランス調整のために強すぎるカードを規制することがある。
仮に大会参加者16人中12人がスラゴン採用、なんて状態は多種多様なデッキタイプが活躍できるチャンスを奪っている。こうなると不健全な環境だとして、使用できる枚数が削られることがある。
「一番高い今こそスラゴンば売る! そして本命ば買う軍資金にすっとよ!」
「トップレア以外を目当てに箱買いするとたまによくあるやつだなぁ」
「だけんねー公知くん、ネットフリマに出品代行してもらえん? 手数料はちゃんと払うから~」
「わかった。それと手数料は喫茶店のサービス券でいいよ」
「わーいわーい、ありがとー公知くん!」
虎門さんは晴れ晴れバンザイしてるが、俺もよく不要なカードを処分するために日常的にフリマアプリやショップの買取を活用しているので、どのみちそこまで手間はかからない。
翌日、スラゴンは三千円で取引成立した。
『孫がほしがっていたカードが無事に買えてよかったです』
と、うれしいコメントつき。
上機嫌の虎門さんは「こりゃーおまけで要らなかドラゴンつけとかにゃ!」と他の余ってたRRやR等の、そこそこ程度のレアカードを同封して発送する。
すべてが無事に解決したかに思えた一週間後、しかし悲劇が起きた――。
『FAインフィニット・スラストドラゴン禁止制限入り』
『参考買取価格2500円→250円』
VF界隈に激震が走り、当日SNSの総合トレンド入りする大暴落事件が発生したのだ。
虎門さんは青ざめてうろたえる。
「う、うち、詐欺で捕まっとじゃなかね!? お、おばあちゃんごめんなさい!」
「……環境カードには常につきまとう問題だ、割り切ろう」
一転、通夜ムード漂う二人。
しかしそこに購入者からの商品到着連絡コメントが届く。
『無事に届きましたのでご連絡差し上げます。八歳の孫は大喜びしてくれました。同封のおまけカードも気に入っている様子です。とても良いお取引をありがとうございました』
「ち、ちびっこなら禁止制限なんて関係ない、か」
「……がまだせ! がまだせ(※元気だせの意)、スラゴン!!」
その後、FAインフィニット・スラストドラゴンは九ヶ月の投獄期間を経て、制限カードとして表舞台に返り咲き、販売価格1500円にまで価値を回復、長きに渡り活躍するのだった。
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